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無限と矛盾~知恵ある悪魔の創造~

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 空から爆弾が雨あられと降ってきて、街や家が燃えていくところなど、想像もつかない。昔、祖父から聞かされた戦争体験も、まだ小さかったこともあって、恐怖なのだという感覚ではあったが、ピンとくるものでもなかった。
 リアルに描かれているのを見たのは、やはり、戦争映画だったのはないだろうか。
 今では戦争を知っている人がいないこともあって、リアルさについて、そこまで言われないかも知れないが、知らない人が見るのに、感じるだけの何かが存在していると思うと、時代の流れというよりも、人間の中にある遺伝子のようなものが、記憶を受け継いでいるのかも知れないと感じるのだった。
 戦争映画やドラマを見ていると、
「歴史を勉強してみたくなる」
 という感覚も出てくるというものだ。
 最初に歴史を勉強してみようと思ったのは、友達と話をしていて、知らないことを友達が話していて、こちらが知っているかのような受け答えをしているのを、早い段階で見抜かれたことだった。
「勉強をするというのは、それだけの魅力や理由が存在しているに違いない」
 と感じるのだった。

               滅ぶ肉体、生まれる肉体

 美山博士は、一度結婚したが、すぐに離婚している。お互いの意見が合わないということが理由dあったが、これほど当て嵌まる理由もないだろう。
 だが、美山博士とすれば、この理由が一番嫌だった。
「性格の不一致だったり、お互いの意見が合わないなどというのは、結婚する前から分かっていることではないか」
 というのが、その理由であり、
「不倫をしたり、されたりというのは、その後の結果からくることなので、仕方がないともいえるが、逆にいえば、そこまで気づかないというのも自分のバカさ加減が証明されたようで、屈辱でもある」
 と言えるのではないだろうか。
 美山博士は、自分から離婚を言い出したわけではなかった。奥さんの方が言い出したのだ。
 何となく言われるであろうことは分かっていた。
 しかし、こればかりは自分がどうにかできるものではないと思った。どうにかできるくらいのことなら、最初から問題にもならないだろうし、問題になったとしても、修復するだけの気配がしてくるものだと思っていた。
 その場の雰囲気に身を任せると言えば恰好がいいが、要するに、決定打がなかったので、何もできなかったというのが正解だった。
「離婚なんて。なるようにしかならない」
 というのが、博士のその時の結論だった。
「自分のような博士と呼ばれるような人間でも、適わないことがあるんだ」
 と思ったほどで、これを、傲慢だとか、自信過剰だという風には感じない。
 むしろ、
「適わないこともあると感じた方が、自分も人間らしかったんだと思うことで、それまでとは違った自分を発見できるのではないか?」
 と思うほどだった。
 戦争の時代を勉強している時、
「いくら洗脳さえているとはいえ、どんなに覚悟をしていても、死というものに直面すると、それまでの自分とはまったく違った心境になるののだ」
 ということを思い知らされたような気がする。
 冷静に考えれば、戦場に赴いたら、逃げることは許されない。
「敵前逃亡は銃殺刑」
 である。
 しかも、敵前逃亡という理由で死刑にされたら、残された家族に対しての誹謗中傷はハンパではないだろう。
 非国民呼ばわりされ、石を投げられるほどの扱いである。
「同じ死でも、華々しく戦場で散った連中は、天皇陛下のために立派に死んだといって、英霊として祭られることになるのだ」
 という意味でも、まったく正反対である。
 どうせ死ぬなら、英霊として死にたいと思うのは誰もが同じこと。そのように洗脳することで、敵前逃亡などはなくそうとしていたのだろう。
 この、
「敵前逃亡は銃殺刑」
 という考え方は、ある意味万国共通である。
 その理由は、軍の士気にかかわったり、死を恐れることで、戦争反対運動が巻き起こることを恐れたのだろう。
 それを証明したのが、ベトナム戦争で、
「軍の作戦が、あまりにも政治に寄りすぎたこともあり、悪戯に自軍の被害を増やしたことで、反戦運動が巻き起こった」
 というのだ。
 それが結局、アメリカを撤退させることになり、取り残された南ベトナムは、滅亡するしかないという状態に陥ってしまう。
 戦争に政治が絡むとロクなことはないのだろうが、この二つは切っても切り離せないのである。
 何しろ、戦争というのは、
「国家総動員して行うものだ」
 と言えるからであろう。
 特に朝鮮。ベトナムなどの代理戦争であったり、ソ連のアフガン侵攻までは、米ソという二大大国が、ある意味、同じようなことをしている感じであろうか、もっとも代理戦争というのは、冷戦に始まったことではなく、傀儡政権があった時代には多かったことだろう。
 そういう意味では満州国という傀儡政権を持っていた大日本帝国は、ノモンハンなどの満蒙国境紛争で、代理戦争に近いことをやっていたのだ。
 代理戦争とは少し違うが、日清戦争のように、戦争している両国の領土でも何でもない朝鮮半島が主戦場だった例もある。戦争というのは、
「摩訶不思議だ」
 と言えるのではないだろうか。
 博士が、自分の研究とは別に、歴史の勉強をしている時、少しおかしかったようである。そもそも、歴史の勉強をしているのも、自分の研究のためであり、それを他人に決して語ろうとはしなかったことが、博士に疑問を持たせたりする要因だったのかも知れない。
 奥さんも博士と違って、ごく普通の女性だったこともあって、普通に付き合っているつもりだったが、一緒にいるうちに、どこか博士が、
「情緒不安定」
 に見えてきて、
「科学者というのは、人のことや研究していることは理解できても、自分のこととなると、ほとんど感覚がマヒしてしまうようなところがある」
 と感じていただけに、さすがにその時はゾットするものを感じた。
 普段は鈍感なのに、急に恐ろしいほど鋭かったり、逆に、普段は的確な判断を、一気にできるところがあるのに、まったく無関心で、何を考えているのか分からない状態になったことで、
「もう、この人とは一緒にはいられにあ」
 と感じたのだった。
「女性というものは、ある程度まで我慢できるが、ちょっとでもキレてしまうと、もう収拾がつかなくなってしまうものだ」
 と言われているが、奥さんもそうだった。
 だが、博士と一緒にいると、その我慢ができないのだ。
 我慢しても、不毛しか見えない将来がとたんに悲惨さがこみあげてくるようで、そうなると、別れるしかないという結論だった。
 それを博士に話すと、
「そうか、じゃあ、しょうがないな」
 と、一言で終わってしまった。
 博士の性格は、ダメだと分かれば、あとは早い。さっさと別れてしまって、一人になりたいとでも思うのか、離婚まではあっという間だった。
 まるで最初から計画でもしていたかのように、さっさと荷物をまとめて、出ていった。「離婚届は後日郵送で」
 というくらいのもので、本当にあっさりとしていた。
 だからと言って、完璧な合理主義者というわけでもない。