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後味の悪い事件

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 以前のチェックがいい加減だったこともあって、このような結果が出たのだろうが、それを思えば、あの地震で高速道路がひっくり返ったのも、当然のことだったといえるのではないだろうか。
 そういう意味では、
「キチンとしていれば、あの時の高速道路や他の建物もだいぶ救えて、死ななくてよかった命もたくさんあったのではないか?」
 と言われても仕方がないだろう。
 なるほど、
「日本の技術は世界一」
 とまで言われた時代があったわけだが、確かに、技術は世界一でも、その技術を小出しにしたのでは、何にもならない、
「すべては、金だ」
 ということになるのだろう。
 耐震構造はいい加減で、しかも地震大国、技術がいくら発達していても同じだというのを考えた時、思い出されるのが、松岡君の大学に書いてあった、
「神なき知恵は、知恵ある悪魔を作るものなり」
 という、
「知恵ある悪魔」
 である。
 まさに、最高級の知恵と力を持ちながら、神がないことで、その知恵を使う場所を間違えて、使ったため、守るべき人間を守り切れず、悪魔になってしまったのだ。
 つまりは、神がいなければ、この世は悪魔に支配されるということである。
 悪魔は確かに存在しているが、神が存在しているかどうか分からないので、時々人間は悲惨な結果に追い込まれる。知恵があるのに、それを使いきれず、自らを滅ぼす。それを人間はすべて、悪魔のせいにして、自分たちが悪いわけではなく、すべてを自然のせいにしようとする。
 それこそ、
「知恵ある悪魔」
 の正体ではないだろうか。
 逆にいうと、
「神が存在しているからこそ、人間は、今のところ、
「全滅を免れているのではないか?」
 と言えるのではないだろうか?
 ただ、
「悪魔というのは、人間の心の中に住んでいるといわれる。神だってそうだとすると、人間一人一人の中で葛藤が繰り広げられることだろう。それを自分だけで解決できないとまわりに飛び火してしまう。それが欲というものと結びつくことで、人間同士の争いになり、結果、殺し合いになったとしても、何ら罪悪感に対して感覚がマヒしてくるのではないだろうか。何しろ、人間の中には、神なき知恵と、知恵ある悪魔が潜んでいるのだから」
 と言えるのではないだろうか。
 このマンションも、耐震構造を、21世紀に入ってから、知らべてみたが、他の地域に比べるとしっかりはしていたが、それでも、国の基準にまでは達していなかった。建物に関しては、ほとんど全滅に近いくらいに耐震構造は惨敗だったのだが、それは、昭和のゼネコンの贈収賄などが横行していたことで、安全面はおざなりにされた結果である。
 さすがに、大地震で100万都市の機能が一気にマヒしてしまい、ほとんどの建物が倒壊したり、上の階に押しつぶされたりしたのを見ていると、建築業に携わる人間は、大なり小なり、衝撃を受けたことだろう。
 しかし、それも、時間が経過すれば、その感覚も鈍ってくるというもので、それこそ、
「喉元過ぎれば熱さを忘れる」
 ということわざそのものになってしまうことだろう。
 先ほどの、
「神なき知恵は知恵ある悪魔を作るものなり」
 という言葉に代表されるように、何かあれば、ことわざが戒めてくれているようで、逆に、
「事が起こってからでは遅い」
 と言えるのではないだろうか。
 よくテレビドラマなどで、
「警察は人が死ななければ、動いてくれない」
 と言って、警察だけを悪者にするが、考えてみれば、本当に被害が起こらなければ人間というのは、最悪の場合を分かっているのか、見て見ぬふりなのか、目を背けようとするではないか。
 これが人間の習性というものなのか、それを思うと、実に虚しいといえるだろう。
 しかも、すぐに人間はその痛みを忘れてしまうので、
「天災は忘れた頃にやってくる」
 という言葉どおりに、
「神なき知恵」
 は、見て見ぬふりであり、
「知恵なく悪魔」
 は、簡単に痛みを忘れさせようとするというものであり、どちらも、人間の中に存在しているものだといえるのではないだろうか。
 このあたりに人が住み着くようになってきたのは、今から十数年前からくらいだった。それまで、つまり、この建物の耐震構造を調査した頃はまだ、このあたりが新興住宅地となるなど、想像もしていない時期だった。
 ただ、野山の土地は、
「坂巻グループの土地だ」
 ということは知っていた。
「どうして、何もしないで放っておくんだろう?」
 と思っていたところに、ウワサがちらほら、
「このあたりが新興住宅になるらしい」
 というウワサを聞いても、
「まさか、今まで何も手を付けていなかったのに」
 と言っていたのだが、実際にはそのまさかだった。
 あっという間に山は切り開かれ、住宅街の宅地としての整備が進む。しかも、街の中心に、巨大なショッピングセンターができるということで、さらに、学校、公共施設の建設など。急ピッチで行われるという話だった。
 誘致を募る必要はない。グループ会社で、十分一つの大型商業施設くらいは賄える。巨大な要塞になるだろうということは、想像がつく。
 そこに、鉄道や高速道路などの交通機関、さらに、電気、ガス、水道というライフラインも、拡充される。完全に、
「坂巻王国」
 と言ってもいいところになるのだ。
 昔から、網本や地主のようなところが村を牛耳るということはあったが、最近ではここまで大規模なところは珍しい。一気に人口を増やして、市制を敷くところまでできれば、それが一区切りだと坂巻グループは思っていた。
 そこまでの下地をすべて坂巻グループが行い、あとは実際の行政を自治体が行う。それを陰で操るのが、坂巻グループだというわけだ。
 そんな状態の中で、坂巻グループとは直接関係のない、数少ない建物である。この、
「プラザコート」
 というマンションで、変死体が見つかるということになれば、このA市では始まって以来の、全国級のニュースと言えるのではないだろうか。
 もちろん、
「財閥級の、大企業グループによる大規模な街づくり」
 ということで、話題性という意味のセンセーショナルな話題を全国に振りまいたが、悪い意味での事件性のあることというのは、坂巻グループにとって、青天の霹靂であり、イメージの低下を気にすることではないだろうか。
 今後どうなっていくのか分からない中で、管理人は、そのことを知っているのは、今のところ自分だけだと思うと、複雑な心境だった。
 自分だけが知りえたというのは、ゾクゾクするものがあるが、それだけにこの事件が自分に悪い意味で関わってくるというのだけは避けなければいけなかった。それを思うと、これから先起こることは、すでに避けて通ることではないところに自分が置かれてしまったことを自覚しなければいけないと思えたのだ。
 まもなく警察はやってくるだろう? それまでにいろいろなことが頭を巡っていくが、結局悪い方にしか頭が回らない。頭の中で完全に、
「負のスパイラル」
 という螺旋階段を、果てしない真っ暗な、
「地の地獄」
 に落ち込んでいくのを感じた。
 その暗黒は、すべての光を吸収するかのような、ブラックホールのようなところだった。
作品名:後味の悪い事件 作家名:森本晃次