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天ケ瀬三姉妹

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 結局、その時は結局彼が一番遅かったのだが、予定通りに行動することができた。
 彼の存在があるから、渡良瀬は、30分以上待つことになる。しかも、下手をすれば、一時間である。
 しかし、これは面白いもので、もし一時間待たされたとしても、最初の30分と。後の30分では、明らかに違っている。約束の時間までの時間は結構長く感じるのに、タイムリミットを過ぎてからの、ロスタイムは、それほど時間がかかる気がしないのだ。
 これはサッカーなどでのロスタイムとは違い、どちらかというと余生のように感じる時間だからであろうか。
 サッカーなどはこの時間が、
「魔の時間」
 と言われているようで、その時間に気を許すと、相手に点を与えてしまう。
 そういえば、今から30年くらい前に、
「ドーハの悲劇」
 というのがあったということを聞いたことがあった。
 中学時代までサッカー部に所属していた渡良瀬は、どうしても、サッカーに例えてしまうところがある。
 高校に入ってサッカーをしないのは、高校ではあまりにもレベルが違いすぎて、
「しょせん、俺は中学レベルまでなんだな」
 と思ったからだった。
 それに、
「どうせすぐに、受験勉強で部活をしたとしても、できなくなるんだ」
 と思ったからで、サッカーだけではなく、部活自体をやらないようにしたのだった。
 いわゆる、
「帰宅部」
 というやつだが、最近では身体がなまってきていて、ジョギングを朝するようになった。
 運動というと、それくらいのもので、筋肉が収縮しているからなのか、たまにこむら返りを起こすようになっていたのだ。
 それなので。最近は、三十分も前から行って待つのはつらくなってきた。そのせいで、せめて15分くらいに待ち時間を狭めたのだった。
 そのつもりで、その日も約束の15分前についたが、その日の計画はしっかりと練っているわけではなかった。
 本当は年上の自分がエスコートするべきなのだろうが、デートをすることすら初めてなので、ネットでいろいろ見たりしたが、あくまでも、ネットの情報は、初めての人への若葉マークではなく、ある程度デートの経験がある人たちが、
「たまには、変わったところでのデート」
 という認識で探している情報が多いようだった。
 だからといって、他の友達に聞くわけにはいかない。三姉妹の家族には内緒だということなので、友達でも危ないくらいだ。もし、待ち合わせが、誰かに見つかったとしても。二人の仲なので、二人でどこかに行くというくらいは普通だから、それは問題ない。しかし、これがデートだということになると、いろいろややこしいということで、まわりには知られないようにしようというのが、二人の一致した意見だった。
 そもそも、二人が付き合うということは、今のところ、普通に考えられないということなので、このデートが恋愛に発展するということもないだろうと、お互いに思っていた。
 二人の感覚は、
「思い出作り」
 であり、それ以上でも、それ以下でもない。
 だから、二人は、
「最初で最後のデートだ」
 と思っていることだろう。
 もちろん、これからも二人でどこかに出かけることはあるだろうが、その時は、誰にも隠すことはなく、普通に出かける。そうなると、デートでもなんでもないのだった。
「ゆかりちゃんの受験前に、俺がデートというものを味合わせてやるよ」
 という感じで軽くいったのだが、ゆかりは、キャッキャッと喜んだ。
 本当に、まだ大人になり切れていない少女だったのだ。
 ゆかりは、渡良瀬に彼女がいないどころか、彼女いない歴が、年齢と同じだということを知っているだろうか?
 だから、デートに誘われたとしても、ぎこちないデートになるということを知らないだろうから、何とか失望させないようにしようと思っていた。
 だが、それは実は鳥越苦労だった。
 渡良瀬に彼女がおらず、彼女いない歴が年齢と同じだということを、ゆかりは知っていた。その情報源は他ならない姉の頼子だった。
 頼子は、意外と渡良瀬のことをよく見ていた。高校も同じ学校になり、クラスこそ、この二年間別々であるが、見ている限り、渡良瀬に彼氏がいたということはない。それを頼子は家に帰って、よく話していた。
 食事の団欒の時などに、渡良瀬の話題を出すと、結構ウケるのだ。
 渡良瀬の話題があまりにも盛り上がりすぎて、失礼になりそうな時は、母親が止めていた。
「ちょっと、それ以上いうと、失礼よ」
 と言いながら、母親も笑っていたものだ。
 そんな渡良瀬だったが、それだけ天ケ瀬家では人気がある。
 もし、子供が、
「デートに行く」
 といって、
「誰と?」
 と聞かれて、
「渡良瀬さん」
 と答えたとすれば、まず最初に、奇声が上がるかも知れないが、次の瞬間には、
「そう、それなら安心だわ」
 と言われるだろう。
 それだけ、意外ではあるが、全幅の信頼を置いているということで、親の方も、
「三姉妹の誰かが、渡良瀬君と結婚してくれればいいのに」
 と思ったが、
「ひょっとすると、そこで三角関係、いや、四角関係が起こってしまったら、どうしよう」
 とも考えていたのかも知れない。
 とにかく、渡良瀬と、天ケ瀬家との信頼関係はかなりのものであり、却って、渡良瀬の母親が恐縮するかも知れない。
「うちの息子に、お嬢さんをなんて、そんなもったいない」
 と言われることであろう。

                 三女のはるか

 待ち合わせの時間がそろそろだと思って、まわりを見渡してみたが、どこにもゆかりを見つけることはできなかった。
「スマホで連絡を取ってみようか?」
 とも思い、スマホを握りしめていたが、
「移動中かも知れない」
 という思いと、
「まだ、待ち合わせの時間になったばかりではないか」
 という思いとが交錯し、もう少し待ってみることにした。
 いつも待ち合わせをしている人であれば、そのあたり、気にもせずに連絡を取るかも知れないが、逆に少し遅れるくらいは、想定の範囲内だと思う。しかし、ゆかりとは、二人だけでどこかに行くということが初めてで、当然待ち合わせなど二人だけでしたこともない。それを思うと、自分が何か焦っているかのように感じられたのだ。
 ゆかりを待っているこの15分くらいの間、自分がゆかりのことを好きになったかも知れないと感じた。
「いや、元々の心境がどういうものだったのかを忘れてしまっていて、今は何となくではあるが、気になってしまっている。これは、待ち人を待っている際に感じる錯覚なのかも知れないが、今はそれでもいいと思っている。これが待つことを億劫に感じてしまっていると、気になっているといっても違った感情になるんじゃないかな?」
 と思うからだった。
 待ち合わせの時間から、5分が過ぎた頃だった。
「一郎お兄ちゃん」
 と、後ろから声が聞こえた。
 反射的に後ろを振り向くと、そこにいるのは、三女のはるかだった。
「えっ? はるかちゃん?」
 と思わず、ビックリしてしまった。
 思考回路が停止した気がしたが、それは一瞬のことで、すぐに元に戻っていた。
「どうしたんだい?」
「お姉ちゃんを待っているんでしょう?」
作品名:天ケ瀬三姉妹 作家名:森本晃次