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ご都合主義な犯罪

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 これらのクーデタ―や、災害は、確かに戒厳令を必要とするものだった。ただ、戒厳令というものは、基本的に、政府や軍が強力である必要がある。憲法によって守られた政府や軍に力があり、軍より任命される戒厳司令官に権力が集中することになる。
 それがハッキリしたのは、二・二六事件ではなかっただろうか。
 二・二六事件というと、青年将校といわれる、大尉、中尉、少尉クラスの人たちによる自軍を動かしてのクーデターであった。
 当時の岡田総理、高橋是清大蔵大臣、渡辺錠太郎教育総監、さらに、斎藤実内大臣などの政府高官の暗殺を謀ったのだ。
 彼らの言い分としては、
「天皇のそばにいる一部の特権階級の連中が、天皇の傘の下にいて、甘い汁を吸っているそんな連中の打倒により、天皇中心の親政を行う」
 という、いわゆる、
「昭和維新」
 を名目に、決起したものである。
 しかも、決起において、自分の軍を勝手に動かし、兵に対し、上官命令を課することにおいて、政府要人や当時の財閥などを襲撃し、暗殺を謀ったのだ。
 ただ、狙われた連中のすべてが、自分たち皇道派に敵対していた、統制派の連中ばかりだということと、そもそも、この時期に、一部皇道派青年将校によるクーデターが起こるのではないかという憶測はあったようで、実際に起こってしまうと、その架空のシナリオとほぼ同じ内容だったのだろう。
 そうなると、軍に関係のある人間が考えれば、あきらかに、
「皇道派と統制派による派閥争い」
 だということは一目瞭然である。
 しかも、天皇にしてみれば、首相、内大臣、教育総監という、天皇が軍を動かしたり、政治を把握するうえで、大切な相談役であり、自分が一番信頼を置いている人たちを、ことごとく殺害したのだから、怒りに震えるのも無理もないことだろう。
 陸軍内部でも、青年将校たちに同情的な意見も若干はあったのだが、天皇が怒り心頭になった時点で、このクーデターは終わりだったのだ。
 彼らの意見を天皇に上奏した時も、天皇は怒り狂っていたという。
「お前たちg躊躇するなら、私が自ら軍を率いて、鎮圧する」
 とまで言われたという。
 無理もないことである。自分の信頼する人間を殺され、帝都の治安を乱され、戒厳令まで出す羽目になったのだから、天皇としては、彼らが自分に弓を引いた完全なる賊軍だということを感じたのだろう。
 こうなってしまっては、反乱軍が軍を率いて、立てこもる理由はなくなった。
 何と言っても、最大の目的である
「天皇親政」
 という尊王が目的なのに、
「その天皇を怒らせた」
 ということであれば、青年将校たちの敗北は間違いない。
 そういう意味で、投降した青年将校に対し、
「非公開、弁護人なし」
 で、首謀者は全員死刑という結果になった。
 そもそも、この事件を起こす一つのきっかけとなったのは、海軍将校による犬養首相殺害の五・一五事件においての首謀者が、かなりの減刑であり、すぐに恩赦されたりしたことが、陸軍青年将校に安心感を与えた。当時の政治の不安定さと、陸軍内部の一触即発であった状態を考えれば、
「もっと厳しくてもよかったのではないか?」
 と後から悔やんだ人もいたかも知れない。
 だが、この、二・二六事件をきっかけに、陸軍内部は統制派の固まり、ここから先は、国家総動員令、治安維持法の成立なども絡み合って、いよいよ、陸軍の暴走に拍車がかかってきたといっておいいだろう。
 とにかく二・二六事件に関して、今の日本人がどのように感じているのか分からないが、何と言っても日本人の感覚は、
「判官びいき」
 と言われるほどに、
「弱い者の味方」
 ということであり、青年将校たちに同情的に感じるであろう。
 ただ、彼らがいうように歴史が答えを出してくれるとするならば、結局最後は大日本帝国は滅亡したということで、やはり彼らの考えは出された答えだけと見ると、
「間違っていた」
 ということになるのだろう。
 話が大きくずれてしまったが、
「時代は繰り返す」
 ということもある。
 人によっては、ちょっとしたことであっても、十分逆恨みをすることもあるので、
「世の中、何が災いするか分からない」
 と言えるであろう。
 この殺人事件を捜査していると、一つ気になる情報が出てきた。
 隣の新婚の話によれば、以前、モスキート音が聞かれたので、隣。つまり阿久津家に相談に行ったが、どうやら、阿久津家は関係ないと思ったようだ。しかし、もう一方の隣に行くと、相手は男性の一人住まいで、雰囲気も暗く、とても、平穏に近所づきあいをするという感じではなかったという。 
 そして、今回殺害されたその人が残していた日記によると、
「最近、騒音に悩まされていた」
 と書かれている。 
 その日付は、新婚が相談に行く数日前に書かれたものだということで、日記帳に行を開けず、相談の日の翌々日くらいに起こった事件が書かれていたので、その内容は、相談を受ける前だということに違いない。
 そのことを考えると、お互いに、それぞれ違った音に悩まされていたことになる。
 隣の男がどのような騒音に悩まされていたのか分からないが、日記を見る限り、最初は、新婚が怪しいと思っていたが、そのうちに、反対側の家からも同じような周波数の音が聞こえてきたという。
 そして、そのうちに頭の中が音で混乱してきて、落ち着いて判断することができなくなってきたようだ。
「誰かを殺したい」
 という衝動にかられたと書かれているが、その文字は完全に乱れていた。
 精神的に病んでいるのは、間違いないようだった。
 しかし、彼は殺されたのであって、自分から誰かを殺したわけでも、自殺したわけでもない。
 起こった結果としては、日記の内容からは、矛盾していることであった。
 ただ、心境の変化というのは、一瞬にして起こる場合がある、この日記を完全に信じ込んでしまうというのは、恐ろしいことではないだろうか。
 日記を見る限り、最初は新婚家庭からの音に納屋されていたように思ったが、今度は反対側からの音も気になるようになってきた。
 その音というのは、自分の欲望と、これまでの惨めな自分を苛めるような状態に陥らせ、鬱状態を引き起こすようだという。
 以前にも似たようなことがあり、欲望のままに動いてしまい、後悔が襲ってきたところに、自分の感情がまわりにバレてしまった。
 そのうちに、濡れ衣であるのは分かり切っていたが、自己嫌悪から、それを否定することができず、さらなる沼に嵌りこんでしまうのが分かっていながら、自ら嵌りこんでしまう自分を、いかにその時、制御できなかったのかということがトラウマとなってしまい、そのことが、自分を積極的に行動させることができなくなってしまった。
 それが、自己嫌悪に繋がり、沼に堕ちていく自分を誰も助けてくれないと分かっていながら、見捨てるようにしか見ていないまわりに、外から冷静に見ている自分は、怒りを覚えていたのだった。
「お前たちが苦しんでいる時、俺は、草葉の陰から思い切り笑ってやる」
 という気持ちだったのだろう。
 本当は笑うよりも、失笑という冷めた目の方がいいのだろうが、自分は性格的に黙って冷静になることができない。
作品名:ご都合主義な犯罪 作家名:森本晃次