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起きていて見る夢

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 だが、実際に時計を見てみると、まだ10分ほどしか経っていない。本人は、
「30分近くは経っているだろう」
 という意識があるのに、これだけ時間がなかなか過ぎてくれないのは、嫌な予感が頭の中にみなぎっているからに違いなかった。
「このまま、ここに長い間いていいのだろうか?」
 という思いがあった。
 早く移動したとしても、向こうで長く待たなければならない。今の計画で言っても、30分以上は待つ計算になる。
 それは、自分がいつも考えている、
「待ち合わせ時間の20分前」
 という自分の中の掟を守るに十分な時間である。
 それを思うと、ここでゆっくりするのが一番なのだが、なぜかこの日は、この店でこのままいると、時間の感覚がマヒしてしまいそうな気がしてくるのだった。
 モーニングができあがってくると、いつもだったら、雑誌や新聞を読みながら、食事をするということになるのだが、その日はそんな気分にはなれなかった。
 モーニングができてきて、食べ始めると、もう、何もせずに、がっついて食べることに集中していた。
 急いで食べる必要もないので、ゆっくりと食べたのだが、ただ、集中して食べるということだけは心がけた。
 食べ終わるまで、十分もかかっていなかったと思い、時計を見ると、自分が考えていた時間と、ほとんど変わりはなかった。
「そうか、集中さえしていれば、時間というものは、考えた時間と感じた時間に、さほど差はないんだ」
 ということだった。
 考えた時間と、感じた時間に差がある時は、余計なことを考えていないようでも、何か余計なことを考えているということだろう、
 そうなると、起きてから見る夢というのは、あくまでも感覚でしかなく、余計なことを考えたために、同時に何かを考えていたところに、別の意識が入り込み、
「これは夢ではないのだろうか?」
 と感じさせることで、意識が曖昧になってしまい、時間の感覚をマヒさせて、我に返るにしたがって、余計な意識が頭の中に残らないようなメカニズムになっているに違いないのだ。
 モーニングを食べ終わって、店を出ると、すでに機は熟していた。電車に乗って、彼女の待つ倉敷駅まで、新幹線を使って岡山まで行き、そこからは、在来線で少し。実にあっという間の旅だった。
 今まで、岡山に行くというと、鈍行しか使ったことがなかったので、本当にあっという間だった。何しろ、一時間も経っていないのだ。これだけ朝起きて、楽しみな気分と不安な気分が複雑に絡み合い、過ぎ去る時間が、まるで新幹線の車窓のように、ジオラマを見ているようだった。
「走り去る光景」
 とはよく言ったもので、トンネルを出てから次のトンネルまでの間、
「何度デジャブを繰り返すんだ」
 と思うほど、まったく同じ景色が通り過ぎて行ったとしか思えないのだった。
 山間を走ることでトンネルが多くなるのは必至だということも分かっているので、景色を楽しめないことは、百も承知だった。それでも、何かしらの期待をしてしまうのは、たまにしか乗らない新幹線という特別列車の魔術のようなものなのかも知れないと、感じるのだった。
 倉敷についたのが、待ち合わせ時間の30分前、待ち合わせ場所にいくには、あと10分時間を潰せばいい。ちょうどいい時間となっていた。
 そこからいつもと違って待ち合わせ時間まであっという間だった。気が付けば過ぎていて、明らかにいつもと違っているのが分かったのだ。
「どういうことなのだろう?」
 と、普段との違いに若干の狼狽えがあった。
 実際に、そのあと来るはずの彼女が来ないということを、最初から分かっていたような気がしていた。
「来てほしい」
 というお願いをしているのだから、お願いするのだから、遅くとも10分前に来なければおかしいというのが、松阪の理論であった。
 それが守れない人は、少なくとも親しい友人以上にはなれないというのが、松阪の理論だ。そうでなければ、最初から知り合いになるようなことはしないはずだ。
 しかも彼女は、前、こちらに遊びに来た時、
「もし、約束に遅れるようなことがあった時は、実家に電話してください。なるべく分かるようにしておくから」
 ということだった。
 何かの事情で電車に乗り遅れた時など、実家に連絡をし、伝言してもらう手筈を取っていたのだろう。
 約束の時間から、一時間が過ぎた時点で、松阪は実家に連絡を入れた。一時間待った理由は、電話を掛けるのに、この場所を離れた時、来られたら困るということで、一応のタイムリミットを一時間としたのだ。それで来ないようだったら、やはり何かあったとみるべきだと考えたのだった。
「えっ? まだ、りほは行ってませんか? それは申し訳ないことをしました。私の方でも連絡が取れることろを探してみますので、もう少しだけ辛抱願えますか?」
 とお母さんが言った。
「分かりました。もう少し待ってみますね」
 ということで、松阪は、もう少し待ってみることにした。
 一応、りほがお願いと言ってきているのだから、それなりの事情があるということで、松阪の方としても、三日くらいは、時間を空けておくようにしておいた。
 これは大学生だからできることで、それでも、四日目には、ゼミの申し込みのための、説明会があるので、大学には行かなければいけなかった。
 最初の一時間は結構時間が掛かった気がしたが、次の一時間は、そうでもなかった。現れないので、また実家に電話を掛けると、
「そうですか、現れませんか?」
 と、お母さんの落胆に似た声が聞こえた。
「じゃあ、今からお迎えに参りますので、30分後に、駅のロータリーでお待ちしています。軽トラなんですが」
 と言って、ナンバーを教えてくれた。
 もう、この時間になると、さすがの松阪も、
「来るはずない」
 と思うのだった。
 約束の30分が経って、ロータリーに行くと、お母さんが待っていてくれた。
「今から、うちにお越しください。ここで待っているよりもいいと思うんです。もし、何かあったのなら、連絡が来ますからね」
 と言って、そこから車で十五分ほどで、実家に着いた。
 用意をして出かけてくればちょうど三十分くらいになる、いい時間選択なったのだろう。
 実家に着くと、家では、りほの中学生になる弟が待っていた。
「お母さん、僕友達のところに行ってくる」
「ああ、気を付けてね、留守番すまなかったね」
 と、言っていた。
 なるほど、りほから連絡があった時のため、弟を待機させていたのだろう。弟にも悪いことをしたと思い、松阪は頭を下げた。
「すみませんね。あのバカ娘のために、長い間、寒いところを待たせてしまって」
 と言って、お母さんは、奥でワンピースに着かえてきた。
「主人は、単身赴任で東京の方に行っていて、娘とそれから、弟の三人で暮らしているんです。今日は、弟の方も、これから友達に誘われて、旅行に行くんだそうです。中三なので、入試も終わって、あとはゆっくりというところですね」
 とお母さんは続けて言った。
 お母さんは落ち着いてよく見ると、二十歳前後の娘がいるほどには見えなかった。思わず、
「お母さん、お若いですね」
 というと、
作品名:起きていて見る夢 作家名:森本晃次