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起きていて見る夢

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 と思ったのだ。
 だから、その時に気持ちの余裕がなかったのかと聞かれれば、正直どっちだったのか、ハッキリと覚えていない。どちらかというと、余裕はなかったといえるだろうから、大学入学時とは、そこが違っていたのだろう。
 心境としてではなく、状況としては、相手がいるいないの問題もある。
 そもそも、彼女ができたらデートするためにという気持ちが確立していたわけではない。そういう意味で、気持ちに余裕があったといえるかも知れないのだ。
 一人で気楽にと思っていると、そこにあるのは、余裕というよりも、気持ちの張りだったのかも知れない。完全にゴムが緩んだ下着のように、だらしないのだが、身体を拘束しているわけではないので、楽だった。
「裸で寝ると気持ちいい」
 という人がいて、真似をしてみたことがあったが、松阪にはその心境が分からなかった。
 だが分かる人にとっては、その気持ちよさがハッキリしてくるのであろう。
 だからといって、今回も気楽すぎて、ノープランというわけにもいかない。その気持ちが、余裕を持たせないのかも知れないが、それでも、
「好きだと思っている人と一緒にいる時間を、自らでプロデュースするというのは、何とも楽しいものだ」
 ということではないだろうか。
 今まで、計画を立てるということを、
「面倒くさい」
 と思っていた。
 だから、何かの幹事というのも、絶対に嫌で、まわりには、
「あんないい加減なやつにやらせたら、どうなるものか分かったものではない」
 と思わせるべくふるまってきた。
 いい加減なところばかりを見せることに、最近では、違和感がまったくなくなっていたのである。
 とりあえず、本屋に寄ってから、本を眺めていると、時間があっという間だった。
 ただ、思ったよりも早く時間が過ぎたと思っていたのに、、
「大体、30分くらいかな?」
 と感じていると、ほぼピタリであった。
 感覚的な時間と、イメージする時間では、その時違いがあったようだ。感覚的な時間に差があったのに、イメージする時間はピッタリの30分だったのだ。こんなことは初めてだった。
 いや、初めてだと思っているだけで、本当は意識していないだけで、分かっていたのかも知れない。
 そんなことを考えていると、本屋から出てきてから、家に帰りつくまでの間、今度は、思ったよりも時間が掛かったような気がした。
「まるで、さっきの時間の帳尻を合わせたような感じだ」
 と思ったのだった。
 家に帰り付いた時には、かなり疲れていて、何かを作ろうという意識もなく、崩れるように眠ってしまったようだ。
 後から思えば、腹も減っていなかったような気がして、それだけ感覚がマヒしていたのかも知れない。気が付けば朝になっていたというのも、自分では珍しいことだったのだ。

                 瞬時の記憶喪失

 その日、待ち合わせよりも、20分も早く着いた。
 もっとも、これはいつものことで、珍しいことではない。
「とにかく、一番でなければ嫌なのだ」
 という気持ちが強いのと、
「その他大勢では嫌だ」
 という思いとが微妙に交錯しているのだろう。
 電車に乗る時雄そうである。
 知っている路線、毎日乗る路線の電車では、どこが階段や出口に近いかということを知っているので、いつも、一番近いところに乗るようにしている。
 空いていて、座っている時でも、到着前から、扉が開くのを待っていて、扉が開くと急いで走って、一番で改札を通り抜けるようにしている。
 階段などで、人が無駄にダラダラ歩いているのを見ると、苛立ちしか覚えない。それなら、急いで最初に駆け抜ける方がいいと思っていたのだ。
「そんな恰好の悪いこと」
 と、たいていの人はいうだろう。
 たぶん、自分が同じようなことをしている人を見ると、
「なんて、大人げないんだ」
 と感じるに違いない。
 そんなことは分かっているのだが、それでも、やめられない。一度やってしまえば、もうトラウマのようなものはなくなり。
「自分だけが、この世界で許される行動なんだ」
 というくらいに感じるのだ。
 そうでもなければ、自分を正当化することはできないからだった。
 それでも言いたいやつはいるだろう。そんなやつは、
「言いたいなら言わせておけばいいんだ」
 という開き直りにも見た感情が生まれてくる。
 そんな毎日を過ごしていると、
「俺は、人と同じでは嫌なんだ」
 と思うことで、
「長い物には巻かれろ」
 という考えは、絶対に嫌だった。
 そうであれば、日ごろから言っている文句などの説得力や信憑性がなくなってしまうのだ。
 そもそも、自分の言い分が絶対に正しいなどとは言わないが、しょせんは、皆と合わせている連中とは違うという意味で、説得力がなくとも、自分で納得できれば、それでいいと考えるのだった。
 そんな頑固というか、徹頭徹尾な考え方という意味で、一本筋が通っているといってもいいだろう。それを思うと、やはり、
「長いものに巻かれるなど、ありえない」
 と思うのだった。
 そんな性格だからこそ、人と待ち合わせをすると、遅れるのが嫌だった。最低でも、10分前には着いていなければならないと思うようにしている。それが徐々にエスカレートして20分は当たり前と考えるようになった。
 なぜなら、10分くらいであれば、普通に待っている人がいる。そんな中に入るのが嫌だったのだ。
 だから、皆も、
「松阪がどうせ一番だよな」
 と思っていることだろう。
 それだけに、まだ待ち合わせ時間でもないのに、最初に来た人が、松阪がいないということを見つけると、
「あれ? 今日は松阪は来れないのかな?」
 と思うほどだった。
 誰も疑うことなく、最初に来ているのが松阪なので、もし、前もっていけないということが分かっている人間は、まず松阪に連絡を入れるようになっている。
 もし、松阪がいけない場合は、
「すまない。俺もその日は都合が悪いんだ」
 ということで、断りを入れるが、その時もすでに、松阪は誰かに断りを入れることにしている。
 松阪は、予定の時系列を絶対に崩すことはなかった。家族の病気や、緊急事態が発生した場合はしょうがないが、それ以外で、誰かに忖度して、
「しょうがない。お前を優先させよう」
 などということはしなかった。
 何があろうとも、
「先に予定が入っているんだ。申し訳ないが」
 と言って断っている。
 もし、相手がそれでゴネたり、悪たれをつくようであれば、容赦なく、
「お前のような分からずやとは、こっちから縁を切ってやる」
 と言わんばかりであった。
 それだけ、初志貫徹な性格なのである。
 しかも、彼は。
「勧善懲悪」
 な面があるので、相手をする人間にとっては扱いにくい。
 しかし、それでも、面倒くさいことを結構引き受けてくれるので、友達としては重宝するし、実にありがたいのだ。
 そういう意味で、機嫌を損ねなければ悪いようにはしないのだ。
 だから、丸め込もうとする人間には扱いにくいが、少なくとも正当性のある人間には、これほど扱いやすい人もいない。そういう意味で、
「松阪ほど、分かりやすく。ある意味扱いやすい人間はいない」
作品名:起きていて見る夢 作家名:森本晃次