小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

後味の悪い事件

INDEX|20ページ/26ページ|

次のページ前のページ
 

「1階部分は、主に車の駐車場になります。そして2階部分は、ボイラー室と、ちょっとした集会場のようなところと、自転車や自動二輪の駐車場になりますね」
「集会場というと?」
「公民館のようなもので、このマンションが一つの区のようなものになっているので、公民館が満室な時などは、たまにここで、区の集会が行われることがあるんです。地下室のようで、あまり雰囲気はよくないので、最近はほとんど使用していませんけどね」
 と、管理員は説明した。
「じゃあ、このマンションの一階部分は表から入れるんですか?」
 と山崎刑事が聞くと、
「ええ、土手と反対側の部分から、入れます。ただ、こちらは、土手側の正面玄関を3階とし、ロビー階にしたものですから、1階部分というのは、正直、平地よりも少し低い位置にあって、少し穴を掘った形に作られています。そこも一つのこのマンションの特徴ですね」
「よく分かりにくい建物なんですね?」
「1階部分が、少し低い位置にあるので、あちらはそんなに目立ちません。駐車場も軽いスロープになったところを降りていくので、まるで、地下駐車場を思わせますし、通路に入るにも、表からだと、少し短いですが階段になっているので、見つけにくくなっていますね。一般家庭の勝手口よりも見つけにくいという感じでしょうか?」
 という管理人に、
「じゃあ、階上に上がるには、どうすればいいんですか? この間事件の時に使ったエレベーターは、ロビー階が一番下だったようですが」
 と山崎刑事は聞いた。
「ええ、その通りです。気温的には非常階段だけしか一般の方は使えませんね。でも、集会場の奥が倉庫になっているので、そこに搬入するために、1階から3階まで、業者が使用する、荷物専用のエレベーターが存在します」
「じゃあ、業者と管理人さんしか使用しないのですね?」
「そういうことになります」
「管理人に黙って、そこを使用するというようなことは?」
「それはできないようになっています。普段は、移動できないようになっているんですよ。私がロックを解除しない限り、エレベーターは扉すら開きません」
「なるほど、そういうことだったんですね。少し分かってきた気がします。ところで、このマンションには、防犯カメラはどれだけついていますか?」
 と聞かれた管理人は、
「そうですね。各階のエレベータの前と、ロビー階のロビー部分を映した映像ですね。基本的にはそれくらいでしょうか?」
「じゃあ、非常階段などは?」
「非常階段には防犯カメラはありません。基本的に。表からは開けられないようになっていて。住民が表に出る時くらいしか使いませんからね。もっとも、階下に近いところで、配達員などが、ロビーを通らずに出ようとして、非常階段を使う業者もいるにはいるようですね」
「でも、カギを開けて出ていくのだから、カギが開いたままでは?」
「いいえ、非常階段だけは、自動ロックになっているんですよ。基本的に自動ロックがかかっても、問題ありませんからね。でも、マンションのお部屋は自動ロックにしてしまうと、カギを持たずに出かけてしまった時に、カギを閉じ込めてしまうことになるので、そのリスクを考えれば、表から施錠するのが一番いいと考えていたんですよ。でも、それも昔から言われていることとして、カギをかけ忘れた時の、泥棒のリスクを考えれば、それも怖いかも知れないという話もあって、今は結構賛否両論というところですね。この問題はうちだけではなく、他のマンションでもありえることなのかも知れないと思っているんですよ。防犯と便利性というジレンマのようなものですね」
 と管理人はいうのだった。
「なるほど、それじゃあ、非常階段は一度表に出てしまうと、もう一度階段に戻ることはできないということですね?」
「ええ、ただし、それはあくまでも、ロビー階から上の話です。1階と2階部分の非常階段は、ロビー階まで進むための唯一の通路になりますからね。ここでは、カギはついていますが、オートロックでもなければ、施錠することもない。いつでも開放している状態です」
「ということは、住宅部分のメインの移動手段はエレベータであり、非常階段は、あくまでも補助のような状態で、逆にロビー階から下は、荷物専用のエレベータはあるけど、あくまでも移動手段は、開放式の非常階段になるというわけですね?」
「そういうことになります」
「分かりました。じゃあ、お願いがあるんですが、捜査のために、こちらの防犯カメラの映像をお借りすることはできますか?」
 と山崎刑事は言って、
「ええ、いいですよ。その時の映像は残っているはずです。基本的に、10日間を周期に録画していて、10日すぎると、また頭からの録画ということになっているので、数日前なら残っているんですよ」
 と管理人がいうので、
「ありがとうございます。早速警察の方で、見させてもらいます」
「お願いします。もし、「また何かあれば、こちらからもお話させていただきますね」
 と言って、管理人は映像を渡してくれた。
 ところで、このマンションは、今、708号室の殺害現場はもちろんのこと、被害者が元住んでいた部屋にいた508号室も立ち入り禁止になっている。仰々しい雰囲気に包まれたマンションは、どこか緊張から冷たさだけが感じられるので、管理人からすれば、早く警察が事件を解決してくれることを願うばかりだろう。
 だからこそ、管理人も、警察への協力は惜しまないようにしようと思っている。
 山崎刑事が、捜査資料を預かって、署に戻ると、桜井警部補が待ち受けていた。
「やあ、ご苦労さん。何か分かったかい?」
 と聞かれた山崎刑事は、先ほど聞きこんできた法地に関しての話題を再位警部補に話した。
「なるほど、あそこは法地構造になっているのは分かっていたけど、実際に移動手段などの詳しいことや、ロビー階から下に関してはあまり意識をしていなかっただけに、それを調べてきてくれたのは実にありがたいことだと思う」
 と言って、山崎刑事をねぎらっていた。
 そんな話をしている時、桜井刑事に電話が入っていると連絡があり、電話に出てみると、その声には聞き覚えがあった。
「僕、松岡です。先ほどは失礼しました」
 と、すっかり大人になった挨拶をする松岡に桜井刑事は思わずほほえましい気分になったが、わざわざ嫌いな警察に電話をしてきてくれるということは、何かを思い出したということかと思った桜井警部補は、すっと気持ちを引き締めていた。
「どうしたんだい? 何かを思い出したのかな・」
 と、やわらかく聞くと、
「ええ、どうでもいいことなのかも知れないんですが、ちょっと気になることがあったんです」
「というのは?」
「はい、あの日私は5階に配達するのに、エレベータを使って、ロビー階から5階まで来て、留守だったので、少しの間、確認のために、そこにとどまっていたんですが、モノの1分くらいだったと思うんですよ。それで不在だと判断したことで、私はすぐにエレベーターまで戻って、下行きのボタンを押したんですが、ちょうどその時、エレベーターが8階にいたんですよね?」
 と松岡君がいうではないか。
「何がいいたいのかな?」
作品名:後味の悪い事件 作家名:森本晃次