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天ケ瀬三姉妹

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 と言って、その連中を追い払った。
 やつらにも、後ろめたさがハッキリとあったのだろう。渡良瀬の言葉に、反射的になったのか、
「ヤバい」
 と言って、急いでその場から立ち去って行ったのだった。
 泣きそうな顔で、べそをかいているような顔で、目も真っ赤だったが、震えている身体は、恐怖で震えているというよりも、怒りなのか、涙は出ていないようだった。
「頼子って、意外と我慢強いんだな」
 と感じた。
「自分だったら、感情に任せて、暴れているか、号泣しているかのどっちかなのかも知れないな」
 と思った。
 その時、ふいに感じたのが、まったく正反対の感情だった。その頃から、もし自分が恐怖や感情が動かされるような時、まったく別の反応をしてしまうかも知れないと思い、異常な性格なのではないかと思った。
 二重人格などというものがあるとは思ってもいないので、きっと、怖がりなところから、変な行動をしてしまうのだろうと思ったのだ。
 その時に思った両極端などちらが本当の自分なのかということを考えた時、
「実際に感じたことのない方が本当の自分なのかも知れない」
 と感じた、それが、号泣の方だった。
 そして、暴れている自分が号泣している自分を見た時、
「なんて、情けないやつなんだ。ひっぱたいてやりたいくらいだ」
 と、自分で自分を苛めるという感覚が、急に心地よいものだという感覚になった。
 それが自分の中での言い訳のようなものであり、決して、人に知られたくない部分であり、
「知られるかも知れない」
 と感じることが、ドキドキしてしまうという以上性癖だと思うようになった。
 それが、
「自分の中にあるM性だ」
 と思うようになったのだった。
 小学生で、M性などという言葉を知らなかったので、おぼろげにこんな性格だという意識があっただけだが、中学生になって思春期に入ってくると、まわりが皆、
「自分が異常な性格なのではないか?」
 と思うようになり、実際に、
「異常性癖」
 に纏わるような本を読んだりするようになっていた。
 それぞれ、子供同士で情報交換などを行うようになり、その中には、二重人格であったり、SMのような感覚。あるいは、人を襲いたいというような、狂暴ではない方の却ってヤバい方、静かに考える、ストーカーのような粘着系の人がいたりと、さまざまであった。
 そういう意味では、M性というのは、まだマシな方なのかも知れない。人に迷惑をかける系ではないだけに、そんなに人から異常とは思われないが、自分の中では結構ヤバい方だと感じるのだった。
 それは、
「内に籠る性格だ」
 というところが表に出ていて、隠そうとする思いと、気が付けば表に出ているという、まるで逃れられないようなところがジレンマとなって襲い掛かってくるからだった。
 そんなM性について、一番最初に理解していたのが、頼子ではないかと思っている。
「もし最初に気づかれるとしたら頼子だろうな」
 という思いはあった。
 何しろ、一番一緒にいる時間が長いのが頼子だった。
 親とだって、先生とだって、一緒にいる時間が長いように思うが、その中でいちいちスイッチのようなものを切ってしまうからだった。
 先生などは、他の生徒も見なければならず、親も仕事のことでいつも頭がいっぱいの状態だった。
 頼子の場合は、四六時中一緒にいるというわけではなかったが、一緒にいる時間が長かったのは間違いのないことだった。
 それに、二人とも他の人を気にすることはなかっただろうと、渡良瀬は思っていたが、本当は妹たちの存在が大きかったことで、頼子も、渡良瀬を気にしてはいたが。さすがに妹たち以上ということはなかったのだ。
 それに気が付いたのが、三年生になってからのことだった。
 いよいよ受験という、人生で最初の難関に挑まなければいけなくなったことで、一人の人間ばかりを気にしているわけにはいけなくなった。
 それなのに、頼子は自分に対しての見方が変わったわけではない。
「ということは、頼子は今までも、自分だけではなく他の誰かを気にしていたということだろうか?」
 と思うようになり、ここまでくると、
「その相手が妹たちだ」
 ということが分かるようになったのだ。
 中学三年生というと、次女が中学一年。思春期に差し掛かっている。三女は小学五年生。そろそろ、思春期になる心の準備がいる頃である。頼子にとっては、自分が通ってきた道、妹たちを少しでも楽に進ませていやりたいと思うはずだ。それほど、頼子はいい子だと思っていたのだ。
「ねえ、頼子って、いつも妹たちばっかり面倒見ているように見えるんだけど、自分で楽しいことを見つけてできているの?」
 と友達から聞かれていた。
「うん、大丈夫だよ、妹たちがいるからと言って、自由が奪われているわけじゃないからね」
 というのだった。
 確かに、頼子は友達から言われなければ、誰も彼女の苦労だったり、努力を知ることはないだろう。それを見ていると、
「頼子が可哀そうだ」
 と思うようになっていた。
 何が可哀そうなのかよく分からないのだが、渡良瀬なりに考える、
「可哀そう」
 があるようだった。
 その、
「可哀そうなことというものを、理解しているのは自分だけだ」
 と思うことが、渡良瀬の中の気遣いなのではないかと思っていたのだが、それが大きなお世話であるということに、気づいたのが、
「自分の中にあるのが、M性だ」
 と感じたからだった。
 世の中には、
「人から苛められたい」
 などと思っている人がいるなど、想像もしていなかった。
 目の前で苛めを受けているゆかりの存在を目の当たりにしているので、そんな性癖というのは、いじめられっ子に対して失礼だと感じるようになっていた。
 ゆかりが苛められているのを見て、ゆかりの気持ちが分かった気がした。
 それは、自分にM性があり、ゆかりが苛められているのを見て、最初は、
「可哀そうなので、自分が変わってあげたい」
 と感じていたのだが、そのうちに、苛められているゆかりが羨ましく感じられるようになった。
 それは苛めを受けることで注目を浴びていると思えたからで、まさかそんなことはないはずだった。
 苛めを受けて、それを羨ましがられるなんて感じているなどと、ゆかりが知ったら、ショックで、もう口もきいてもらえなくなり。天ケ瀬姉妹とも、絶縁になるかも知れない。
 家族ぐるみで仲がいいので、親からも、
「渡良瀬君、最近来ないわね」
 と言われ、その理由に関しては、きっと見当違いの理由を考えるに違いなかった。
 渡良瀬が来なくなった理由を、頼子は、
「渡良瀬君の中にある性格の問題」
 とまでは思っていたが、まさか、彼が自分のM性に悩んでのことだとは思わなかった。
 だが、来なかった期間は短いもので、母親が気にするようになってから何日か後には、あっけらかんとして、いつものように現れていた。
 それを見た頼子の方では、
「あれ? 私の勘違いだったのかしら?」
 と感じた。
 頼子が、渡良瀬の性格の中にある問題が原因で来なくなったと思っていたことで、こんなに早く復活するなどと、思ってもいなかったことだろう。
作品名:天ケ瀬三姉妹 作家名:森本晃次