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必要悪な死神

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「そういえば、僕は扁桃腺がよく腫れて、高熱を出すんだけど、熱が身体に籠っているのが分かることがあるんだ」
 と友達が言った。
「そうそう、それと同じことなんだけど、熱が出る時というのは、身体の中で、風邪のウイルスと戦っているから、熱が出るんだっていうんだよ。だから、熱が出始めたら、熱をすぐに下げるんじゃなくって、今出ている熱を出し切るまで、本当は身体を温めなければいけないんだ。身体に熱が籠るからね。だから、熱が上がっている最中というのは、汗をかかないだろう? それで、熱が一気に出てしまえば、汗をかき始める。汗を掻いてくると、身体がサッと楽になってきて、体温も下がってくるんだよ。その時になって、やっと身体を冷やすんだ。つまりは、汗で毒素を身体の外に出しているということだね」
 と、村の人が言った。
「そういえば、僕にも経験があるな。小さい頃に、熱が出た時、父親は会社に行ってて、母親も女なので慌てるばかりだったけど、たまたま家に来ていた、知り合いのおじさんという人が、熱があるのに。僕の身体にタオルを巻きつけたりして、身体を温めていたんだよな。なんでそんなことをするのか分からなかったけど、ある程度まで熱が上がってくると、汗が出てきたんだよね。そうすると、スーッと楽になっていった覚えがあるんだけど、あの時のおじさんって、医者だったのかも知れないな」
 と、その時のことを、塚原は思い出していた。
 ただ、あの時、
「どうして、あのおじさんという人はうちにいたんだろう?」
 と、今になると感じた。
 そういえば、母親は、時々出かけていて、時々知らないおじさんと一緒にいることがあった。
 いつも違うおじさんだったような気がしたので、
「おかあさんは、知り合いが多いんだ」
 と思っていた。
 父親は、家に客を連れてくることはなかった。そもそも、いつも仕事で忙しく、ずっと顔も見ないことが多かったので、顔さえ忘れてしまうほどだった。
 お母さんは、父親がいないからと言って、寂しがっているところを見たことはなかった。いつも誰かと一緒だというイメージがあり、子供心に、
「気が紛れていい」
 と思っていたほどだった。
 子供の世界では分からなかったが、どうやらお母さんは、まわりの人から嫌われていたようだ。
 子供から見ていても、天真爛漫で、憎めないように見える母親なのに、何を嫌われているというのか、分からなかった。
 さすがに、子供に、
「あなたの母さんは嫌いだ」
 などという大人がいるわけもないが、母親を見る他のおばさんたちの視線が、あまりいいものには思えなかった。
 どうかすると、自分まで睨まれているのではないかと思うくらいだ。
 その視線は、苛められていた経験が、なせる業なのかも知れない。しかも、自分を苛めていたのは、ある意味勘違いによる、
「逆恨み」
 のようなものだった。
 母親に対しての恨みのようなものを、子供にぶつけるのも、一種のお門違いの勘違いではないだろうか。逆恨みに近いものに違いない。
 それを思うと、その視線に、さほど違いはないのではないか。
 だから、母親に対しての、異様な視線を感じることができたのであって、それが、母親の性格が天真爛漫であるだけに、余計な気遣いをさせられているようで、母親に対して、いや、母親と一緒にいる、
「知らないおじさん」
 に対して、塚原も異様な視線を向けていることだろう。
 今から思えば、あの時先生がすぐに駆けつけてくれたのは、母親と何か関係があったからなのかも知れない。
 いや、実際には偶然だったのかも知れないが、一度不倫を疑った母親に何か不自然なことがあれば、
「この時もまた、不倫だったのではないか?」
 と感じてしまうのだった。
 こういう、
「負の連鎖」
 をどこかで止めなければならないと思うのだが、なかなかそうもいかないのだ。
 だから、今回、塚原が、
「友達が田舎に一緒に遊びに行かないかって誘ってくれているんだけど?」
 と話した時、
「お母さんはかまわないわよ」
 と二つ返事だったのが、少し気になったが、母親が不倫をしていることを、子供が気づいているなどと本人は知っているのだろうか?
 不倫をしているのに気付いたのは、ただの偶然だった。忘れ物をしたので、取りに帰った時に、偶然、それらしい現場を目撃してしまったという、実にべたなことであった。
 不倫などという言葉、ドラマかマンガの世界だけのことだと思っていた。塚原も、塁にもれず、
「不倫は悪いことだ」
 と思っていて、そのことを信じて疑わない。
 それよりも、自分の母親が、
「そんな悪いことに加担していたなんて信じられない」
 という思いだった。
 そう、この時、塚原は、
「加担していた」
 と思っていたのだ。
 つまり、自分の母親が家族を裏切るようなことをするはずがない。きっと相手の男にたぶらかされたんだ」
 という思いであった。
 そう考えると、何か、後味の悪さを感じた。まるで、苦虫を噛み潰すような感覚になったのであって、どこからこんな思いがくるのか、すぐには分からなかった。
 しかし、母親が、
「たぶらかされた」
 と思うと、
「男は、不倫をするものであり、女はいわゆる女たらしと呼ばれる男に引っ掛かりやすいんだ」
 と、思うようになった。
 そうすると、
「男と女って、好き同士じゃなくても、惹かれてしまうと、好きになったような錯覚を起こすのだろうか?」
 と感じた。
 自分が四年生の時に気になっていた女の子が、自分に対してどのような気持ちでいたのか分からなかったが、あの時は、相手の気持ちを考えることなく、自分の感情だけで動いてしまったことを、後悔するというよりも、
「穴があったら入りたい」
 と思うほどの、屈辱感があった。
 自分中心に考えてしまったことを恥じているのである。
 自分で勝手に気になったから近づいていった。そして、髪型を変えてきたことを、勝手に、
「裏切られた」
 と思ってしまって、裏切った相手を憎むまでの感情はなかったのだが、このまま一緒にいると、憎んでしまうような気がして、自分から離れようとしたのだった。
 だが、それを自分で正当化していたのだが、実際に正当化などできるのだろうか?
 少しでも相手の気持ちを考えることができていれば、正当化もしょうがないのだろうが、気持ちを考えることができるだけの余裕があれば、正当化などしなくても、大丈夫な気がする。
 自分が正当化しなければいけないと思うのは、自分の中で納得いかないことがあり、自分で自分を納得させるための何かを得ようと考えるからではないだろうか。
 そんなことを考えていたから。母親が、
「不倫をしているのではないか?」
 と偶然の目撃から、不倫を疑うようになり、その疑惑が次第に信ぴょう性を感じられるようになると、その思いを否定できないだけの事実を見つけてしまった。
「それが、塚原の、塚原たるゆえんである」
 という、変な納得の仕方になってしまったのだった。
「結局、形は違うけど、俺と母さんは、同じ穴のムジナということなのかも知れないな」
 と感じた。
 だから、もし、塚原が、
「モテる男」
作品名:必要悪な死神 作家名:森本晃次