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天ケ瀬三姉妹

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 自分を助けてくれる救世主がきっと現れると思っていたのかも知れないと思うと、後からであったが、ゆかりが自分に感じた、
「救世主」
 のような存在と、ちひろという女の子の存在とが、自分の中で一緒になったりはしなかったのだろうか?
 という、少し不可思議な感覚を抱いていたのだった。
「ちひろちゃんって、私の考えていることが、すべてわかるみたいなの。一郎兄ちゃんは私が考えていること、すべてわかってくれているのかしら?」
 と、ゆかりに聞かれたことがあり、返事ができなかった。
 ゆかりもさすがに、まずいと思ったのか、すぐに話をそらしたが、ゆかりにとって、絶対に聞いておきたいことだったに違いない。
 ただ、そこにゆかりにとっての、納得がいく答えが返ってくるかということを考えていたかどうかは、甚だ疑問ではあった。
「俺は、頼子のことが好きなのかも知れない」
 と唐突に思ったのは、たぶん。母親から兄がいたということを聞かされた時だったのではないかと思うのだった。
 兄がいたという事実と、頼子に感じていた感情が、どこかでいったん交差して、さらに離れていったことで、感じたのは一瞬だった。
 そのことを感じたことで、自分が天ケ瀬三姉妹に何を感じているのかが、少しずつ分かってくる気がしたからだ。
 今までは、
「俺には兄弟がいないから分からない」
 といっていたことの、根本が変わってきたからであり、それを知りたいと以前から思っていたことの理由がここにある気がしたからだった。
 渡良瀬は、前述で、
「自分はM性があるのではないか?」
 と感じていたが、その感情はまんざらではないようだ。
 頼子に合わせようとする感覚と、M性というものを一緒にしてしまうのは、乱暴で危険なことではないかと思うのだが、実際に頼子と一緒にいて、そんな感情を抱いたことがあった。
 それは、小学生の三年生の頃で、頼子をクラスメイトとして意識しだした頃で、次女、三女など知らなかったという、ある意味短い期間のことだった。
 それだけに意識としては憶えているのだが、自分にとっての黒歴史のようなものだという意識から、わざと意識を消そうとしていたように思える。
 だからこそ余計に、内容は別にして、そういう意識があったということだけを覚えているのであって、それこそ、たまに夢に出てくるくらいで、その時は、
「こんなことがあったんだ」
 というのを思い出すという程度であった。
 あれは遠足に行った時だったか、遠足というか、登山に近いものだった。
 とはいえ、小学三年生のいく遠足などで、それほど危ないところに行くことはなかった。
 一般の登山道の入り口にあたるところくらいまでを、集団で歩いていくという程度のもので、歩きながら、自然に親しめるという意味で、計画されたものだったのだろう。
 それでも、まわりの大人の人は皆、登山の恰好をしているので、
「どうして、皆あんな恰好をしているんだろう?」
 と子供心に感じたものだった。
 その時、滝つぼの近くまで行ったのだが、初めて滝というものの壮大さに驚かされた気がした。
 前述の夢で見た滝の光景の基礎になっているのが、この時に見た滝だったのだ。
 その滝の勢いというのは、かなりのものだった。
 前述のような水しぶきで前が見えないようになったところで、その時、自分では、何がどうなったのか、どうやら皆とはぐれてしまった。そばには頼子がいて、
「大丈夫だよ。僕がいるから」
 といって虚勢を張っていたが、正直足の震えが止まらなかった。
「うん、分かった」
 といって、頼子の顔もひきつっていたようだが、渡良瀬には、やたらと頼もしく見えたのだ。
「男の僕よりもしっかりしている」
 と思ったのだが、その理由はいくつかあるだろう。
「女の子というのは、男よりも弱いものだ」
 という先入観。
「自分が怖がっているのを見せたくないという虚勢を張っていることを自覚しているから、どんな相手でも冷静に見えるのではないか?」
 という思い。
 さらには、
「ここで弱虫だと思われると、まわりに告げ口されて、バカにされてしまう」
 という思いがあったからだ。
 それぞれに、密接にかかわっているようで、それでいて、一つではない理由が存在しているということを意識しているのだった。
 滝の近くで迷ってしまったのだから、本当なら動かなければいいはずなのに、動いてしまった。
 頼子も心配そうに後ろからついてくるだけで、頼子を意識しながら前に進んでいると、見えていたはずのものが見えなくなってくる。
 そのうちに、足場が緩くなっていることを意識していなかったのか、滑ってしまい、少し崖のようなところから滑り落ちた。
 途中で衣服が木に引っかかって、それ以上落ちることはなかったのだが、ちょうどその時、皆が二人を探しにきてくれたのだった。
「おーい、大丈夫か?」
 という声が聞こえ、必死で返事をしているつもりだったが、声が出ない。
 どうやら、頼子を先生が見つけたようで、
「大丈夫か?」
 という声が聞こえ、頼子の声は聞こえなかった。
 どうやら後で聞いてみると、その時、頼子は恐怖のあまり、声が出せなかったようだ。
 それでも、指を谷の方に向けて、
「あそこです」
 といったのだろう。
「渡良瀬、大丈夫か?」
 と叫ぶ先生の声が聞こえた。
 さすがにここで声を出してしまうと、安定感が保てずに、そのまま谷底に転落するという恐れがあり、声を挙げることができなかった。
 先生が、命綱のようなものを腰に巻き付けて、上から降りてきてくれた。
 小学生なので、すぐに助けてもらえたが、先生も助け上げた後は、脱力感からか、しばらく横になっているようだった。
 子供だから分からなかったが、先生が引率していても、結構怖いところであったらしく、来年からそのあたりまで、小学生は入らないというように決まったのは、渡良瀬のこの一件があったからだった。
 その時、頼子が声も出せないくらい怯えていたというのを聞いた時、
「あの頼子が?」
 と感じ、意外な顔をすると、
「何そんな顔してるんだよ。まだ小学三年生の女の子じゃないか。どれだけ怖かったのかということを考えると分かるというものだろう?」
 と先生が言っていたが、まさにその通りだった。
「あいつ、あんなところで迷ったと言ってるけど、本当は迷うはずなんかないんじゃないか? わざと注目を浴びたくて、一人にんあったんじゃないか?」
 などということをいう、やつもいた。
 子供が子供に浴びせる誹謗中傷としては、かなりのヤバいものだったことだろう。
 それを聞いた渡良瀬は、
「俺にそんなつもりあるわけないじゃないか。ただ、頼子と二人きりになりたいという意識があったのは、本当ではないだろうか?」
 と感じていた。
「二人きりになって、何をしたいというんだろう?」
 それは、遠足の数日前だっただろうか? 頼子が、男の子から苛められているのを見たことがあった。
 その時は、苛めというか、じゃれ合っているようにも見えるのだが、何やら、虫を近づけられて、怖がっているとことだった。
 それを見た渡良瀬は、
「おい、何やってるんだ?」
作品名:天ケ瀬三姉妹 作家名:森本晃次