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必要悪な死神

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 と感じるようになった。
「お前なら立派な薬の開発者になれる」
 と、彼なら薬剤師よりも、開発者を目指すべきだと、塚原は感じていた。
 それだけの素質が彼にはあるのだと思ったからだ。
「実は、俺は少しオカルト的な考えも持っているんだ」
 と友達が言った。
「どういうことだい?」
「ハチに刺される場合や、さっきのはしかなどの伝染病などもそうなんだけど、基本的に刺されたり移ったりすると、抗体というものができるだろう? ハチに刺された場合は、抗体と毒が副作用を起こして、ショック状態になるのが、アナフィラキシーショックだといったんだけど、こういうアナフィラキシーショックなどを起こす時って、どうも、一瞬、魂が身体から離れるんじゃないかって思うんだ。もちろん、小学生の僕にそんなことを研究するすべがあるわけではないので、勝手な想像なんだけど、何かそれに似た発想の小説を読んだ気がしたんだよな」
「その小説家ってどんな人なんだい?」
「それが、名前を憶えていないんだ。家に帰れば分かると思うんだけど、確認するのは、だいぶ後になってしまうね」
 ということだった。
「小説で見た」
 という友達の話は、実に興味深いものだった。
 塚原は、最近、
「小説家になりたい」
 と思うようになっていた。
 家で、よくミステリーやオカルト小説のようなものを読んでいて、ミステリーは、昭和初期くらいの、
「探偵小説」
 と呼ばれていた頃の話が好きだったのだ。
 オカルト小説としては、本当は、
「奇妙な味」
 というジャンルになるらしいのだが、あまり聞かないジャンルだ。
 だが、この、
「奇妙な味」
 というジャンルを最初に提唱したのが、黎明期の探偵小説を支えた一人である、
「江戸川乱歩」
 だというのが、実に興味深い話である。
 ジャンルの枠を超え、ミステリー、SF、オカルト、ホラーなどの要素を組み込んだ、文字通り、奇妙なお話なのだ。
 音楽の世界でも、六十年代後半から七十年代の前半にかけて、世界規模で流行した、
「プログレッシブロック」
 というのも、似たような類の温覚である。
「前衛音楽」
 ともいわれるが、ベースとして、クラシックであったりジャズなどを、ロックにアレンジした形で構成されている。
 クラシックからの派生型のものは、組曲になっているものも多く、昔のレコードでいうA面すべてが一曲の組曲で構成されているというのも、結構あったりしたのだ。
 そもそも、塚原はクラシックが好きだった。自分たちが通っている小学校では、毎日クラシックが流れている。休憩時間の合間や、昼休みなど、音楽の先生が毎日クラシックをセレクトして、校内放送で流していたのだ。
 給食の時間など、クラシックが流れていると、まるで高級レストランか、中世ヨーロッパの優雅な食事を思わせるようで楽しかったものだ。
 そんなクラシックを聴いていると、近所のお兄さんが、ハードロックに嵌っていたようで、塚原も、そのお兄さんから、ハードロックがいいと言われたが、
「僕は、クラシックが好きなので」
 と言って、丁重に断っていたが、そのお兄さん曰く、
「だったら、プログレを聞けばいい」
 というではないか。
「プログレ?」
 と聞きなおすと、
「ああ、プログレッシブロックというのが正式名称なんだけどな」
 というので、
「ロックじゃないですか」
「いやいや、ロックと言っても、クラシックやジャズの要素を取り入れた、少し変わった音楽なんだ。クラシックが好きなら、どれを聞けばいいかというのを教えてやるから聞いてみればいい」
 と言われ、お兄さんが持っているというレコードを借りて聞いてみた。
「本当は、CDだったらいいのだろうけど、わざわざCDで買いなおすというのも、ちょっと忍びないので、レコードしかないけど、聴いてみてよかったら、買ってみればいい」
 と言ってくれた。
「CDが出てるんですか?」
「有名なバンドのやつは十分にCDが出ているさ。もっとも、ブームが去ってから、廃盤になったものも結構多いんだけどね」
 ということだった。
 さっそく聴いてみると、
「なんだ、こりゃあ?」
 という感じだったが、何度も聴いているうちに、クラシックよりも、柔軟な気がして、自分には合っている気がした。
 クラシックは、とにかく壮大で、限界を感じないほどだが、プログレにはロックという縛りがある分、限界を感じる。しかし、その限界の中で、思う存分に音楽性を発揮していることで、前に進んでいけるだけの力を感じた。
 まさに、
「前衛音楽」
 と言っていいだろう。
 そんなプログレッシブロックを聴きながら、ちょうど、その頃テレビドラマや映画などで、評判だった。昭和初期の探偵小説で、一人の探偵が主人公で、難事件を解決していくという話なのだが、昭和も末期に近くなってくると、戦前、戦後というと、まるで、歴史の世界であり、現代とは言いながら、まったく違った状況だったのを思うと、かつておばあちゃんなどから聞かされた戦前戦後の情景を頭に浮かべながら、自分でも、その時代背景を勉強しながら読んでいると、まさしくミステリーというよりも、ホラーに近い内容に思えてくるのだった。
 そんな小説を読み込んでいくと、自分もその世界に入り込んでいく気がしてくるから不思議だった。
 以前は、小説を読む時は、まわりの音をなるべく遮断して読んでいた。まわりがうるさいと集中できないということで、図書室で読んだり、静かな部屋で読んだりしていたのだが、一度、
「このプログレを聴きながら、探偵小説を読むと、どんな気持ちになるんだろうか?」
 と感じたことで、少し、冒険してやってみた。
 すると、自分でもビックリするくらい、音楽が小説の内容に嵌ったのだ。
 すると、これも不思議なのだが、まわりから、別のジャンルの音楽が聞こえてきても、それまで気が散って読めなかったはずの本が読めたりするのだった。
「音楽が奏でるリズムとメロディの調和がちょうどいいんだろうか?」
 と感じた。
 小説を読んでいると、
「俺も書いてみたいな」
 と思うようになっていた。
 小学生の自分に、大人でさえ書けないような小説が書けるはずもなく、すぐに断念するのが関の山であったが、それでも、またすぐに書いてみたいと思うことで、何度でも挑戦し、断念するというのを繰り返していると、曲がりなりにも書けるようになっていた。
 すると、そのうちに、
「せっかく書いているんだから、いつもだったら、簡単に諦めてしまうことを、諦めずに、最後まで書いてみよう」
 と思うようになり、どんなに辻褄が合っていない作品であろうと、自分で納得のいかない作品であろうと、いったん書き始めたのだから、最後まで書くことに集中したのだった。
 すると不思議なことに、そう思うようになると、本当に書けるようになったのだ。
 書いていると、いつもなら諦めているところでも、とにかく前に進もうと思うようになると、書いている最中に言葉が浮かんでくるようになる。すると考える時間というのがなくなってきて。どんどん書けるようになる。その面白さが、自分に自信をつけさせ、途中でやめてしまうことが、愚かだと思うようになっていた。
作品名:必要悪な死神 作家名:森本晃次