「軍人の魂」と、「知恵ある悪魔」
そのおかげで、
「どこの国が、どういうものを求めているというのが」
ということが、分かってくると、その国にピンポイントで、必要なものを売り込みにいける。
相手は、こちらがどうしてそれを分かっているのかということにはあまりこだわらず、ほしいものが手に入るということを手放しに喜んでいるようだ。
「やはり他の国が気にしないのは、それだけ、こちらを下に見ているからに違いない。これでいくらでも、相手を手玉にとれる」
と思い、他国の中枢機関に、人材として送り込むことができる。
相手国も、自分たちの情報が簡単に漏れているとも知らずに、簡単に受け入れていたのだ。
だが、それから数年が経ってくると、今度はさすがに相手国も、情報が洩れていることに気づいたのだった。
しかし、どこからどこに漏れたのか分からない。それだけ、輸入する方も、そのあたりに抜かりはないということだ。
とりあえず、相手国は、ガードを掛けるしかない。今までのギリギリのセキュリティだったので、うまく盗むことができたが、相手が本気でセキュリティを強化し始めれば、もう盗み出すことは難しいだろう、
しかし、基本は盗むことができた。
ここから先は盗んだ基本を自分たちで加工して、開発していけば、独自のものができあがる。却ってそっちの方がよかっただろう。
基礎は同じでも、開発能力で差がつけば、それこそ、
「競争に勝った」
と言えるだろう。
正直、加工開発に関しては、自分たちの方が優れていると思っているだけに、負ける気はしない。
しかも、相手がセキュリティを掛けてくれたおかげで、自分たちは盗み出すことができたが、もうここから他の国が参画しようとしても、できるわけはない。そういう意味で、セキュリティの強化はありがたいことであった。
セキュリティにかけては、この国でも、独自の方法を開発していた。ここまでくれば、もう急進国などと呼ばせない。先進国への足掛かりは整った、いよいよ、次のステップに進むわけで、ここで必要になってくるのが、人間だった。
この場合の人間というのは、
「人材」
ではない。
「人海戦術に必要な」
いわゆる、人足というものである、
労働力ということなので、頭を必要としない。一般企業でいえば、
「正社員は必要ない」
ということだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、原始的な民族のいる、あの国だったのだ。
最初は、宗主国の壁があったが、その国を突き崩すのは、さほど難しいことではなかった。実際の政治は国連の機関である。国連が相手なら、いくらでも対応方法があるというものだ。
しかも、委任政府というのは、別に自分の国ではないという、しょせんは他人事という意識がある。手玉に取るくらい、簡単なことだった。
ただ、基本的に
「人身売買」
は禁止されている。しかも、
「奴隷制度」
も、あってはならないことであった。
奴隷というわけではなく、早急な人材を確保するには、その壁をぶち破る必要がある、
そこで考えたのが、
「不当就労の抜け道」
であった。
不当就労というのは、基本的なところは、国連も見ているが、基本的にはそれぞれの国によっての国内法で決まってくる。
それを、他の国も、国連も、文句が言えるわけではないが、下手をすると、人権問題を盾に、外交が難しくなることもある、下手にすると、国益を損なうことになるのだ。
彼らにとって、それが狙い目だった。
最初は国内への入国を実に簡単な手続きで入れるようにしておいて、普通に働かせて、いかにも自由な国を印象付けておく。
その感覚を持ったまま、最初は短期の入国だったので、滞在微差が、二年くらいで切れることになる。
それでも、雇い主の方は、
「少しくらいは大丈夫だよ」
と言って、数か月超過して働かせる。
外人たちの方としても、
「国に帰るよりも、こっちの方がいい。できるだけ、長く稼いでいたい」
と思わせることで、やつらを安心されておく。
そして、いきなり、会社に通達が来たと言って、やつらを呼び出す。
「君たちの就労期間がとっくに過ぎていてビザも切れているということになっている」
と言われる。
「そうすればいいんですか?」
と会社の人事部長に聞くと、
「このままでは、強制送還になる。そうして、一度自国に帰ってしまうと、一度違反をしたということで、二度とこの国への入国許可は得ることができない。しかも、他の先進国も同じで、国連を通じて。通達され、ブラックリストに載るんだ」
と言われ、黒人の顔が真っ白になった。
「どうすればいいんだ。せっかく、この国にこれたことを喜んでいたのに……」
というと、
「一つだけ、方法がある」
というではないか。
「どうすればいいんですか?」
と聞くと、
「君たちが我が国の国民になるということだよ。この国の国民になると、今までのような、外国人だから、余計な手続きや確認が必要だったと思うが、そんな煩わしいことも減ってくる。もちろん、完全な我が国の国民というわけではないので、一定の制限はかかることにはなるけどね。このまま強制送還させられると、下手をすれば、帰国後すぐに逮捕ということもありえるんじゃないかな? それでもいいと言えばそれでもいいんだけど、こちらの国で、少々の制限を受けたとしても、ここで暮らしているうちに、徐々に権利を取得できるようになる。数年で本当のこの国の国民になれるんだよ。どっちがいいかな?」
と言われた。
このままなら帰国させられて逮捕などということになると、とんでもない。答えは決まっていた。
「君たちのような連中はたくさんいるんだ。仲間がたくさんいるということは、それだけでも安心だろう?」
と、言われ、背中を押された気がした。
「確かに過去にも例があれば、悪い話ではないだろう」
と、ここで普通は皆、シャッポを脱ぐことになるのだった。
そうやって、皆、この国の国民になるための契約書にサインをする。それが、いわゆる人身売買契約書だ。
名目としては、
「外国人身分保障証明書」
といういかにもという名前であり、表向きの内容は、完全な平等な契約だった。
しかし、それに付随して、
「即時帰化者就労契約書」
というのも同時に書かされる。
そちらには、就労に関しての取り決めが書かれていて、そこには、たくさん厳しい制限が書かれていた。要するに細かい、労働に関しての取り決めであった。
なぜ別れているのかというと、建前上は、
「雇用側が、業種も様々で、これだけ細かい行動制限まで記された契約書を作るのだから、契約書は、一つとして同じものは存在しえない」
ということで、本当に細かく記されている。
起床時間から、就寝時間までのタイムチャートから、してはいけないことや、少ないが権利の認められていること、そして、それを破った時の処罰の仕方まで書かれているのだ。
こんな契約書は、土地建物売買契約にも、ここまで書かれているわけではない。そして、罰則も厳しいものだった。
そうやって、表向きの、
「外国人身分保障証明書」
に対しては、雇い主は、あくまでも、
「滞在保証人」
ということでる。
作品名:「軍人の魂」と、「知恵ある悪魔」 作家名:森本晃次