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必要悪な死神

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 初詣などの人ごみの中では、人に揉まれながら、やっとこさで辿り着いた先頭なのに、いざ来てみると、頭の中が真っ白になり、何をお参りしていいのか分からなくなる。
 本来なら、ここに来るまでに考えておくべきなのだろうが、人に揉まれることで、そんな意識も失せてしまっていた。
「だったら、並ぶ前から考えておけばいい」
 と言われるだろうが、
「並ぶ前に考えたとしても、あの人ごみに揉まれてしまうと、何をお祈りしようかと考えたことを、忘れてしまうのではないか」
 と思うのだった。
 それだけ、ここで揉まれている時間というのは、果てしなく感じるもので。果てしなく感じないようにしようと思うと、
「ここは別の次元なんだ」
 と思うことにつながってしまい、結局、一度別世界に入って、もう一度戻ってくることになるのだから、覚えていたことも、忘れてしまうことになるに違いないと思うのだった。
 そんなことを考えていると、
「やはり、最初から何かを考えていても忘れるんだから、何も考えないようにしておくようにしよう」
 と思うのだった。
 お祈りを済ませて、境内の奥に進んでいく。森に囲まれているので、鳥居から境内に向かって進んでいる時には気づかなかったが、境内の奥は結構広くなっている。
 庫裏のような、社務所のようなところを抜けていくと、その先は境内の裏に通じる道になっている。
 落ち葉などもほとんど落ちていないところを見ると、裏まで、神社の人が毎日掃除をしている証拠だと思うと、気持ちよさがあった。
 だが、風景としては、もう少し落ち葉があった方が絵になるような気もする。少し寂しさからか、夏なのに、寒気を感じるようだった。
 ちなみに、夏であっても、落ち葉がないというわけではない。秋ほど多くはないが、まったくないというのは、ありえないことだといえるのではないだろうか。
 そんなことを考えながら、新緑に包まれたため、余計に暗さが浮き彫りになっている境内の裏から、湿気が感じられた。
「やはり、井戸の存在を意識しないわけにはいかないな」
 と感じたのだ。
 奥に進むと、なるほど井戸があった。
 ここが、昔から行方不明者を生むというところだと思うと、どうしても、足が竦んでしまう。
 今は井戸の入り口には鉄格子が嵌められていて、人が飛び込むことはできないようになっている。
 もっとも、ここで飛び込むような人は今はいないだろうと思われるので、飛び込み防止というよりも、不慮の事故防止ということだろう。
 掃除をしていて、誤って落っこちないとは言えないほどの高さだからだ。
 だが、ここは井戸としての機能が本当にあったのだろうか? 水をくむ仕掛けとなるはずの櫓の跡も見当たらない。
「この井戸、何か変な気がするな」
 と塚原がいうと、
「ああ、たぶん、君の予感は間違っていないと思うよ。実はこの井戸は、元々井戸としての機能があったわけではないんだ。と言っても、井戸としての本来の機能を有しているわけではないが、井戸の形をしたものの役割としては十分に果たしていたのさ」
 というではないか。
「どういうことなんだい?」
 と塚原は、なんとなく分かった気がしたが、敢えてそれは言わずに聞き返した。
「この近くに、江戸時代まで、お城があったんだよ。この村は今でこそ、過疎地帯となったけど、昔は、領主の街に隣接したところで、今でいえば、都会への通勤圏内とでもいえるところだったんだ。だから、物資の輸送を請け負うところが多くて、駕籠屋なども結構あったという。この井戸は、そのお城が危険に晒された時、領主が逃げるための、抜け穴だったというんだよ」
 と、友達は説明してくれた。
「なるほど、よく聞く話だけど、実際に見るのは初めてだな」
 と、塚原が答えた。
「ひょっとすると、ここで行方不明になった人というのは、昔この抜け穴を作るのに携わった人か、実際に攻められて、ここを通って抜け出した殿様がいたりして、その怨霊が取りついているなんて話があったりしないかい?」
 と塚原が聞くと、
「うん、そんな祟りのような話もあったりはするけど、どうなんだろうね?」
 と、友達が、少し考えながらいうのだが、友達の様子を見ていると、
――本当は怖がりなんじゃないか?
 と思えてきたのだ。
「でも、行方不明になった人は、少ししてから、何事もなかったような形で出てくるんでしょう? 祟りというには中途半端な気がするけど、それはきっと、殿様は相手に捉えられることなく生き残るんだけど、でも一度滅ぼされてしまったことで、二度と歴史の表舞台に出てこれなくなり、それは、怨念となっているんじゃないかな?」
 と塚原がいうと、
「そうだね。確かにそう思うと、行方不明になるだけで、誰も死んだ人はいないということなので、当時、研究者がいれば、その共通性を調べたかも知れないと思うと、興味深いことなのかも知れないな」
 と友達はいった。
「でも、俺たちのように、キチンと誤解が解けて、和解できたとすれば、それが一番いいんだろうね?」
 と、塚原がいうと、
「これは。俺の意見だけどね。ひょっとすると、ここで行方不明になった人は、何らかの理由で誰かに恨みを持っていて、そのことを絶えず気にしているとして、実はそれが俺たちのように、勘違いというか、気持ちのちょっとした行き違いからわだかまりがあるのだとすれば、それを晴らすという意味で、行方不明というような状況を作り出したという考え方もできるかも知れないな」
 と友達が言った。
 彼は、怖がりだと思っていると、それを払しょくするかのように、自分の気持ちを奮い立たせるかのように、いい方に理論づけて考えようとしているのかも知れない。
「ところで行方不明になっていた人って、出てきた時は。どんな感じなんだろうね?」
 と、塚原がいうと、
「そうだな。話としては、急に意識を失っていて、気が付けば、二日が過ぎていたって感じらしいんだ。本人としては、まさか二日も経ったという意識はないのだという。眠ってしまうと、大体どれくらい寝ていたかって、目が覚めた時の感覚で、眠りの深さが検討つくだろう? だから、そんなに誤差はないと思う。まあ、八時間くらいの睡眠だと思っていて、実際は九時間か十時間くらいの感覚だとしても、それは誤差の範囲だと思うんだけど、本人は、そんなに深い眠りに就いたという意識がないようなので、感覚としては、五、六時間くらいではないかと思っているらしいんだ。でも実際には丸二日も寝ているなどということは、自分でもありえないと言っているそうなんだよ」
 と友達は言った。
「確かにそうだね。俺も眠りの深さで大体分かることがあるけど、夢を見た見ないで、そのあたりの感覚も分かってきたりするものだね」
 と塚原は言った。
「ところで、夢って、僕はあまり覚えていないんだけど。塚原君はどうだい?」
 と友達が聞いてきた。
「僕の場合も、覚えている夢と覚えていない夢が確かにあるんだ。夢を見たという意識はあるんだけど、目が覚めるにしたがって、忘れていくんだよね」
 と塚原は言った。
「それは、パターンがあるのかい?」
 と聞かれたので、
作品名:必要悪な死神 作家名:森本晃次