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後味の悪い事件

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「それにしても、どうして、一年前に引っ越した人がいきなり現れて、前住んでいた部屋ではないところで殺されなければいけなかったんでしょうね?」
 と、一人の捜査官が言った。
「その件ですが、先ほどお話しました通り、被害者は、実に暗い人間で、あまり人付き合いもうまくできる人間ではなかったということで、捜査にはまだまだ時間が掛かると思いますが、とりあえず分かっている範囲だけでいうと、山岸という男は、県内にある不動産関係の会社に勤めているようなんです。不動産関係の営業所間での転勤で、この街から、だいぶ離れたところに飛ばされたことで、あのマンションから出ることになったそうです。もちろん、マンションで知り合いもいませんから、密かに引っ越したそうなんですが、隣の住民も、いつ引っ越したのか知らなかったようで、反対側の隣の人は、引っ越したということさえ知らなかったと言います。今は、山岸の住んでいる部屋には別の住人が引っ越してきていて、その人も暗い人だというので、知らなかったというのも無理もないことかと思います」
 と黒岩刑事が答えた。
「どうして転勤になったのかな?」
「それは、会社の話では、通例の転勤だということでした。会社内では、暗い性格というのもあってか、可もなく不可もなくという人だったようです」
「そんなに暗い人間が、よく営業なんて務まるな」
「まあ、お客さんの中には、営業が鬱陶しいと思っている人も少なからずいますからね。そういう意味で、必要以上のことを話さない山岸のような営業も、それなりに客受けという意味ではよかったんじゃないですか?」
 と黒岩刑事は言った。
「確かに、家やマンションのような高価なものを買おうという人にとって、変に明るく、そのせいで軽く見える人はあてにならないと思うのも無理のないことなのかも知れないな。そういう意味では、黒岩刑事の言う通りなのかも知れない」
 と、桜井警部補は言った。
「今の事務所での山岸もそうなのかい?」
「はい、そうですね。社内受けは正直していないようです。実際に、同じ営業の人でも、何で自分と山岸の営業成績が変わらないことに不満を持っている人も多いくらいですからね。彼らがいうには、自分たちは一生懸命に、営業という仕事に真摯に向き合っているのに、山岸は嫌々やっているようにしか見えない。営業があんなに無表情だったら、普通なら誰も相手をしないと思うはずだといっていましたね」
「確かにそうだよね、まるで通夜のような姿勢で営業されても、この人何を考えているのかって思うのが関の山なんだろうけどね」
 と、桜井警部補は言った。
「管理人は、山岸について何か言っていたかい?」
 と桜井警部補が聞いた。
 初動捜査の段階で、最初に聞いたのは、桜井だったが、そのあとで落ち着いて考えてなにか思い出すことがあるかも知れないと思ったのだ。
「目新しい情報はありませんでしたね。ただ、一つ気になったこととして、山岸にしては、転がっていた死体は小さく見えたといっていましたね。倒れているからなのかも知れないと、そのあと言っていましたけどね」
 と、黒岩刑事は言った。
「とにかく、山岸という人物に対しては、皆一律に、暗い人間で、何を考えているのか分からないところがあるというイメージなのかな?」
 と桜井警部補が聞くと、
「ええ、その見解でいいと思います。だから、このマンションでも誰か知り合いがいたとは思えないんですけどね」
 と聞くと、
「じゃあ、殺された山岸と、元々のこの部屋の住民である、川崎明美という女の関係については、何か分かっているかね?」
 と言われ、
「いいえ、それは分かっていません。何しろ、川崎明美が行方不明ということなので、何とも言えないですね」
 と黒岩刑事がいうと、
「じゃあ、川崎明美についてはどうなんだい?」
 と聞くと、今度は、山崎刑事が手を挙げて立ち上がった。
 メモを見ながら話し始めたのだが、山崎刑事も何となく口が重たい感じがした。
 正直、ハッキリとしたことが分かっていないのだろう。メモを持っているが、そこにどれだけのことが書かれているというのだろう。
「川崎明美という女性に関しては、調べてみると、管理人さんの言う通り、3年前に離婚して、今では一人で暮らしているようです。離婚の原因というのが、夫の不倫だったということで、慰謝料を貰い、住まいは今のマンションで住むことを条件に、旦那には出ていってもらったということですね。よくある話の一つというところでしょうか。そして、今は夜の街で水商売をしているようです。場末のスナックに勤めているということでしたね」
 というのが、山崎刑事の話だった。
「夜の店ということは、じゃあ、今回の旅行というのは、スナックの客とねんごろになって、それで旅行としゃれこんだって感じなのかな?」
 と、桜井警部補が聞くと、
「どうもそうではないらしいんです。彼女の勤めているスナックに行ってみましたけど、彼女を贔屓にしている客はいるということですが、その人は、前の日に、彼女を訪ねて飲みに来たそうなんです。そこでママさんから、彼女が休みだと聞かされて、せっかくだからって、他の女の子と楽しく飲んでいたということでした」
「ということは、川崎明美という女は、贔屓の客がいたとしても、完全に彼女目当てだというわけではないということかな?」
「そうなりますね。ということは、今回の旅行は、男との旅行という線は薄いかも知れないですね」
「でも、店に関係のないところで、密かに付き合っている人がいたのかも知れないぞ」
 と言われた
「そうかも知れないですが、そのあたりのことも店の人に聞きましたが、ハッキリとは言えないけど、女の勘として、彼女のようなタイプは、誰かいい人ができたら、口では言わないけど、人に知られたいという欲求があるようで、少なくとも、何かを隠しているというオーラが出てくるらしいんです。それが彼女には見えないというのが、皆の意見でしたね」
 というのを聞いて、桜井警部補も納得した。
 もっとも、桜井警部補も、同じ考えであり、山崎刑事の情報には、かなりの信憑性があると思うのだった。

                 証言者松岡

 その日の捜査会議はそこで終わったが、この事件がニュースとなり、新聞やテレビで報道されるようになると、さっそく、証言が飛び出してきたのだ。それは、捜査の段階で捜査員がもたらした情報ではなく、一人の若者が、わざわざK警察署に訪問してきたことによって分かったことだった。
 その若者というのは、他ならない、
「クーパーイーツ」
 の配達員である、松岡君だったのだ。
 彼は、食事をするのに入った料理屋でニュースを見て、
「A市にあります、プラザコートの一室にて、昨夜の夕方、一人の男性の死体が発見されました。被害者は、このマンションの元住民、山岸隆文さんと判明。警察は殺人事件として、捜査を続けています」
 ということであった。
「プラザコートといえば、俺も夕方に配達に行ったじゃないか。しかも、住民は留守だったし」
 ということで、何か気持ち悪いものを感じ、警察に話に来たのだ。
作品名:後味の悪い事件 作家名:森本晃次