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天ケ瀬三姉妹

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 それは、頼子が渡良瀬のことをどう考えているかということを度返しにしてのことである。
「ということは、俺は頼子のことを慕いたいと思っていながら、彼女のことを正面から見ていなかったということなのか?」
 と急に頼子に対して気の毒に感じられるようになった。
 だが、本当は気の毒だなどと思ってはいけない。思ってしまうと、自分の気持ちがわがままであったということを認めてしまうことになるからだ。
 そして、今そのことを思い出してしまうと、はるかも、
「自分のことしか考えていないのではないか?」
 と思えてくるからだ。
 しかし、それは無理もないことだ。なんといっても、この間までは小学生、まだ子供だったではないか。
 大人になるということがどういうことなのか、渡良瀬本人でも分からないというのに、まだ中学一年生のはるかに分かるはずなどないに違いない。
「今まで頼子のことを好きになったことがなかっただろうか?」
 というのを思い出していた。
 頼子とは結構一緒にいることが多かったが、その時に感じたのは、
「やたら、姉妹のことを口にする女の子だな」
 ということであった。
 渡良瀬は一人っ子だったので、三姉妹というのが羨ましく、さらに、新鮮に感じていた。
「三兄弟というのもまわりにはいないが、三姉妹がこんな身近にいるなんて」
 という思いからだった。
 頼子とは、小学三年の頃からよく遊んでいたが、その頃はゆかりは一年生になったところで、はるかは、保育園だっただろうか?
 その頃ははるかのことは、どちらかというと眼中になかった。まだ物心がついていない頃だったので、それも当然のことだろう。
 その小学三年生の頃から、よく妹たちのことを話していた。さらに、
「あっ、今日ははるかちゃんの子守りをしないといけないだった」
 といって、思い出したように、こちらにかまうことなく、急いで家に帰っていくこともあった。
 渡良瀬はそんな頼子の後姿をいつも見送っていた。その時に、彼女のことを、
「頼もしい」
 と感じ、妹が羨ましく感じたほどだった。
 理由は子供には分からなかったが、たぶん、その頃から、
「癒されたい」
 と感じたからではないだろうか。
 そんな毎日が忙しい頼子は、よく渡良瀬に愚痴っていた。
「渡良瀬君はいいよね。子守なんかしなくてもいいんだから」
 というではないか。
 それまで、羨ましいとは思ったが、そういえば、そういう煩わしいことをしなくてもいい自分がよかったとは思った記憶がなかったからだ。
「そっか、頼子は、俺のことを羨ましいと思っていたんだ」
 と感じた。
 自分も姉妹兄弟がいる人を羨ましいとは思っていたが、リアルに仕事があってきついということはないだけに、
「自分よりも頼子の方が切実なんだろうな」
 と感じた。
 ただ、今は、渡良瀬にも、姉妹兄弟のことが何となくだが分かる気がした。
 これは、渡良瀬が中学に入って頃に母親から聞かされた話だったが、
「お前には、お兄ちゃんが本当はいたんだよ」
 という衝撃的な事実を聞かされた。
「お兄ちゃんって、今までそんな話、一度も聞いたことがなかったけど?」
「実はね。これはお父さんも知っている話なんだけど、お母さんがお父さんとお付き合いをする前にお付き合いをしている人がいて、その人との間に、子供ができたの。お母さんも、その人も結婚するつもりでいたんだけど、その子をね、流産しちゃってね。それからその男の人、少し変わってきてね。どうやらお母さんのせいで子供が死んだって思っていたようなの。だから、それから二人の間はぎくしゃくしちゃってね。結局、結婚せずに、別れてしまったということなの」
「じゃあ、その男の人は、お母さんよりも、子供に方がよかったということなんだろうか?」
「一概にはどうだとは言えないと思うけど、お母さんも悩んじゃってね。もう、子供はおとか、男性を好きになるなんて思わないようにしようと思ったのよ」
「でも、お父さんと結婚したんでしょう?」
「うん、私が妊娠していることからお父さんは私のことを知っていてくれてね、いつも励ましてくれていたの。でも、私が流産して、、自棄になりかかっていた頃に、お父さんだけがずっとお母さんのそばについてくれていたのよ。それが嬉しいという気持ちと、申し訳ないという気持ちと、さらには、放っておいてほしいという気持ちとが交錯してね。自分でもどうしていいのか分からなくなったのよ」
「お母さんは寂しかったのかな?」
 と聞くと、
「きっとそうだったんだって思う。皆腫れ物に触るように気を遣ってくれるんだけど、それは、自分が、壊したって言われたくないからで、それを責めるつもりはないわ。でも、お父さんのように、それでも寄り添ってくれようとする人の存在は、決して犯すようなものではない。だから、次第にお母さんもお父さんを頼るようになり、慕うようになっていったのね。あの頃のお父さんには、感謝以上、感謝以下の何物でもないわ」
 と、いうのだった。
「でも、感謝ばっかりなの?」
「うん、その時は感謝しかなかった。でもね。そのうちに、私がちょっとキレちゃって、もう放っておいてって自棄になったのね」
「それで」
「お父さんは、必死で私の肩を揺すりながら、お前のそばにはこの俺がいるって言ってくれたの。それが嬉しくてね。セリフはべたなんだけど、それだけに気持ちが通じるというのかな? べたなセリフを口にしても、白々しさなどがない。そんな人って、慕いたくなるものでしょう?」
 といって、ニコニコしていた。
「お母さんはどうして、今この話をしてくれたんだい?」
 と聞くと、
「前から言いたかったんだけど、お前が大人になりかかっているということに気づいた時にしようと思ったのよ。こういう話をしても、分かってくれなければ意味がないと思ったからね。きっとお前なら、お兄さんがいたことを知っても、ショックを受けたりしないと思ったんだけど、それまでの話が理解できないかも知れないと思ってね」
 と言われて考えてみると。
「確かに、お兄さんの存在を受け入れることはできても、大人の世界のことは理解ができないかも知れないな」
 と感じた。
「大人の世界って、どこからが大人の世界なのかって、お前にはまだ分からないだろう?」
 と言われて、
「うん、分からない」
 と答えると、
「お母さんもそうさ。一度はこの時が大人への入り口だって感じる時が必ずあるようなんだけど、それが、本当の入り口ではないと感じることもあるようなのよ。それがどのような感情なのかって、難しいところなんだけどね」
 と、母親はいうのだった。
「それはまるで、年輪のようなものじゃないのかな?」
 と感じたのだ。

                 次女のゆかり

 母親からこの話を聞いた時、聞いたその時は母親が話をしてくれているという意識があったことで、それほど必要以上に意識はなかったが、気が付けば一人になるのは当たり前のことで、寝る前にもう一度母親の話を思い出すと、何か不思議な感覚が襲ってくるのだった。
「そういえば、それまでに、何かおかしな現象があったような気がしたっけ?」
作品名:天ケ瀬三姉妹 作家名:森本晃次