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必要悪な死神

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 という人は、本当に希少価値で、
「昔は、村で育った子供は、村がいいといっていたものだ」
 と言っていたが、それは、戦争前後の食糧難の時代から考えると、食料も住むところも、就職先すらない都会にいることを思えば、田舎がいいのは当たり前で、
「皆都会から、着物や、家宝などを持って、田舎に買い出しに来ていたものだけど、田舎の方もそんな都会から、似たようなものばかりで、交換する気にもならないくらいだったからね。田舎に住んでいる人に対して、都会の連中が頭が上がらなかったのだよ」
 と教えてくれた。
「そんなひどい時代だったんですか?」
 と塚原が聞くと、
「ああ、そうだね、今は都会も復興して、完全に立場が逆転してしまったからね。田舎では就職先もないし、稼ぐこともできないから、中学を卒業すると、集団就職とか言って、学校と、都会の企業とで繋がっていて、どこの学校から何人という感じで、募集がかかっていて、会社の人が駅に迎えに来るまで、会社の人と、新入社員があったことがないなどというのは当たり前だったんだよ」
 というではないか。
「じゃあ、自分が行きたいところなのかどうかというのは、分からないということですか?」
 と塚原が聞くと、
「ああ、そういうことになるね。どうやって決めているのかは分からない。成績順に決めていくのか、まあ、それなりに生徒の行きたい業種の候補くらいはあるだろうけど、そんなものをいちいち聞いていたら、時間がいくらあっても、足りないだろうね」
 ということであった。
 商業高校などでは、今でも、いきたい企業の候補はあっても、希望が叶うとは言えないだろう。
 バブルがはじける前の昭和の時代であれば、行きたいところに普通に行けただろうが、バブルがはじけてからというもの、大学を卒業しても、就職ができないという就職浪人が、普通になっていったのだ。
 ちょうど、塚原が小学生の頃というと、バブルがはじけて、就職氷河期などと言われている時代だっただろう。
 そんな時代に、まだ、舗装もされていないような田舎が存在したというのも、今から思えば、
「夢だったのではないだろうか?」
 と感じるほどで、今思い出すのは、縁側でスイカを食べながら、花火をした記憶が一番大きかった。
 だが、それ以外の思い出は、なぜかほとんどなく、その村を思い出そうとすると、小学生の頃に苛められていた自分を思い出すのだ。
 ただ、一つ覚えているのは、友達のいとこが、
「今度、学校で肝試しがあるんだけど、参加しないかい?」
 と言われたことだった。
 怖がりの塚原は躊躇したが、友達は、二つ返事で、
「ああ、参加するよ。塚原君もいいよな?」
 と言われたので、むげに断ることのできず、
「う、うん」
 と言って、恐る恐る賛同したのだが、その時の友達には、塚原のことは視界に入っていなかったのかも知れない。

             思春期の性的好奇心

 この村には、夏休みの間の半分以上はいるということになっていた。
「都会に戻っても、暑いばかりで、親も忙しくて、なかなか休みの間相手もしていられないので、友達と田舎にいくというのは、私たちにとってもありがたい」
 ということだったらしい。
 塚原の親は、父親が銀行員というお堅い仕事で、ただ、少し前なら、
「銀行に就職できれば、つぶれるということはない」
 ということで、花形の職業だったのだが、バブルがはじけてからこっち、
「銀行はつぶれない」
 という神話が、簡単に崩壊したのである。
 それまでは、毎日のように仕事で遅くなっていて、家に帰ってくるのは、日が変わってから。そんな毎日を過ごしていた父親だったが、バブルが弾けてからというのは、毎日提示に帰宅するようになった。
 毎日八時前には帰りついているので、今までは、テレビを見たりするのは、自由だったが、食事の時間まで、父親と一緒に食べるなどという、悪しき習慣になってしまったのだ。
 別に父親と一緒に食べないといけないというわけではなかったのだが、母親が、
「お父さんが帰ってくるまで、ごはん我慢できるわよね?」
 というので、ちょうど、苛められていた頃だったので、変に親に気を遣わせたくないという思いから、
「うん、分かった」
 と、いうしかなかった。
 いつも天真爛漫な母親が、父親に、変な気を遣ったのは、その時だけだった。
 だが、すぐに、父親と一緒に食事をすることはなくなった。どうやら父親が、
「食事くらい、自分の食べたい時でいいじゃないか」
 といったらしい。
 これは後から聞いた話だが、当時母親は、誰かと不倫をしていたらしい。
 もちろん、まったく分からないようにしていたのだが、当時、ドラマなどで、不倫などというのが多いことで、天津爛漫な母親は、そんな世界に興味を持ったようだった。
 奥様友達から、誰かを紹介されて、軽い気持ちでお付き合いという感じになってしまうと、嵌ってしまったようだ。
 家庭を捨てるつもりも、まったくなかったのだが、相手の男が言葉巧みだったことで、母親は、簡単に好きになったようだ。
 相手の男の方も。軽い気持ちだったのだろうが、母親の天真爛漫さに惹かれたようだ。
 今まで自分が垂らしてきた女に、そんな、純真無垢な人がいなかったのだろう。
 まるで、
「ミイラ取りがミイラ」
 になってしまったかのごとく、完全に自分を見失ってしまったようだ。
 騙す方が騙されたというと、女たらしとしては、致命的だ。そういう意味で、その男も、母親とは不倫であるが、
「これが最後だ」
 と思ったのだろう、
 ひょっとすると、母親と駆け落ちくらい考えていたのかも知れない。それほど男は母親に忠心で、
「俺は、ここまで母性本能を感じた女はいない」
 と思っていたのだが、母親としても、
「ここまで、男性をかわいいと思ったことはない」
 と感じたようだった。
 しかし、あくまでも、母親は不倫の範囲内での感情だった。
 男が真剣になれば、一気に引いてしまうのは、卑怯といえば卑怯なのだが、そもそも、騙そうとしたのは、相手の方だ。男の方も、自ら身を引くことを決断したのは、母親が、自分に真剣になっていないということを感じたからだった。
「俺もそろそろ潮時だろうか?」
 と、相手の男は感じたようだ。
 母親が不倫をしていたことを父親が知るとどうなるだろう?
 気も狂わんばかりに、殴りかかったりするのではないか? 普段は仲良く話をしている二人だったが、お互いに信頼しあっているから、疑うこともないのだろう。ただ、まだ小学生の自分が知っているくらいなので、父親が本当に気づいていなかったのかどうか、疑いたくなるだろう。
 ただ、母親の不倫に気づいたのは、母親が、電話をかけるのを聞いたからだ。
 相手の男が、まだ母親に未練があって、母親がなだめるように諭しているところだったのだ。
 相手の男性の名前をまるで赤ちゃんを呼ぶように、
「ちゃん付け」
 で呼んでいた。
 家にいる時の母親からは想像もできない様子で、母親はそんな赤ちゃん言葉など、嫌いなのだと思っていたほどだった。
 だが、それから数日もしないうちに母親の態度が変わった。
作品名:必要悪な死神 作家名:森本晃次