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必要悪な死神

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「どうだ、俺たちは、ずっとこんな思いをしてきたんだぞ」
 と、どれだけまわりかの攻撃が大きなストレスを産むか、思い知ったかとでもいう気持ちになっていたのだ。
 だが、その時は、両親も必死に堪えた。先生のいうことは、かなり理不尽であった。帰りながら、母親は父親にあたったようだ。
「あの先生、どうしてあんなにひどいことをいうのかしらね? まるでうちの子供が悪いことをしているかのように」
 というと、父親は少し間をおいて、
「先生は、子供が悪いとは言ってないじゃないか。子供の世界のことだから、大人には干渉できないって言っただけだ」
 というと、
「それがあざといっていうのよ。そうやって、大人が逃げたら子供はどうすればいいのよ。そもそも、私たち親は先生に預けているようなものなんですからね」
 と。怒りが収まらないようだ。
「だから、相手の子供だけが悪いと言っているわけではなくて、喧嘩両成敗だと言っているんだよ。悔しいけど、先生の言う通りだ。とりあえず、今のところは、原因に関しては変に追及するよりも、これからどうするかということを話し合いたいだけなんだろう?」
「そうなんだけど、原因も分からずに、どうやって解決するっていうの? 何から手を付けていいのか分からないでしょう?」
「だけど、子供たちの世界にだって、ルールのようなものがあって、大人が踏み込んではいけない領域だってあると思うんだ。俺たちだって先生だって、子供の頃というのはあったんだ。先生もその辺りは分かっていると思うんだ。だから、変に触れちゃいけないところをいかに、気持ちを和らげてやるかというのが問題になってくるんじゃないかな?」
「あなたの言っていることも分からなくもないけど、しっくりこないのよね」
「それはそうだろう。ここで、ああだこうだと言っても、机上の空論でしかない。どうするかは結論が出ない。だからと言って、俺たちがここで先生に突っかかっていってもしょうがないだろう。先生の方も、親が興奮して話ができないのが一番困るんだ。お前だって、人と話をする時、相手が頭にきているのに、こっちも一緒になって喧嘩になってしまったら、話ができなくなることくらい、想像もつくだろう? それと一緒さ」
 と父親は、あくまでも、興奮が冷めやらない母親をなだめていた。
 だが、この辺りはさすがに、母親の扱い方には慣れているようだ。
 もう、この頃になると、母親も不倫を解消し、
「これからは家族のために」
 と思っていた矢先だったので、興奮するのも無理もないことだ。
「出鼻をくじかれた」
 こんな状態で、どうすればいいのか、考えても仕方がなかった。
「それにしても、先生は不登校という言葉を口にしていたけど、登校拒否じゃないの?」
 と、母親が思い出したように言った。
「ああ、登校拒否というのは、子供の意志で学校に行かないというもので、不登校は、行こうと思えばいけるんだけど、行こうと思わない場合を、そういうと聞いたことがある。だから、登校拒否は、広い意味の不登校になるんだそうだ」
「じゃあ、最近問題になっている苛めだったり、引きこもりというのは、不登校の部類に入るのかしら?」
「そうなんだろうね。でも、引きこもりというのは、苛めが原因かも知れない。俺が考えているのはこういうことなんだ。子供が学校で苛められているとするだろう? そんな時、家に帰ってきて子供はどう思うかな・ それまでのように、家族団らんで、ニコニコ笑っていられると思うかい? 苛めが気になって、表情も怖ってしまうだろう? そうすると、親はどう思う? 心配になって、何かあったのかって聞くだろう? それって、子供にとっては一番辛いことだと思うんだ。放っておいてくれって思うんじゃないかな? だとすると、親となるべく顔を合わせたくない。部屋に引きこもって、ゲームだけをして暮らそうって思わないかい? あれは、親に対しての反抗ではなくて、親に気を遣っているからなんじゃないかな? 下手に言われて言い返せないと、苛立ってしまって、逆ギレしかねないだろう? それよりも、引きこもって、何も会話がない方が、お互いに嫌な気分にならない分、いいんじゃないかって思うんだろうね」
「でも、それだったら、何の解決にもならないんじゃない?」
「それはそうさ。元々子供は解決するつもりはないのさ。解決できるくらいなら、最初から引き籠ったりなんかしないからね。それに、学校では先生も当てにならない。そう思うと、もう誰も自分の味方はいないと思い込む。そうなると、もうどうしようもないさ。家にいても、部屋だけが自分の憩いの場所になるのさ。とにかく、今は誰からも触れられたくないと思っているんだからね」
「そういうものなのかしら?」
 と母親も最初よりもかなりトーンが下がってきている。
 納得まではできていないが、旦那の説得力には一目置いているので、溜飲が下がるまでに、そんなに時間はかからないということだ。
 さて、そんな弟のことで親が学校に行っている間、少し表に出てきた弟と、少し話ができた。弟は、兄が苛められっ子で、その苦しみを分かってくれているということで、よく話をしてくれていた。今度は塚原が恩返しをする番なのだが、何もできないでいた。それでも、たまに親がいない時に、話をすることがある。場所は塚原の部屋が多い。弟の部屋は散らかっていて、何がどうなっているか、自分でも分からないという。
「実は俺、最近不思議な力が自分の中にあることに気づいたんだ。それをまわりのやつに話すと、完全にバカにされて、それが苛めのようになってきたんだ。露骨な嫌がらせのようなことが多くて、俺は学校に行く気がしなくなったんだ。行こうと思えばいけないわけではないんだけど、学校に行くと、何かよからぬことが俺に起きそうな気がしてね」
 と弟が言ったが、
「どういうことなんだい?」
「この間、学校にいる時、授業中だったんだけど、自分でも気づかない間に眠ってしまっていたらしいんだ。全然眠いとも思っていなかったし、眠ってしまったという感覚もなかったんだ。その時、自分の身体を表から見ているような気がしたんだ。まるで幽体離脱とでもいうのかな? で、それを先生にいうと、先生は皆の前で、俺が変なことを言っているって、大声で発表しちゃったんだよ。俺の気も知らないでさ。それで、俺は先生が信用できなくなって、学校に行かなくなったわけなんだけど、そのあとにも、何度か同じようなことがあって、気が付いたら、目が覚めているって感じなんだ」
「先生は、無視していたということか?」
「いや、そうじゃなくって、どうやら、俺が眠っていたっていうのはまわりには分かっていないらしいんだ。だから、当然起こそうともしないし、まわりも意識しない。でも、気が付いたら、机に顔を伏せるようにして眠っていたんだよな」
「夢は見たのかい?」
 と聞かれて、
「それが、どこかいつも別の場所にいるようで、何か、このまま自分が死んでしまうのではないかという意識だけが残っているんだ。それが夢なのかどうなのか、自分でもよく分かっていないんだけどね」
 というので、
「やっぱり幽体離脱なのかな?」
作品名:必要悪な死神 作家名:森本晃次