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起きていて見る夢

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「松阪君は、最近、何かで後悔したことがある?」
 と聞かれて、
「後悔まではいかないかも知れない。でも、後悔と言っても、難しいよね。やりたいけど、二の足を踏んで、勇気を持てずにできなかったことを後悔する場合、迷った末に行動して、結局うまくいかずに、失敗し、後悔をする場合だね。後ろ向きな後悔と、前向きな後悔といえるんじゃないかな?」
 と、松阪は答えたが、
「そうかしら? 松阪君は、しなかった場合と、失敗して後悔する場合と、どっちが後ろ向きだと思っているの?」
 と聞かれて、
「それはやっぱり、しなかった場合の後悔なんじゃないかな? 一歩でも踏み出して、行動したから、後悔したという場合は、前向きだと思うし」
「そうなのかな? 踏み出してしまって、後悔したのであれば、その後悔というのは、踏み出したことに対してなんでしょう? だったら。それは、前向きと言えるのかしら? 考えが浅かったのだと思うと、後ろ向きなんじゃないかって私は思うんだけど」
 と、珍しく、りほが力説していた。
 今まで、りほが何かで力説しているところなど見たことがなかった。
「うん、そうなのかも知れないね。確かに、浅はかだというのは分かるけど、俺は一歩踏み出すというところの勇気に敬意を表したいし。そう思うことが、成長なんじゃないかって思うんだ」
 というと、りほは、少し鼻で笑ったように思え、
「そんなのきれいごとなんじゃないからしら?」
 と、言い放った。
 ただ、やけくそで言っているというよりも、開き直りからだと思うのは、その力説に、こちらを納得させようという気概のようなものを感じるからだった。
「りほさんは、そんなに後悔にどうしてこだわるんだい?」
「私は、ここ最近、ずっと後悔しているような気がするの、やることなすことすべてにね」
 というのだった。
「じゃあ、その後悔していることを、夢に見たりするかい?」
 と聞くと、りほは目をパチクリさせながら、最後は、目を見張った。
「そうね。夢に見たりすることもあるかも知れないけど、覚えていないわ」
 というのだった。
「じゃあ、見ているのか見ていないのか分からないということだね? 自分の感覚では見ているけど、忘れているという感覚はあるかい?」
 と聞いてみると、
「ええ、その感覚はあるわ。でも、私は夢を見る時に覚えているのは、怖い夢を見た時だと思うので、覚えていないというのは、ちょっと違うんじゃないかと思って。だから、本当に見ていないんじゃないかって思うの」
 とりほは答える。
「でも、それって、後悔することが自分にとって怖いという意識はないということになるのかな?」
「僕は少なくともそう思っている。怖いという意識の元で、夢の中に出てきてもおかしくないと思うし、実際に後悔しているという感覚を持ったことの夢を見たりしているんだよ」
「そうなのね? でも私は少し違うと思う」
「どういうこと?」
「後悔することが、すべて怖いことだとは思わないのよ。後悔から学ぶこともあると思うし」
「だったら、余計に夢に見るんじゃないかい? 学ばなければいけないことを思っているから、忘れられないという意識から、夢を見るということではないかって思うんだよ」
「そうとも言えるかも知れないわね。でも、そうだとすると、あなたのいうように、夢に見るのが怖い夢しかないという理屈とは矛盾しているように聞こえるんだけど、違うかしら?」
「そうかも知れないね。君のいうとおり、確かに、怖い夢じゃないものも夢に見るということになる。だけど、怖い夢という基準って何なんだろうね? 一口に怖いと言ってもいろいろある。忘れられないほど意識してしまうのを、ある意味、怖いというのかも知れないし、楽しいこと以外で、夢に見るものをすべて、怖いと表現するのかも知れない」
「ということは、夢というものの本質は、本当は億臆病なもので。臆病だからこそ、怖いと意識して夢を見るのかも知れない。そうなると、怖いという概念を変えなければいけなくなるかも知れないわね」
「夢の中で僕は、覚えている夢と忘れてしまった夢があるということで、忘れてしまったって、どうして分かるんだろうか? って思うことがあるんだよ」
「それは、起きた時、覚えていないだけで、夢を見たという感覚が余韻として残っているからじゃないかしら> ただ、それがどんな夢だったかということより、どんな種類の夢だったのかというのも覚えていないというのが、不思議な気がするのよ」
「僕もそれは思うんだ。だから、夢というのは、睡眠の数だけあって、本当に完全に忘れてしまうユメオあるんじゃないかと思ってね」
「それは夢を見たということすら、意識にないということね?」
「うん、そうだよ。りほさんは、そうは思わないか?」
「そう思ったこともあるけど、正直分からないのよね。その答えを見つけてしまってはいけないんじゃないかって思うくらいなのよ」
 とりほがいうと、それを聞いた松阪は、何も言えなくなった。
「会話の最後は自分で締めくくりたい。それが自分の男としての使命のようなものだ」
 と考えていたのだった。
 それをりほは、知ってか知らずか、彼女も黙り込んでしまった。
 お互いに、
「言い過ぎたかな?」
 と思ったかも知れない。
 お互いに持論を展開することで、ちょっと興奮してしまったところがあった。だが、幸いなことに松阪もりほも、こういう話をするのが好きで、
「お互いがお互いを高めている」
 という感覚が、相手の奥の感情を引っ張りだしているようで、その分、余計に自我が強くなっているかのように思えたのだ。
 今回の夢に対しての激論も、その一つで、激論をしているうちに、別の世界で、お互いの本心が冷静に話をしている気分になった松阪だったが、
「きっと、彼女も同じことを感じているんだろうな?」
 と思った、
 それは彼女も同じことが言えるようで、笑顔のタイミングが合うことで、意識が高まってくるのを感じた。
 そんなことをふと思い出していると、急に我に返った。
「そうだ、電話中だったんだ」
 と、電話を耳に当てていたことすら意識の中で曖昧になってしまったほど、どうかしていたのかも知れない。
「実はね。松阪君にお願いがあるんだけど」
 と、申し訳なさそうにいうではないか。
 今まで、りほがお願いなどしてきたことはなかった。だから、
「お願い」
 などという言葉を聞くと、緊張してしまった。
 複雑な気持ちになったというか、まずは、当然のごとく、気になる相手からお願いされるということは、実に嬉しいものだということで、男冥利に尽きるという感情がこみあげてきた。
 しかし、その一方で、りほのような気丈に見える女性が、敢えて自分に、
「お願いがあるの」
 などと言ってくるということは、よほどのことではないかと思い、ビックリさせられたのだ。
 不安に感じるというか、何を言いたいのか、彼女のことだから、ハッキリと口に出して言えるかどうか、それが気になってしまうのだった。
「一体、お願いって何なのだい?」
 声が自分で上ずっているのが分かった。
 それがりほに伝わっているのだろうか?
作品名:起きていて見る夢 作家名:森本晃次