「軍人の魂」と、「知恵ある悪魔」
ただ、原始的な島の連中であれば、戸籍など最初からあるわけでもなく、家族の誰かがいなくなったとしても、それを訴え出るところもない。
訴えたとしても、誰も探してなどくれるわけもない。捜索願のようなものが受理されるだけで、警察組織は動いてはくれない。
そんなのは、どこの国でも同じではないだろうか。
「人が一人行方不明になって、捜索願を出しても、まともに捜索なんかしてくれない」
というのが、一般の国の警察組織ではないか。
本当に人探しをするのであれば、民間の探偵事務所などで探偵に頼むなどしないと、警察は動いてはくれない。
まず、何か問題が起きなければ、警察組織は動いてはくれない。優先順位があり、一番の最優先は、
「事件性があるかどうか?」
ということであろう。
誘拐であったり、殺害されている可能性が高い、あるいは、自殺しかねないなどの問題が起こりそうであれば、警察としても、
「犯罪を見逃してしまったのは、警察の落ち度」
ということになるので、一番の優先となる。
何と言っても、命に係わることであれば、さすがに警察でも動くのだ、
だから、
「警察というところは、事件が起こらないと動いてくれない」
となるのだ。
「事件が起こってからでは遅い」
と、いくら言っても、警察は動かない。
警察機構というところは、ガチガチの公務員だということだ。
「自分たちの肉親が犯罪に巻き込まれても、そんなのんきなことが言っていられるのか?」
といっても、きっと、同じであろう。
警察は、組織でしか動けない、
「血も涙もない集団」
なのだ。
逆にいえば、個人では動くことができない。いや動かすことができない。要するに公共のものだということだ。
そのために、私立探偵なるものがあるのだろうが、あくまでも、私立探偵には警察権というものがない。
犯罪者を見つけても、逮捕、拘留もできないのだ。
奴隷制度
ただ、それは一般的な国家においてであって、宗主国、つまり、封建的な国家の警察は、国家の中でかなりの権限を与えられている。基本的な政府は、国連の機関から委任されている政府なので、政府にはかなりの限界があるのだ。
彼らだけでは治安がなかなか守られないため、まるで、
「軍と警察の中間」
というくらいの組織を置くことになった。
普段は、表に出てこないが、何か不穏な動きがある時は、国家から、かなりの権限を与えられ、治安を維持するという目的をもって、行動する組織があった。
アメリカなどでいえば、
「FBI、CIAなど」
がそうであろう。
FBIは国内向け、CIAは国外向けという、いわゆる諜報活動などの、特務機関というわけだ、
大日本帝国においては、
「特高警察」
と呼ばれるものが、それに当たるのではないだろうか。
大日本帝国における特高警察というと、戦時中などで、戦争反対などを訴える人を、
「危険分子」
として、逮捕、拘留、さらにその間に拷問を行うという、あくまでも、
「国家のための警察」
いや、政府の特定の人間のための警察というところにまで行っていたりするくらいである。
本当は、私有化などできなおはずなのだろうが、当時の治安維持法では、総理大臣などには、それくらいの力があったのかも知れない。
とにかく、
「国家総動員」
「治安維持法」
などというものがあることで、政府の方針に逆らう人間は、まるで、国家反逆の罪とでもいうような裁きとなって、特高警察に連れていかれて、拷問を受ける。
特に、共産主義であったり、平和主義のような人間は、戦争遂行の意味で、士気が下がり、下手をすれば、反戦運動などが起こっていると、政府の存続が怪しくなる。
対外戦争をしているのに、尻に火がついてしまうなどというのは、本末転倒も甚だしい。「大日本帝国では、主権は天皇にある。天皇のために、一致協力して、戦争遂行に邁進するというのが、国民の義務だ」
とまでの押し付けを、国家ぐるみで行うのだった。
国民の人権は、ほとんど制限されている。国民の人権などは、優先順位でいけば、かなり下の方になる。
「確かに、国民の人権だけを優先して、国家が崩壊してしまうというのは、本末転倒なことだ」
と言えるだろう。
それでも、民族性によるものなのか、それとも、洗脳という形のプロパガンダがよほど素晴らしいものなのか、日本人が真面目過ぎるのか、今の日本からは、想像できないものだった。
横田少尉が、その島を去った後、一時期、その島の話題が上ったが、すぐにすたれてしまった。
「まったく我々からは想像もできないほどの原始的な社会」
ということで、ブームが去れば、忘れ去られるだけだった。
だが、これはミステリーの基本であるところの、
「一度警察が捜査した場所は、もう誰も調べようとしないので、絶対に安全な隠し場所となるのだ」
と言われる通り、警察には、
「一度捜査したから、もうそこにはありえない」
という固定観念のっようなものがあるのだった。
それに似た感覚で、
「一度ブームが去ってしまうと、しばらくは、誰も見向きもしない」
という法則のようなものがある。
そのため、横田少尉が帰国してから、ひと月ほどは話題に上がったが、ブームのようなものが去ってしまうと、その島の存在自体が忘れられていくようだった。
宗主国も、それくらいのことは分かっていた。そこで、彼らは特高警察を使って、原始的な島を支配しようと、最初は考えたのだった。
一度は、国家の財政不安から、切り離したところであったが、少し考えが変わってきたのだ。
国連から委任統治されいぇいることで、警察能力には限界があるということで、民間で、治安維持のための警察組織を作ったのだが、その警察を束ねている企業は、裏に反政府主義の組織を持っていた。
やつらは、組織が大きくなりすぎて、所帯を抱えきれなくなっていた。
本来であれば、隠密な組織のために、巨大になってはいけないのだが、いかんせん、人海戦術のため、人がどうしても必要となった。
したがって、彼らの拠り所になる組織を作らなければいけないのだが、組織を作るというのは、sんなに簡単なものではない。目的を持った組織でないといけないし、何よりも、裏で動いている組織でなければいけないのだ。
つまり、そこで警察組織に目をつけた。
今の警察組織は、警察という組織は、一定の大きさでなければいけないのに、警察官となっている連中は、実際には少ない。それだけに、警察といいながら、できることは限られている、そのために、一人一人の警察官の権力を大きめに設定したのだったが、そうなると、権力を勝手に行使する輩が増えてきて、
「治安を乱すのは警察だ」
ということになり、本末転倒になってきた。
「そこで、警察官になる人間を増やし、教育する必要がある」
ということになったのだが、なかなか、表では難しい。
そこで、表の仕事を裏で行うようにして、裏の警察官の権力を大きくしようと考えたのだ。
そこには、鉄壁の戒律を持った組織である必要があり、権力は持たせるが、乱用できないように、取り締まるということになってきた。
作品名:「軍人の魂」と、「知恵ある悪魔」 作家名:森本晃次