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後味の悪い事件

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 部屋は7階の部屋だった。症状としては、口から血を流して倒れていて、虫の息だという。本当は自分もその部屋に行くべきなのだろうが、救急要請をしている手前、救急隊員が来るのをここで待っていなければいけないということで、とりあえずは、7階は、最初の通報者に任せておく必要があったのだろう。
 救急車は10分ほどで到着した。
 霊の伝染病が流行っていた時であれば、医療崩壊していた時期など、救急車を要請しても、来てくれる保証はないほどだった。
 救急車を呼んできてくれたとしても、受け入れ病院が見つからず、救急車の中で、応急手当をしながら、受け入れ病院を探して交渉するしかなかった。
 今は少し落ち着いているので、救急車もすぐに来てくれたが、ひと月半くらい前であれば、万事休すだったということも考えられるであろう。
 本当にひと月半くらい前というと、夜中など、救急車の音がひっ切りなしだった。政府も、
「不要不急の手術などは、延期して、伝染病の治療にあたってほしい」
 などというデタラメな通達を医師会にしていたり、国民にもそのような状態だと話していた。
「そもそも、入院していておいて、不要不急の手術ってなんだよ」
 ということである。
「本当に大丈夫なのか?」
 と感じるのは、当事者だけではない第三者だって同じことに違いない。
「命の選択」
 というのが、目の前に迫っていたのだ。
 救急車の中で、酸素吸入器を付けた状態で、受け入れ病院がなく、何時間も、そのままだというとんでもない状況だったのだ。
 そんな状況になるのを分かっていて、政府は中途半端な、どっちつかずの方針しか打ち出さないので、死者、重症さは増え、さらに、経済の混乱から、自殺者も増えるという、どちらの死者も増えてしまって、政府の無能さが露呈していたのだ。
 政府はこともあろうに、一番病院逼迫のひどかった頃、
「今回の状況は、最大級の自然災害と同じ状態になっています。皆さんの命は、自分で守るように心がけてください」
 という通達をしたのだ。
 しかし、これは、完全に政府の
「投げやり」
 ではないか。
「自分たちは無能なので、目新しい政策を打つことができないので、人が死んでも、それは個人の責任だ」
 とでも言っているようにしか聞こえない。
 最初の水際対策の失敗。しかも、これは、波を繰り返すたびに、毎回のことである。そんなミスを何度も犯しておいて、責任を取るでもなく、対策も後手後手にまわることで、患者をいたずらに増やし、それでも、まだ、
「経済が……」
 などと言っている。
 要するに、荒波の中で、自分たちの立場を考えながら、いかに無難に過ごすかしか考えていないので、結果は見えている。
 そのために一番の被害に遭うのは、患者もそうだが、医療従事者であったり。事業主だったりする。
 曖昧な態度の政府を誰も信用はしていないのだろうが、もっと悪いのは、そんな政府に物申す人たちが一人もおらず、代替え策も具体的にないくせに、ただ文句ばかりを叫んでいる野党第一党では、さすがの国民も支持などするはずもない。
 今の政府にとって、結局は自分の身がかわいいのだ。
 今回の政権についた人は、
「今までとは違う」
 と思われたが、
「例の首相でありながら、都合が悪くなると、任期中に病院に逃げ込む」
 という悪行を行っておきながら、いまだ政府に対して絶大な影響力を持っていて、今の首相は、その時の首相を告発するかのような威勢のいいことを言っておいて、党首選で選任されたくせに、結局、その男の操り人形でしかなかったのだ。
 さすがに国民もそんな男に嫌気が刺すはずなのだろうが、かといって、他に誰が政治を動かすというのだ。
 今のところは、
「現首相しかいない」
 ということにあれば、もう、どうしようもない状態になっているのではないだろうか?
 そんな状態に今、政治はなっているのだった。
 そんな状態なので、次の波がまたいつ来るか分からないという不透明な世界に生きている我々であるが、そんな中で、今回の、
「救急車要請」
 があったのだ。
 救急車が表に停まると、パトランプだけをつけたまま、サイレンは止まった。白衣を着た救急隊員が、急いで機器の入ったアルミ製のケースを手に持ち、あとは担架などを用意して、中に入ってきた。
「管理人さん、部屋はどこですか?」
 というので、
「708号室からの通報です」
 というので、一応合鍵を持っている管理人に連れられるように、エレベーターで7階に向かった。
 管理人が呼び鈴を押したが、応答はなかった。
「管理人さ、カギを」
 と、救急隊員がいうので、管理人は部屋をカギで開けて、雪崩を打つように、部屋に上がり込んだ。
 すると、奥のリビングで倒れている一人の男性を発見。管理人は、周りを探したが、そこにいるはずの通報者がいなかったのだ。
「あれ? どこに行ったんだ?」
 と管理人は思ったが、実際にどこにもいなかった。
 すると、今まで緊張に包まれていたはずの救急隊員は、一様に脱力感が感じられ、その中の隊長と思しき人に、
「管理人さん、ここはすみませんが、警察の出動をお願いできますか?」
 ということであった。
「え、どういうことですか?」
 と管理人はいうと、
「ここから先は我々の出番ではないんですよ」
 ということだった。
「どういうことですか?」
「ここに倒れていた男性、亡くなっていますね」
 ということだった。
「えっ?」
 と答えたが、救急隊員には、管理人の態度に違和感があるのだが、それを深く掘り下げることはできなかった。
 ということはどういうことであろう? 通報してきた人間もいないではないか。
 あの男は、ここで看病していたが、死んでしまったのを見て、自分の役目が終わったと考えて、立ち去ったのだろうか?
 いや、後ろめたいことでもなければ、ここですぐに立ち去ってしまうとすれば、何かやましいことでもないとありえない。
「じゃあ、やましいことでもあるのか?」
 と考えたが、そうであれば、管理人室に連絡をして、救急車を呼ぶというのはおかしいだろう、
 そうしなければいけない理由がどこかにあるに違いない。
 管理人は、途方に暮れていたが、救急隊員は、任務外のことでもあり、さらにいつ通報があるか分からない身なので、至急、本部に変える必要がある。
 急いで撤収の準備を行い、部屋から速やかに出て行った。
 その行動は実に迅速で無駄がない。
「ハヤテのごとく」
 とは、まさにこのことだろう。
 その時の管理人は、あっけに取られていたといってもいいだろう。

                 疑惑について

 救急隊員が、そそくさと帰っていくのを横目に、まだ気が動転している管理人は、我に返ると、警察に連絡した。その家に備え付けの固定電話から、110番したのだ。
「はい、110番です。事件ですか? 事故ですか?」
 と、119番の時は、消防か救急かというのを最初に聞かれたのを思い出し、
「同じような電話の出方になるんだな」
 とどうでもいいようなことに関心した。
作品名:後味の悪い事件 作家名:森本晃次