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後味の悪い事件

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 管理人は、子供の頃に読んだ本で、
「世の中には、自ら光を発することのない星が存在する」
 ということが書かれていたのを思い出した。
 邪悪な星であり、見えないために、その星が近づいてきても、その存在を認識することすらできない。
 自分が、徐々に邪悪に染まっていることすら自覚できていないのだが、その星の影響がなくなると、今度はまわりが、自分を認識できなくなり、暗黒の星へと変わっていく。
 増殖したといえばいいのか、惑割を受け継いだと言えばいいのか、それとも、類は友を呼んだのか。鼠算式に、その星に関わったものは、次第に、その星と化していくのだ。
 人間界にも同じような発想があり、実際に、見えないだけで、じっと受け継がれている。
「自分がそんな星でないことを祈るしかない」
 ということであるが、負のスパイラルを考えた時、このような邪悪な星を思い出すのだった。
 まだ警察が来ていない間に、何も分かっていないのに、勝手な想像をするというのは、普通であればおかしいのだが、そのおかしいことを考えるのが、ここの管理人であった。確かに人が死んでいるということで、救急隊員から、警察に知らせるように言われたことで、気が動転し、
「十中八九殺人だ」
 と思ったのだが、殺人であろうが、病死であろうが、変死であることに違いない。
 そのためには、警察で司法解剖の必要もあれば、この人物の身元の解明もしなければならない。それが警察の仕事であり、何も殺人事件を解決するだけが、警察の仕事ではない。
 確か、救急車では死人は運ばないという話は聞いたことがある。生きている人間と死んだ人間とでは明らかに違うからだ。
 家畜に至っては、もっとひどい。生きている動物は、保健所の管轄であり、死んでしまうと、
「粗大ごみ」
 のように、
「廃棄物」
 として扱われる。
 もし、他人のペットを故意に殺してしまったら、その場合は、経常情では、
「器物破損罪」
 に問われることになるだろう。
 しかし、これが動物愛護法では、
「愛護動物殺傷罪」
 として、刑事責任を問われることになったりする。
 人間の場合は、さすがに死んだからと言って、モノとして扱うことはない。
「神に召される」
 として、丁重に荼毘に付されるというのが、葬儀であったり、火葬だったりするのだ。
 そもそも、
「荼毘に付される」
 というのは、火葬にするということであるが、元々土葬が主流だった時代もあり、
「荼毘にふす」
 という言葉を、埋葬するということで、土葬も含むという広義の意味もあるようだ。
 今のところ、管理人である人が、
「見たことがないということ」
 なので、まず、その人の身元を確認する必要がある。
 もちろん、司法解剖の結果にもよるが、そもそもの第一発見者(死体としてではないが)の存在も忘れてはいけない。
 死体があった部屋からインターホンで掛けてきてはいたが、その人物が誰だったのか、殺人事件なら犯人なのか、それとも、ただの通りすがりなのか、いや、そこで何らかのトラブルでもあったのか。少なくとも救急車を要請したということは、その人は被害者を助けたいという意思はあったはずだ。
 ひょっとすると、被害者が死んでしまったために、殺人罪になるのが怖くて逃亡したともいえる。
 もし、被害者が死なずに、いずれ意識を取り戻したとすれば、容疑者を庇う証言をしてくれたかも知れない。
 どちらになるか分からない状態で、二人がここで何があったのかを想像することは、ほぼ難しい。
 事件なのか事故なのか、やはり鑑識や司法解剖によるところが大きいだろう。
 管理人も、捜査を混乱させないように、なるべく何にも触れず、死体にも一切触っていない。
「死体に触れるなんて、そんな恐ろしい」
 という思いで、警察を待っていた。
 すると、コートを着て、白い手袋をはめようとしている刑事と思しき人たちが、二人と、鑑識と思しき人たちが、県警お腕章をつけて、鑑識の制服に身を包み、入ってきた。
「通報していただいた方ですか?」
 と言われたので、
「ええ、私が通報したこのマンションの管理人をしている、杉本一三と言います」
 と言って頭を下げた。
 刑事は警察手帳を見せて、
「F県警の桜井です」
 と言って、形式的なあいさつに入った。
 桜井氏は、警部補のようだった。
 桜井警部補は、杉本管理人にそういって挨拶をすると、まず、現場を見に行った。鑑識が入っているので、その邪魔をしないように、いろいろと見ている。
 どうやら、被害者の来ている服を物色しているようなので、被害者の身元が分かるものを探しているようだ。
 財布や定期入れのようなものなどを物色していたが、被害者が分かったのか、杉本管理人の方に来て、
「管理人さん、どうやら被害者は、山岸隆文と言われる人なんですが、ご存じですか?」
 と言われて、
「山岸隆文さんですか? ええ、一年前までこちらのマンションに住んでいました。ただ、この708号室ではなく、確か、8階にお住まいだったと思ったのですが」
 というと、管理人は、まだ訝し気な顔をしていたので、
「どうされたんですか?」
 と、桜井が聞くと、
「あっ、いえ、私が知っている山岸さんという雰囲気ではなかったので、ちょっと戸惑って絵いるんですよ」
 というと、
「まあ、亡くなった時の表情は、穏やかな死に顔でなければ、存命中とはまったく違うでしょうから、すぐには分からなくても当然でしょうね。しかも、うつ伏せで死んでいるのであれば、なおさらではないかと思います」
 というのだった。
「ああ、それはそうなのでしょうね。見た瞬間、顔をそむけたくなるほど、こっちを睨みつけているように思えましたので」
 というと、
「そうですね。死んだ時の苦しみが顔に出ていますからね。断末魔の表情というやつですよ」
 と桜井警部補に言われて、
「そんなものでしょうか?」
 と言いながら、またあの表情を思い出して、ゾッとする杉本管理人であった。
「桜井警部補、ちょっと」
 と言って、桜井警部補は、鑑識官から呼ばれた。
「どうした?」
「詳しくは行政解剖の結果でしょうけど、どうやら死因は、毒物による中毒死のようですね。この苦しみ方は、毒物だと思われます。それにアーモンド臭も若干感じられることから、おそらくは青酸系の毒物ではないかと思われます」
「死亡推定時刻は?」
「死後硬直などを考えると、ついさっきではないかと思われますね。少なくとも一時間から一時間半くらいではないかと思います」
「自殺なんだろうか?」
 というと、
「そこは何とも言えないでしょうね? 毒物は、そう簡単に手に入れられるものではないですからね」
 ということであった。
「じゃあ、司法解剖の方、よろしくお願いします」
 ということで、鑑識はもう少し現場検証を行ったうえで、死体を運び出すことになった。
「杉本さんは、このマンションの管理人をするようになってどれくらいなんですか?」
 と、桜井警部補は、もう一度、杉本管理人のところにやってきた。
「ええっと、そろそろ10年くらいになりますかね」
 というと、
「十年というと、その間にはいろいろなトラブルもあったのでは?」
作品名:後味の悪い事件 作家名:森本晃次