歴史の傀儡真実
「そんな極秘事項のようなことを我々に教えていいのですか?」
というと、相手は笑いながら、
「大丈夫ですよ、そんなに簡単に落ちるところではありません。たぶん、皆さんはお城というと、櫓であったり、砦のようなものを想像されるでしょう? 館までの防御のために、とにかく数をたくさん作って、そこで侵入してくる連中を撃滅するというものですね。でも、今は城というと、もっと計画的に作るもので、一つの城だけで、守りも攻撃も完璧にしておくことが求められます。城というのは、守るよりも、攻める方がよほど難しいんですよ」
というのだった。
「例えば、この城の周りは、たくさんの水を張った堀で守られています。あなたがたは、正門から入ってきたので分からないかも知れませんが、この裏は、実は、断崖絶壁になっていて、天然の守りの要塞になっているんです。だから、あちらからは守る日露はないですよね。だから、守りを他に持っていける。そして、近くには大きな川があるので、そこから水を引いてきて、そこにお濠を作るわけです。本土の方でもお濠はあると思いますが、あちらは山城が多いでしょうから、水を引かずとも、狭い谷にしてしまうと、戦線は伸びきることで、上から一斉攻撃ができる。そのやり方は、もし敵に門を破られて、場内に進入された時の守りの一部になっています。まずは、敵が入ってこないように、堀を張り巡らせておいて、そこに、石垣を築きます。これが、城の外の基本です。しかも、橋を折り畳み式にしておけば、橋から大人数の兵が押し寄せてくることはないわけです」
と説明してくれた。
「じゃあ、さっきの、あの橋が門に寄りかかっていたのは?」
「ええ、あれこそ、西洋の城によくあると言われる、折り畳み式の橋なんですよ」
というではないか。
彼は、さらに続ける。
「城というのは、天守閣に辿り着くためには、いくつもの関門があります。門を破られて、そこから兵が突っ込んできた時、そこから先にもいろいろ難関があります。その難関は、天守閣に辿り着くにつれて、次第に大きくなります。攻めている方は、これでもかという守る側の攻撃に、いい加減嫌気がさしてくるはずです。その間に、どんどん兵は減ってくる。減ってきた中で突き進んでいくと、相手は、いつ自分がやられるか分からないという不安に駆られるでしょう。下手をすると、途中で、指揮官が討たれるかも知れない、そうなると、もう兵はバラバラになる。それが狙いなんですよ。城というのが、要塞だと言われるのは、そのためです」
というのだった。
彼がどんどん城の中に進んでいく時に、
「どうして、こんなにグルグルと迷路のようになっているんですか?」
と、今度は、頼経が聞いた。
説明をしている方も、頼経の質問にニヤリと笑って、
「さすがですね。実は先ほどからの説明の中で、一番最初に言いたいのはそこなんです。相手の兵が入り込んできた時、真正面に天守閣が聳えていますよね? その天守閣を見た時、普通なら、一直線に行けると思って、先に進むと、道は正面にはなく、そこから少しそれたところに向かう、すると、そこには、一つの門があり、そこを突破すると、今度は、また反対に曲がりくねって、横にそれる道に向かう。そして、また門がある。それを繰り返していると、今度は、また門があって、その門を超えると、道が、天守閣に向かってまっすぐに伸びているところがあり、相手は、それを見て、天守閣が近いと思うんですよね。でも、実際はその道は欺くための道で、そこは行き位どまりになっていて、足元の穴が開いて、そこには、針が突き刺さるようになっているので、そこに落ちると、皆串刺しになるというわけです。考えただけでも恐ろしいでしょう?」
という話だったが、二人とも話を聞いただけで、ゾッとしてしまった。
「ところで、一つきになっていたのがあるのですが、門のところや櫓のようなところに、三角や四角に開いた穴があったのですが、あれは何ですか?」
と聞いてきた。
「ああ、あれですか? あれは鉄砲というものに使うものです」
というではないか。
「鉄砲? それは何ですか?」
と聞くと、
「後で私の主人の方から話があると思います。とにかく、遠くからでも、相手を狙って、一気に殲滅できる新兵器とでも言っておきましょう」
と言って、ほくそ笑むのだった。
分割された蝦夷地
案内人の後を進んでいくと、なるほど、いくつもの門をくぐって、進んでいくことになる。そして、さらに、もう少しで、天守閣に近づくというところになって、
「あっ、そっちは通路ではありません」
というではないか。
ビックリして古向くと、門から反対側に小さな入り口のようなものが見えた。案内人はそれを開けて、そこから入っていく。
「気づかれたかも知れませんが、ここまでくる時に、ずっと階段だったでしょう? これも、実に上りにくくしてあるのは、それも作戦なんです。相手の足を疲れさせるというのと、疲れたことで、頭が回りにくくなることで、判断力が鈍ってしまうでしょう? そうしておくと、自分が今どこにいるのか、あとどれだけあるのかということも分からなう名ってくる。しかも。迷路のように作っていることで、まるで、城から遠ざかっているのではないかという錯覚も与えられるんです。だから、彼らは天守閣が迫った場所までくると、先ほどの間違ったルートを選んでしまい、そっちに落ち込んで、兵を損なってしまうことになるんです。そして、もう一つ重要なのは、この城の正門を入ってきてから、ここまで来るのに、何かを感じませんでしたか?」
と聞かれて、
頼経は、聞かれるのを予想でもしていたかのように。
「そうなんですよ。私も言いたかったんですが、先に進めば進むほど、道が徐々に狭くなってきていますよね。確かに階段を上って上に向かっているのだから、当然だとは思ったんですが、よく考えると、それだけ、戦線が伸びきるということですよね。相手を正面からやっつけるにしても、上から集中的に狙うとしても、一気呵成にできますよね? この作戦を行うにおいて、先ほど言われた、鉄砲というものが役に立つということでしょうか?」
「さすが、三上殿、ご明察です。これが大まかな城の守りということになるのですが、あとは、私の主人とお会いになってから、詳しい話はお聞きください」
ということであった。
なるほど、歩いていくと、天守閣と呼ばれる建物の横に大きな屋敷が立ち並んでいて、そのまわりをまた壁が並んでいた。そして、その壁の隅には、天守閣より少し小さめの櫓のようなものがあった。
「あれは?」
と聞くと、
「あれは小天守になります。物見櫓のような役目と言ってもいいですね」
というのだ。
「ところで、ここの領主の方は、どこにおられるんですか?」
と訪ねると、
「あそこの屋敷の中におられます。あそこには、居住区はもちろんのこと、軍議を行う場所もあれば、家臣たちに訓辞を述べるための大きな広間もあります。さらに、奥には、殿様以外の男子禁制の場所があり、そこにh、殿様しか入れないことになっております」
というのだった。