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起きていて見る夢

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「なぜ、いきなり田舎に帰ったもか?」
 ということは聞けたのだが、肝心の、
「どうして今この俺に遭いに来てくれたのだろう?」
 ということであった。
 帰った事情を聴いた後だけに、余計に気になってきた。帰った事情が、かなりショッキングだっただけに、訪ねてきた理由も、それなりに、ショッキングなことに違いない。
 ただ、それが果たして松阪にとって、いいことなのかどうなのか、そのことが、今度は気になってしまうのだった。
「まさか、本当は俺のことが好きだったので、この俺に遭いに来た」
 なんてことであれば嬉しいが、そんなに甘いものではないような気がした。
「松阪君が懐かしいと思っていたら、この間、夢に出てきてくれたのよ」
 というではないか。
 どうしても、夢から離れられない運命のようだ。

                 りほのお願い

 そんなりほと、三日間を過ごしたのだが、結局最後まで身体を重ねることはなかった。てっきり、松阪を慕ってきてくれたと思っていたが、それは肩透かしだったようだ。この間の展望レストランでの話の中で、田舎に帰ってしまった理由は話してくれたが、肝心の、
「どうして、こちらに、しかも、松阪に連絡を取ってくれたのか?」
 ということは、ハッキリとは言わなかった。
 確かに、話をしてくれそうな雰囲気は感じたが、本当なら話をしようと思ったのかも知れないが、最後にどこかで躊躇したようだった。
 それを思うと、逆にこちらから聞いてしまうと、完全に冷められてしまうという思いが残ってしまい、何も言えなくなってしまったのだ。
 松阪は、この三日間楽しかったのは楽しかったが、その部分が聞けなかったので、本当なら、あっという間に過ぎるはずの時間を、変な気持ちの中で、時間的にはあっという間だったということではなかったことが、微妙ではあるが、複雑な心境になっていたのだった。
 彼女が帰って行ってしまったことで、数日は少し放心状態だった。だが、それから一週間ほどしてから、りほから、また電話があったのだ。
 一週間というのは、
「りほからきっと連絡がもらえる」
 と思った松阪にとって、正直長かったのだが、本当に連絡が入ると、中途半端な時間だった。
 というのは、この一週間が長かったとずっと思っていたのに、連絡が入ると、今度は、あっという間に過ぎたような気がした。まるで彼女が帰っていったのが、昨日のことだったような気がしたからだ。
 もっとも、彼女が帰ってから連絡を貰えるのが一週間というのが、中途半端な期間だったからだ。
 お礼であれば、翌日か、少なくとも三日の間にあってしかるべきであるし、それ以外で、友達としてまた話をしたいと思うのであれば、もっと長くてもいいはずだ。
 彼女もそれくらいのことは分かっているのではないかと思うのだが、それを見越しても、一週間というのは、彼女の中で、特別な感情が沸いていないと、中途半端ではないか?」
 と思うのだった。
 それでも、彼女から連絡が絶対にあると思っていただけに、嬉しくないはずもない。ただ、その反面、何をそんなに一週間という中途半端な時期に連絡をくれたのかという不自然さも考えないではなかった。
「松阪君、この間はありがとうね。あの三日間は本当に楽しかったわ」
 というではないか。
「いやいや、りほちゃんが楽しかったのなら、それでよかった。せっかくこの街に、そして僕を選んでくれたのだから、精いっぱいのことはしたいと思ったんだよ」
 と、あくまでも、まだどうして彼女が自分を選んでくれたのかということにこだわりを持っていて、わざと聞いたのだった。
「うん、私がこっちに帰ってくる時、松阪君が、複雑な表情をしていたのが気になって……。まるで何かを言いたいのかなって思ったんだけど、それで、松阪君に遭いたいと思ったのよ」
 とりほは言った。
 どうやら、松阪よりも、りほの方が、何か違和感を抱いていたようだ。りほにはりほなりの考えがあって、当然松阪に連絡を入れてきたのだが、まさかそういうことだったとは、松阪もその当時の心境を思い出そうと思ったが、それができない気分になっていたのだった。
 どうやら、りほも、松阪の口からハッキリと聞きたいことがあってきたのに、そのことを察することなく、自分のことだけを考えて、捻くれていた自分が、松阪は情けない気分になったのだった。
「そうだったんだね。それは申し訳なかった。でも、いいわけではないんだけど、僕もその時の心境が正直思い出せないんだ」
 と言って、松阪は、ハッとした。
「この間のりほも、今の自分のように、松阪の気持ちを分かっていなかったのかも知れない。自分のことならなんでも分かってくれるというような勝手な思い込みをしてしまった俺って、本当に恥ずかしいよな」
 と、松阪は感じたのだった。
 そういえば、りほが見た松阪の夢というのはどういうものだったのだろう?
 松阪は、必要以上なこととして、それ以上は聞かなかったが、いい夢であってほしいと思った。
 そして、その次に感じたのは、
「夢がもし、いいものだったとすれば、会いに来て、その期待に及ばなければ悪いことをしたと、またショックを覚えることだろう」
 と思った。
 もっとも、嫌な夢だったら、会いに来ることはなかったであろうし、会った時の様子も違和感はなかったので、期待を裏切るようなことはなかったと思っている。
 りほが一週間してから連絡を取ってきた真意がどこにあるのか分からないが、連絡をくれたのは嬉しかった。やはり、会いに来てくれた時、少なくとも期待を裏切ることはなかったということだと思うと、また会いたくなってくるのは、困ったものだった。
 この間、彼女が帰っていくのに、駅まで見送った時、
「今度は、俺の方から会いに行ってみたいな」
 というと、
「うん、ぜひ、来てほしいな」
 と言われた。
 昨年旅行で近くまで行ったことがあるのを、敢えて言わなかったのは、彼女の住んでいる街の界隈に行ったことがあるというのを知らせた方が知らせない方がいいのか、それを迷っていたからだった。
 知らせる方がいいという方と、知らせない方がいいことの、どちらのメリットが強いのかを考えてみることにした。
 知っているというと、彼女がもし、郷土愛があれば、話が弾むだろうが、もし郷土に対して愛情が少なく、大学に行っていた時のことを懐かしく思い、後悔でいっぱいだったとすれば、気持ちを逆撫でしそうな気がするのだった。
 あくまでも考えすぎだとは思ったが、りほのことをどれほど自分が理解しているかと思うと、話をするという方に踏み切れない気持ちもあった。
 りほが今回遊びに来てくれた時、大学時代の話を少しはしたが、思ったよりも、たくさん話をしたという感覚ではなかった。どちらかというと、全体的に会話は少なめで、無言の気まずい時間帯もハッキリいってあったのではなかっただろうか。
 どうしてりほの会話が少なかったのかを考えると、大学時代もあまり会話をする方ではなく、松阪も饒舌というわけでもなかった。
 しいて言えば、二人とも、地方から出てきていて、地元の人間ではないということで、意気投合したと言ってもいいだろう。
作品名:起きていて見る夢 作家名:森本晃次