「軍人の魂」と、「知恵ある悪魔」
「麻薬を採取することのできる植物を獲得すること」
だったのである。
まさか、それが普通に食べられるものだということを、他の人が気づくはずもない。それだけ、この組織はプロフェッショナルの集まりだった。
そもそも、ここは宗教団体が、母体だった、いや、宗教団体ということにしておけば、反社会的な人間で、世間の目を欺くようにして生きている連中を集めやすいと考えたのだろう。
最初はそうやって、怪しい組織を名乗っていたのに、当局から睨まれたり、摘発を受けなかったのは、まだ組織自体が小さくて、当局がそれほど気にしなかったからだ、それでも、当局が気にし始めるタイミングを見計らって、宗教団体という暖簾を降ろしたのだ。
そのタイミングもよかったようで、世間としても。その組織を宗教団体として意識するどころか、組織の存在すら、うまくフェイドアウトするということで、世間から怪しまれるということはなかった。
団体や組織にとって、世間から騒ぎが大きくなるのは、なるべく避けなければいけなかった。
最終的に世間を敵に回してしまうと、世間から孤立してしまうということはおろか、ちょっとしたことで勘違いされてしまう。何か大切なものを託わせなければいけない時、世間が名前を聞いただけで、
「お前のような危ないところに協力する気はない」
と言われてしまうだろう。
一人が騒ぎ出すと、まわりに波及してしまい、あっという間のそのあたりから退去しなければいけなくなる。それだけで済めばいいが、そういうニュースは広がるもので、マスコミにターゲットにされでもしたら、全国に拠点があれば、全国にその問題が波及してしまい、組織の存続すら危うくなってしまう。
それを考えれば、最初は、宗教団体として、陰で暗躍し、そして、ある程度の人材を確保すれば、そこからは、普通の団体として、ベールを脱ぐ、すると、まわりの人も、当局も、中にいる人間のことまで気にしていないだろう。あくまでも当局が気にするのは、宗教団体や、危険分子として、表に出ている連中だ。
だからと言って、暗躍している間にへまは許されない。人を集める時、
「この男だ」
として目を付けた人間以外に、自分たちが、怪しい組織の人間であることを悟られないようにしなければいけなかった。
声をかけた連中が、もし組織に入ってくれなくても、彼らが自分たちのことを当局に売るようなことはしないだろう。
何しろ、声をかける連中は、反政府の連中であり、政府や、その中でも国家公安というのは、敵対視しているのだ。そんな連中が天敵ともいえる当局の人間に、組織を売ることはないだろうと考えるからだ。
そんな連中は、組織にとって。
「味方ではないかも知れないが、決して敵ではない」
と言えるだろう。
「味方ではないというのと、敵ではないという感覚では、当然のごとく、敵ではないという方が強いだろう」
ということなのである。
やつらは、麻薬を手に入れる機関を、一定期間に限っていた。半永久的に、あの島に居座って、麻薬を独占しようとは思っていない。理由はハッキリしている。
「麻薬を生成するあの植物は、あの土地でしか生息しないという特殊な植物で、下手にあの島にとどまって、麻薬を栽培するということにこだわれば、そこから抜けられなくなり、自分たちがまるで麻薬中毒になったかのように、あの土地に根を下ろしてしまう」
ということであった。
それでは、なぜあの土地に執着してはいけないのかというと、
「あの土地は、昔は十分な文明を持った政府が存在していたはずで、それがいつ、どのようにしてなのかまでは分かっていないが、滅亡してしまったということなのだと我々は思っています」
という、組織の中の考古学研究者たちが、そういうのだ。
彼らの示した証拠となる発掘物には、十分な説得力があり、組織も、その一定期間だけ、この土地で、目的を低く定め、それが達成されれば、速やかに撤収するように、計画を立てているのだった。
「攻めるも守るも伝送石化」
これこそが、組織のモットーであり、表に出てきた時には、すでに大きな組織となっていたので、経済界では、
「いきなりポっと出の組織が湧いてきた」
という、ちょっとしたセンセーショナルを巻き起こすのであった。
この麻薬というのは、覚醒能力は、他の麻薬とは違っているが、禁断症状というものが、ほとんど少ない。だから、他の麻薬に比べると、
「やめようと思えば、やめることができる可能性は高い」
というものであった。
これは、
「麻薬で金儲けをして、組織の資金源にあてよう」
と目論んでいる人たちにとっては、それほどの需要はないだろう。
いくら禁断症状が少ないと言っても、取り扱っているのは、麻薬である。
世界的に麻薬認定というものをこの薬物に関してはなされていないが、麻薬の定義としての、薬物がどれだけの含有率であるかということで決まっているので、そういう意味では、完全に麻薬認定されるおは、時間の問題だった。
だから、認定を受ける前に、資金に変えて、そこから蔓延させる前に一時期、その流通を止めてしまえば、当局が麻薬認定する前に、金儲けだけして、撤退できるのだ。それをまたほとぼりが冷めた頃に、金儲けに使えば、独占もできるし、自分たちが危うくなることもない。
だから、この島での暗躍が表に漏れることは、絶対に避けなければならない。
危険は避けられるが、それほど儲かるわけではない。それでも、この麻薬を必要とするのは、金だけが目的ではない。
薬物を使うことで、人間の活性化を促し、それによって、人足が力以上の実力を発揮することができる。
これは、麻薬としてというよりも、潜在能力を引き出すという意味で、利用するためのものであって。しかも、摂取すると、摂取した人間は、労働に対して、嫌な気はなくなり、ロボットのごとく、さらには、馬車馬のごとく働くことを正義だと思うという効果もあった。
そう考えると、
「クレージーカルチャー」
という組織の目的がどこにあるのか、分からなくなってくる。
今のところ、麻薬栽培をして、その麻薬を使って、人間を覚醒させるということに成功している。
その目的は、直接的な販売などによっての、金銭ではなかった。
禁断症状がないのだから、
「薬中」
になってしまい、薬をもらうために、女であれば、身体を売ってそれを資金源として組織を大きくするということもない。
ただ、その薬物の覚醒能力を使って、
「摂取した人間の能力を引き出す」
ということだった。
それによって、何が得られるのか、彼らにとって、いかなるメリットがあるというのか、サッパリ分からない。ただ、彼らは頭脳集団であり、一般人の考えが及ばないようなすごいことを考えているのだろう。
そこまで考えると、普通であれば、国家転覆であったり、クーデターのようなことが考えられるが、そんな素振りもどこにもない。
確かに、陰で暗躍はしているのだろうが、暗躍をしているということを、当局に知られることもない。どちらかというと、この組織には実態がないような感じで、公安も組織も、まったく捉えどころのない存在であった。
作品名:「軍人の魂」と、「知恵ある悪魔」 作家名:森本晃次