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天ケ瀬三姉妹

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 ということになると、それまでせっかく穏便にと思っていたものが、親のせいで、感情を逆撫でさせてしまうのだ。
 先生も、苛められっこの親からいいように言われては面白くない。いじめっ子側に問いただし、相手の親が言っている事実はないと言い放ってやりたいだろう。
 先生だって、クラスでは苛めがないと思いたいはずであり、それを真っ向から否定されれば、先生も怒りがこみあげてきて、下手をすれば苛めっこ側の味方になるかも知れない。
 意外と子供はそれくらいのことまで頭が回っているようだ。これは、作者の経験からであるが、苛められっ子の方が、頭の回転が速かったりする。それを誰も分かっていないことが却って苛めに繋がる。苛めの原因は、
「苛められているやつが、理屈っぽいからだ」
 ということもあるようであった。
 どんどんと最悪な方に向かっていって、下手をすると、不登校などということになってしまうのだろうが、ゆかりの場合は、そんなことにはならなかった。
 寸でのところであったのだろうか。渡良瀬少年が、話し相手になってくれた。
 いつも一人で孤独な自分が、次第に嫌で嫌でたまらなくなりかかっていたところで、渡良瀬少年が話しかけてくれたことで、八方ふさがりになっていた気持ちが次第に和らいでいった。
 渡良瀬少年に、その時、ゆかりが苛められていたという事実を知っていたのかどうか、ゆかりは聞く勇気はなかった。苛められるのは嫌だったが、渡良瀬少年が、話しかけてくれて、孤独が癒えていくことが何よりも嬉しかったのだ。
 もう少しで自己嫌悪が最高潮に至るところであったが、そこまではいかなかった。
 ただ、気になったのが、自分が苛められていることを、渡良瀬少年に分かってしまい、それがまわりに広がることだったのだ。
 渡良瀬少年自身に、分かってしまうことも怖かったが、それ以上に、まわりに分かるのが怖かった。ただ渡良瀬少年がいう前に、母親から、
「最近、あなたおかしいわよ」
 と追求されて、自分から苛めに遭っていることを告白してしまったのだ。
 それだけ、自分が尋問に弱いかということを露呈したわけで、それが今度は違う意味での自己嫌悪に陥ったのだ。
 最悪になりかかったところで、突然苛めがなくなった。他のターゲットに移っただけだったのだが、急になくなってしまうと、学校と親だけで騒いでいることになる。
 本当は苛めがなくなったということを言えばいいのだろうが、その時の親は頭に血が上っていて、余計なことを言える状況ではなかった。そのため、放っておいたのだが、よく考えてみると、それも別に悪いことをしているわけではない。勝手に騒いでいるだけではないか。確かに、
「私のためだ」
 とは思っても、しょせんは、学校も親も世間体などを中心にしか考えていないということが分かっているので、
「勝手にやらせておけばいい」
 と思うのだった。
 ゆかりは、そんな時代を、苛めっこよりも、親や先生の。
「大人の都合」
 を垣間見たことで、大人が嫌いになりかかっていたのだが、それを何とか嫌いになるまでさせなかったのが、渡良瀬少年の存在だった。
 彼は、そばにいてくれるだけで、それでよかった。そのことを思うと、ゆかりの中で、今まで感じていた渡良瀬少年に対しての、
「お兄ちゃん」
 という気持ち以外に、何かそれ以上の感情が沸いてきたのが分かっていた。
 恋愛感情なのか、それとも、慕いたいという気持ちが最高潮になっているのか、その答えは、まだ子供のゆかりには分からなかった。
 もちろん、渡良瀬少年にもそこまで分かるはずもなく、普通に接していた。
 ただ、少なくとも、ゆかりにとっては、初恋のようだったものに違いなかったといえるだろう。

                 待ち合わせ

 三女のはるかが、中学一年生になってからのことだったので、渡良瀬が高校二年生、ゆかりが中学三年生になっていた。
 ゆかりは、成績もよく、普通に勉強していれば、行きたいと思っている高校には入学できるだけの実力はあったので、そこまで必死に勉強する必要もなく、受験生とは思えないほど、気持ちに余裕があった。
 もちろん、油断しているわけではなく。抑えるところはちゃんと抑えているので、必要以上に勉強に励まなくてもいいということで、彼女の態度が、
「しゃにむに勉強する必要はない」
 ということを教えてくれた。
 実際に、先生もゆかりに関しては心配はしていなかった。その頃になると、ゆかりはクラスでも人気者になっていて、かつていじめられっ子だったなどということを、誰が信じるであろうか。
 あの時、大騒ぎしていた親でさえも、もうすっかり、
「うちでは、ゆかりが一番しっかりしているんじゃないかしら?」
 と思われるほどになってきた。
 本当は、一番あてになるというのであれば、長女の頼子なのだろう。
 頼子の場合は、静かなタイプなので、あまり目立たないが、本当はその方が一番頼りになるはずなのに、ゆかりが明るくてしっかりしている性格なので、頼子が目立たない。余計に目立たない性格に見えることが、頼子の長所であり、短所なのかも知れない。
 天ケ瀬三姉妹は、知っている人は、
「仲のいい三姉妹だ」
 と、感じるだろうが、知らないと、
「あの三人が姉妹だったなんて」
 というほど、見た目は似ているというわけでもない。
 しかし知っている人から見れば、
「あの三人は、姉妹であるがゆえの姉妹だ」
 という、まるで禅問答のような言い方をされる姉妹ではないだろうか。
 ちょうど、長女が高校二年生のこの頃が、一番、三姉妹として結びつきという絆が深い時期だったのではないかと、渡良瀬は思っていた。
 小学生の頃から、三人ともよく知っている。
 三姉妹が自分たちのことを知るよりも、渡良瀬の方がよく知っていることだろう。表から見ていることで、三人の人間性に関しても、そしてそれがゆえの関係性に関しても、ある程度分かっているつもりだった。
「三人の中の誰が一番好きなんだ?」
 と聞かれたとすれば、渡良瀬は考えてしまうだろう。
 自分が高校二年生になった今まで、三人の誰かを絶えず好きだった。三人とも、同じくらいに好きだった時期もあったくらいだが、それぞれの誰かを好きだったという時期の方が圧倒的に長い。
 それだけ、自分があいまいだったのか、それとも、思春期であるがゆえに、好みがコロコロ変わったのか。考えてしまうのだった。
 確かに、誰が好きなのかと聞かれると、その時々で変わったことだろう。やはり好きなタイプがコロコロ変わったからであるが、逆に考えると、
「好きなタイプが変わったから、好きな子が変わった」
 というわけではなく、
「好きになった子が、そういうタイプだったから、好みのタイプをその子の雰囲気のように感じたことが、カモフラージュになったのではないか?」
 と感じた。
 じゃあ、カモフラージュというのは何なのだろうか?
 それは、好きになったということ自体が恥ずかしく、自分のタイプの女の子が好きになった子だということにしてしまうと、言い訳になると考えていたのかも知れない。
作品名:天ケ瀬三姉妹 作家名:森本晃次