歴史の証明と、オカルト、SF系とのコラボ
一日にどれだけの原稿が来るのかは分からないが、そんなに大きくもない出版社なので、何十人も、社員がいるわけはないだろう。毎日それだけのことをしているのだから、社員に対しても、かなりな負担をかける、
「ブラック企業」
に違いない。
それだけの人の人件費も当然必要で、さらには、本を製作するのに、印刷代、紙代、細かいことを言えば、備品に至るまで結構なものであろう。
ここで意外と忘れられているかも知れないと思うのが、
「在庫保有のための倉庫費用」
である。
「在庫?」
と普通なら思うだろう。
しかし、本を出すといって実際に、提示するのは、千冊くらいが相場だろう。
毎日、数冊が発刊予定だとすると、一日で、数千冊、一か月だと、数十万冊から、百万に届くくらいになるだろう。
作者に数冊は渡すとしても、残りの990冊以上は、売れるはずもないのだから、在庫になる。そんなスペースが出版社にあるはずはなく、在庫として、倉庫を借りるだろうから、在庫を持つための費用もバカにならないだろう。
これが完全な自転車操業である。
つまりは、本を出したいという人から原稿を募って、何とか、おだてすかして、いかにお金を出させるかということがミソである。
それこそ、定価×出版部数の倍額くらいを著者に出させるくらいでないと、回らないのである。
人件費に広告費、本の製作費、そして在庫保有費と、普通の会社の管理部門が管理している費用以上に、それだけかかるのだ。
本を出したいという人をたくさん募って、何とか本を出させるようにしないと、この会社は回らないのだ。
確かに、やり方は最初はうまいだろう。
今までの出版社の盲点を突くようなやり方で、本を出したい人に興味を持たせるところまでは成功だっただろう。
しかし、そんなことがそう何年も続くと思っていたのだろうか?
それこそ、どんなに儲かったとしても、一過性のものでしかない。ブームが過ぎれば、誰も見向きもしなくなるということが分かっていなかったのだろうか?
本当であれば、二番煎じではなく、最初にこの事業をやりだしたところが、ある程度まで儲かったところで、うまい引き際を見つけて、その業界から撤退するというのが、一番うまいやり方のはずである。
そこで儲けた資金を元に、他の儲けを考えるというのが、当然のやり方であろう。
一度金に目がくらんでしまうと、そんな簡単なことも分からなくなってしまうのだろうか?
結局、戦争やギャンブルと同じで、
「辞め時が一番肝心だ」
と言われるのだ。
そう、この業界はギャンブルのようなものだ。考えてみれば、こんなやり方が最初から成功すると思っていたのだろうか? 確かに、盲点をついたやり方なので、少しは儲かるかも知れないが、それも、辞め時を誤らなければという話であって、実際に、やってみると、
「こんなにもバカな連中がいたんだ」
というほど、想定外に、本を出す人がいたということなのかも知れない。
そのため、
「このやり方は儲かるんだ」
ということで、罪悪感もなくなってしまったのだろうか?
「本を出したいという人がいるから、俺たちがその手伝いをしてやってるんだ。そんな俺たちが潰れたら、本を出した人だって困るだろう。俺たちは悪くないんだ」
と思い込んでいたのかも知れない。
しかも、儲かるし、世間では、まるで成功者のように、インタビューに来たりで、全盛時には、取材で引っ張りだこだったこともあったくらいだ。
完全に、見えなくなっていたのか、それとも、ここまでくれば、自分たちの意思ではどうにもならないくらいに、話題性が大きくなってしまったのだろうか>
これもバブルと同じで、誰も悪いとは言わず、そのまま流れに身を任せることになってしまい、収拾がつかなくなり、最後には、まわりを巻き込んだり、作者の人たちに、やっと怪しまれることになり、訴訟を起こされることになった。
「しまった」
と言っても、もうどうにもならない。
本を出そうと出版日を待っている人もいれば、今まさに製作の真っ最中の人もいる。そして、企画の途中の人もいれば、原稿の結果を待っている人もいる。
どこも止めるわけにはいかないのだ。
裁判沙汰が有名になると、もう宣伝に引っかかる人はいなくなる。本を出した人、これから出そうと、製作中の人はそこで初めて、この怪しいからくりに気づくことになるだろう。
しかし、金が返ってくるわけでもない。とりあえず、本を作って、売ってもらうしかないのだが、本を置いてくれる店などあるわけもない。
そうなると、もう、出版社は、沈みかけたタイタニック状態だ。
大きな社会問題を巻き起こし、結果、会社は倒産。さらに在庫になった本を、
「七掛けで買い取れ」
という民事再生を訴えたことで、債権者は、お金を返してもらえない理不尽さで、弁護士からはそう言われるのがオチだった。
「何言ってるんだ。こっちは、共同出版だから、本は、全部無料で作者に返すのが道理じゃないのか?」
といったところで、法律を盾にされると、どうすることもできない
最後は、だまされた方も泣き寝入りになってしまい、悲惨な状況しか残らないことになるのだ。
もっとも、騙される方も悪いと言えなくもないので、何とも言えないが、ある意味、
「どっちもどっちだ」
としか言えないだろう。
最近、ちょっと趣味で小説でも書いてみようということで始めたのに、それが調子に乗ると、簡単に詐欺商法に引っかかってしまう。
出版業界というものは、それ以降、どんどん厳しくなってくる。
街から、本屋は消えていく。活字を見る人も減ってきて、マンガであっても、スマホで見る時代になってきたのだ。
紙媒体の作品は次第に減ってくる。ネットで販売したり、映像化した作品も、ネット配信などという形になってきたので、今では、テレビやパソコンを持っていない若者が増えているのだ。
確かにほとんどスマホでできるからだというのがその理由なのだろうが、考えてみれば、あれだけの人が、
「本を出したい」
「小説家になりたい」
と思っていたはずなのに、どこに行ってしまったのだろうか?
あれも、やはり、
「実態のないバブルだった」
といえるのではないだろうか。
小説に限らず、マンガ、映像作品など、昔のままでいられるものは、もうほとんどなくなってしまった。
ただ、趣味で小説を書いているという分には、誰にも迷惑はかけないし、問題にもならないだろう。
SNSなどの、
「無料投稿サイト」
というものが、一時期流行ったが、きっと、本を出したいと思っていた人たちの行き着いた先だったのだろう。
あれから、十年、無料投稿サイトへの投稿も、まったく減ってしまった。小説業界はどこに行くのだろうか?
ただ、草薙はそれでもよかった。あくまでも趣味であり、実際になりたいものは、研究者であった。学問の道を志す中で、一つの趣味として、小説執筆があるだけだった。
中には、草薙のように、他に仕事を持っていて、本当に趣味で小説を書いているという人もいるだろう。
作品名:歴史の証明と、オカルト、SF系とのコラボ 作家名:森本晃次