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大学時代の夢

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「じゃあ、お休み」
 と言って寝るだけだった。
 中には。
「これから初詣」
「これから初日の出を見に行く」
 などというエネルギッシュな人もいるが、須川は、そんな気になれるわけもなく、とりあえず、
「どうでもいいや」
 と考えるだけだった。
 特に正月は、何が嬉しいというのか、子供の頃は、お年玉くらいだったか、朝起きてきて、家族でおせち料理とお屠蘇、お雑煮でお祝い? 完全にドン引きしているので、楽しくも何ともない。
 おせち料理も、おいしいとは思わない。縁起物と言って入っているものは、当然和風のものばかり、子供の口に遭うものではない。
 さらに、テレビでやっている番組も、中継で初詣を映していたり、スタジオでは、くだらない漫才や演芸をやっているばかりだ。何が楽しいというのだろうか?
 さらに、もっとドン引きなのは、年賀状だ。
 去年せっせと書いて、
「いつまでにポストに入れれば元旦に届く」
 などということを言われ、それまでに書いておいたものだ。相手にも届いているだろうし、送った相手からも届いているはずだ。
「何が楽しくて、手紙のやり取りをするんだ? 内容は、皆決まった内容じゃないか。それも、絶対に上げたい人だけに送るわけではなく。どうでもいい人、下手をすれば、嫌いな人にまで送らなければいけない。それは親の都合というもので、
「子供会のメンバーの息子さんだから」
 などという理由で、好きでもないやつにわざわざ年賀状を書かないといけない。
 子供心に理不尽に感じていた。
 さらに嫌だったのは、当時は今のように
「元旦から開いている店がある」
 などというところはなかった。
 何しろ、当時はコンビニすらない頃だったので、薬屋ですら閉まっていたのだ。
 せっかくお年玉をもらっても買いに行くところもない。遊びに行くとすれば友達のところしかない。
 友達のところに行くと、遅くなることもあるだろう。
「皆遅くなったので、泊っていってもいいわよ」
 と友達のお母さんは言ってくれた。
 皆親に連絡し、泊れる手筈を整えていたのに、須川の家だけ、
「帰ってこい」
 と言って叱られた挙句、涙を流しながら、どれほど惨めな思いをしながら家に帰ったことか。
 友達のお母さんが説得してくれたが、須川の親は承知しない。結局、泣く泣く帰らされるという、惨めな結果になるのだった。
「なんで俺だけがこんな目に」
 と言って情けない気分にさせられる。
 もうこうなっては、ドン引きどころの話ではない。正月が来るのがトラウマになるくらいだった。
 そもそも、須川家では、人が家に来ることはなかった。以前は親せきが来たりしていたがそれもない。そのくせ。親せきに呼ばれると、家族で出かけていく。ただ、それもあいさつ程度のための、挨拶すらしたくないという親の雰囲気がダダ洩れの状態だった。
 そんな親を見ながら、
「なんと情けない家に生まれたんだ」
 と感じ、さらに、
「生まれてくる際に、子供は親を選べない」
 と痛烈に感じたものだった。
 この時の経験がトラウマになってしまい、今でも、夢に見たりするくらいだった。
 一人でいるようになった頃、大学で、一人の女の子から声を掛けられた。
「正樹お兄ちゃん」
 と言って、声をかけてきたのは、どこか見覚えはある気がするのだが、正直ハッキリとはしなかったので、きょとんとしていると、
「私よ私。本田由香子よ」
 というではないか。
 すぐには思い出せなかったが、小学生の頃、初恋の相手だったあの子の妹ではないか。
 小学生の時の初恋の女の子だった、
「本田つかさ」
 彼女はその妹である。
 確か二つ下だったと思うので、現役で入学して、今一年生ということか。いつも元気な女の子で、あれだけ引っ込み思案のお姉さんとはまったく正反対の性格だった。まるで、
「お姉ちゃんのものは、全部私がもらうわ」
 とでも言いたげなほどに目立とうとしていたのは、今からでも思い出せるほどだったのだ。
「由香子ちゃんも、この大学だったんだね?」
「うん、本当なら、もう一ランク上の大学でもよかったんだけど、そうすると、浪人になってしまうので、それはうちの家計からいくと難しそうだったので、この大学に現役入学ということにしたの」
 という。
 雰囲気は子供の頃と変わっていないが、ずいぶんと大人びたものだ。
 何しろ、知っているのは、少女というよりも、幼女と言ってもいいくらいで、ロリコンおじさんであれば、目に入れても痛くないというくらいに思うくらいの年頃だったのだ。
「お姉ちゃんは元気にしてる?」
「ええ、元気にしてるよ。現役で東京の方の大学に入学して、今は向こうにいるわ」
 というではないか。
 ずいぶんと差をつけられたと思うと、何か悔しい気がしてきたのだ。
 それから、由香子は自分のことを話し始めた、聞いてもいないこと、普通なら聞きにくいことでも、彼女は自分から話してくれた。ひょっとすると、話ができる人を探していたのかも知れない。
 由香子が、絶えず姉を意識していたのは、話を聞いていてよく分かる。
 確かに、姉を知っている相手に、姉の話題を出すことは分かりやすいと思ったからだろうが、彼女自身が姉を意識し、ライバル視していたことは十分に分かる。しかし、あの頃の須川と姉の確執など知る由もないだろうから、遠慮なく姉のことを口にしていた。そうしながら、意識してディスっているようだった。それも相手に、
「私は姉を意識しています」
 ということを意識させながらである。
 ひょっとして、
「そんなお姉ちゃんよりも、君の方がよほどかわいいよ」
 とでも言われたいのか、それとも、ライバル視して粋がっている由香子に対して、
「そんなに気を張らずに、気楽にいけばいいんだよ」
 と言ってもらいたいのか。
 どちらにしても、由香子には、あざといところがあるのは確かだった。
 だが、須川には許せた。許せたというよりも、これが彼女のかわいらしさであり、魅力の一つだとまで感じるほどであった。
 さらに須川は由香子を見ながら、
「この子を見ていると、彼女のこれまで育ってきた状況だけではなく、姉の後姿まで見えてくるようで不思議だった」
 と感じるようになっていた。
「私、彼氏いないからフリーだよ」
 とあっけらかんというではないか。
 まるで、
「私フリーだから、彼女になってあげてもいいわよ」
 とでも言いたげだ。
 明らかな上から目線に感じられるが、それも悪いという気はしない。
「俺って、ずいぶん、この子に甘いんだな。まさか、つかさに対しての反動から何だろうか?」
 と感じたのだ。
 実はその頃の須川は、いわゆる、
「素人童貞」
 だったのだ。
 昔からあったような、大学生になっても童貞の男には、
「先輩のおごり」
 で、童貞を卒業させてもらうという、風俗による初体験は済ませていたが、彼女がいた時期もあったが、そこまで発展することはなかった。
 ひょっとすると、相手はその気だったのかも知れないが、須川自身に度胸がなかっただけなのかも知れない。そんなことを当事者である間に分かるはずもなく、別れた後になって、時間をかけて考えれば、やっと分かるというレベルであった。
作品名:大学時代の夢 作家名:森本晃次