小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

天ケ瀬三姉妹

INDEX|20ページ/25ページ|

次のページ前のページ
 

 頼子が渡良瀬を見る目に気づいた本人の渡良瀬は、
「あんな頼子の目は初めて感じたな」
 というほど、今までに見たことのないような視線であった。
 最初は、何か気の毒な感覚に思えたが、それが、自分に対して、
「可哀そうだ」
 という感覚だと思った時、何が可哀そうなのかということを考えた時、
「同情だ」
 と考えてしまうと、何かが違っていることを感じ、
「どうせなら、正反対の感情かも知れない」
 と思い、それが、恋心のようなものだと思うと、
「自分は頼子が好きだったのではないか?」
 と思うようになったのだ。
 この感覚は、
「好きだから好かれたいというわけではなく、逆に好かれているから好きになるんだ」
 という感覚に近かった。
 本当は逆なのだろうが、好かれているという前提がある方が安心だし、何よりもそっちの方が格好いいと思うのだった。
 そのせいがあって、まず、
「自分が好かれている」
 と思い込んだことで、頼子を見る視線に、頼子自身が気づき、そして、頼子も自分が好かれているということで、渡良瀬のことを好きになったようだ。
 その思いはお互いにすぐに途切れてしまったようだが、最初に切ったのは、頼子の方だった。
 その思いがあったことから、お互いに、その後、好きになるということはなかったし、あったとしても、すぐに、
「また勘違いを繰り返してしまう」
 と思い、
「お互いに適度な距離が一番いいのではないか?」
 と感じるようになったのだった。
 それが、頼子と渡良瀬の関係だった。

                 交通事故

 三女のはるかとデートしてから二週間ほどが経った。どこかに罪悪感のようなものがあり、学校にいても、集中力がなく、そろそろ大学受験を考えないといけない時期なのに、自分で何かを制御できていない気がした。
 頼子はそんな渡良瀬の態度が気になり、話しかけてくれた。
「どうしたの? 渡良瀬君らしくないわね」
 さすがに、小学校の頃からずっと一緒だっただけに、少しの変化を頼子は見逃さなかった。ただ、これが逆の立場でも同じことが言える仲なだけに、余計に、この状況は、渡良瀬にとっては、辛いものだった。
「いや、いいんだ。君には関係ない」
 と、つい突っぱねるような言い方をしてしまった。
「しまった」
 といった瞬間に感じたが、頼子の方も、下を向いたまま、顔を上げることはできないようだった。
 こうなってしまうと、自分が原因なだけに、何を言っても同じであった。しょうがないので、そのまま放っておいたが、頼子はそのまま、すごすごと引き下がった。
「あれが、頼子なんだよな」
 と考えた。
「だから何なんだ?」
 ということになるのだが、変にしつこくされても困るし、かと言って、このままでも気になってしまうが、とりあえず自分の情緒が不安定である以上、どうすることもできない。
 とりあえず、自分のことだけでも、どうにかするしかないのだろう。
 最初は、何が原因なのか理由が分からなかった。もちろん、ゆかりとデートのつもりだったものを、
「これなくなった」
 ということで、やってきたはるかとデートをしてしまったのだ。
 相手が姉妹なだけに、この行動は罪深いものだと思った。しかも、それを慰めるように相手してくれたのが、その二人の長女である頼子だったというのは、何とも辛い皮肉であろうか。
 明らかに、
「神様の嫌がらせではないか?」
 と考えてしまうほどで、何ともいえない状態だと思うのだった。
 しかし、この時点では、三姉妹の誰が何を考えていたのか、知る由もなかった。三姉妹の中でも同じことであり、ひょっとすると、家の中でもぎこちない様子なのかも知れない。
 もちろん、その原因が自分のことだなどというほど、渡良瀬は自惚れてはいないつもりだった。だが、三人とも、思春期の真っただ中にいるのだから、
「三人の母親であるおばさんも、大変なんだろうな」
 と感じていた。
 もっとも、今は人のことにかまっていられない。自分の心境をどうにかしないといけなかった。
 原因は確かにデートをしてしまったことで、自分の中で自分を許せない何かを感じていたが、自己嫌悪というわけではないこの思いが何なのか分からなかった。
 これは、ゆかりや、はるかに会ったからと言って解決するものではないだろう。二人がどうのということではなく、自分の中でどう整理すればいいのかということが問題になってくるのだった。
 それを思うと。
「まずは、自分が気持ちを落ち着かせること」
 というのは分かっているつもりだったが、落ち着かせるには、三人のことを考えない方がいいのか、考えて、そこから原因を見つけ出し、そして、解決を導き出すという過程を踏まないといけないのかということを、考えてしまうのだった。
「落ち着かせること」
 というのと、
「整理すること」
 というのでは、明らかに落ち着かせることの方が楽だし、手っ取り早いと思っている。
 渡良瀬は、掃除が嫌いで、整理整頓という言葉が、聞いただけでも、虫唾がはするようなものだった。かといって、潔癖ではないというわけではない。自分にとって大切だと思うことは徹底的にきれいにする。
「では、いったい何が自分にとって大切なものなのか?」
 ということを吟味することも苦手だった。
「ひょっとすると、吟味することが苦手なので、整理整頓ができないのではないか?」
 と考えるのだった。
 二週間が経ったその日、朝から、何かムカムカした感覚があった。
「こんな日は、雨が降りそうだな」
 と思っていると、学校の帰り道、実際に雨に降られてしまった。
 その日は、参考書を買いに、駅前の本屋に出かけていたので、いつもと違う道を帰ることになった。
 と言っても、駅から家に帰る道は、学校の通学路の次に頻繁に歩く道なので、慣れた道だった。さすがに雨が降っていると、交通量も多く、雨が降っているせいか、暗くなるのが早かった。
 車のヘッドライトが眩しくて、歩いていて、傘を差しながら、目の前に指で庇を作っていると、急に、何かの鈍い音と、絹を引き裂くような音が聞こえてきた。瞬時にして、それが、
「交通事故だ」
 と分かった。
 車同士の衝突なのか、それとも、車を人が轢いたのか、様子を見ていると、人だかりができて。ざわついているのを見ると、
「この様子は人身事故かな?」
 と思い、恐る恐る近づいていくと、人だかりの向こうに、今まで差していたと思われるビニール傘が、ひっくり返るようにくるくる回っていた。
 人だかりは前にいた人が後ろに下がってきて。後ろからは様子が変なのに気づいて人が寄ってくるので、入れ替わるだけで人は増減しない。その分、後ろにいた人が前に押し出される形で進んでいくと、事故の全容が見えてきた。
「女の子が轢かれたんだ」
 と、横から、若い男性の声が聞こえてきて、誰かが、
「救急車」
 と叫んでいる。
 しかし、救急車の手配は誰かがすでにしていて、救急車が来るのを待っている状況だった。
 たぶん、女の子が倒れているあたりは、血が散乱しているのだろうが、あいにくの雨のため、血が流れているのが幸いしてか、惨状としては分からないようだった。
作品名:天ケ瀬三姉妹 作家名:森本晃次