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架空小説の一期一会

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 もし、そうであれば、浦島太郎は、完全に乙姫の策略に乗ったことになる。ただ、そうなると、この話は最初から乙姫が組み立てた計画だったのかも知れない。
 浦島太郎がホームシックに掛かったのは若干の計算違いだったかも知れないが、それも想定していなかったわけではなく、そのために、玉手箱が必要だったのだ。
「困った時にだけ、開けてください。それ以外は決して開けないように」
 と言われた玉手箱、これを開けたのは決して好奇心からではなく、本当に困ったからであろうが、それにしても、浦島太郎というのも、かなり優柔不断だったといってもいい。
 そもそも、乙姫たる者が、浦島太郎のどこを気に入ったというのか?
 遭ってもいない相手を気に入ったというのは、それだけ乙姫が特殊能力を持っているからなのであろうが、他の話で、動物が、人間に化けてやってくるというのは、
「弦の恩返し」
 であったり、まずは、一度出会って、その人の優しさに実際に触れることで、再度負いたいと思い、その人の前伊再度現れたのだ。
 浦島太郎の話に、乙姫とは初対面であるということから、最後に乙姫が浦島太郎を好きになったという話がなければ、最後まで、乙姫の気持ちを分かる人などいないだろう。
 だから、浦島太郎の玉手箱を開けるシーンで終わりだと思っている人が見ると、まさかこの話が恋愛物語などと誰が思うことだろう。
「人は、一度も会ったことのない人を好きになるなどありえない」
 という思いが、万人に共通してあるからではないだろうか。
 浦島太郎が、洗脳されやすい、純粋な青年だったからであろうか。それとも、乙姫がそれだけ特殊な能力を持っているからであろうか。とにかく、浦島太郎の話を総合的に考えると、
「乙姫によって洗脳された浦島太郎は、乙姫の感情によって、掌で転がされていたのではないか?」
 という結論に陥ってしまう。
 乙姫の気持ちが強すぎることで、浦島太郎も、乙姫に気持ちが芽生えたのか、それとも、浦島太郎が、どこかに女性を引き付けるフェロモンがあって、そなんな人間を特殊能力を持った乙姫が好きになったということであり、偶然性が強いのではないかとも思うが、もし、助けたカメが乙姫の化身ではないかと思うと、このあたりがこのお話の不自然なところではないかと思うのだ。
 これほど登場人物が少なく、ヒロインである乙姫様が、あまりにもラストまで描かれていない話の中では、
「脇役にすぎない」
 と思わせるほどの、まるでエキストラのようではないか。
 それこそ、竜宮城での最初の挨拶と、帰りたいと言った時に、名残惜しさを表には出しながらも、
「困った時にだけ、開けてください」
 と言って渡した玉手箱のシーンが、重要なシーンであるにも関わらず、ストーリーの枝葉として描かれているのが不思議な気がした。
 この話の結末を、誰が想像したというのか、途中で終わっても、最後まで語られたとしても、どちらにしても違和感は残るといってもいいのではないか。
 この玉手箱というのは、一種の伏線に過ぎないのではないか?
 もちろん、このことは最後まで話を読まなければ感じることはないのだが、つまりは、玉手箱というアイテムを使うことで、乙姫の願望が満たされるということではないか?
 元々、おじいさんになってから、鶴に変身したという話もあるし、最初から、本当はおじいさんではなく、鶴に変身していたという話もある。
 そう考えると、この玉手箱という箱の正体は、
「相手の願望を叶えてくれるものではないか?」
 と考えられないだろうか?
 というのは、浦島太郎が帰りついた土地は、すでに七百年後の未来だった。
 そして、その土地には、自分の知っている人、自分を知っている人のどちらも生存していない。七百年もの未来なのだかから、当たり前のことだ。
 もし、自分がそんな土地に来たら、どう考えるだろう?
「こんなところでは暮らしてはいけない」
 と思うだろう。
 もし時代が同じで、まったく違う土地に行きついたということであれば、何とかして生まれた、そして自分を知っている人がいるところに帰ろうと努力をするに違いない。それが生きがいであり、生きる活力にもなるのだ。
 しかし、時代が違っていて、自分を知っている人が誰もいない。その場所に変えることがまったく不可能だとすれば、自暴自棄になり、
「このまま死んでしまった方が、どれほど気が楽か?」
 と考えるに違いない。
 しかし、玉手箱というものの主旨として、
「死ぬ」
 ということは許されないということであるなら、なるべく死に近いということで、老い先短い老人になるというのは、次の希望として十分にありえることではないか?
 ただ、そうなると、乙姫とすれば、太郎との幸せな生活を望んでいるので、おじいさんになった後、玉手箱の効力を使って、浦島太郎を鶴に変えるということだってあり得なくはない。
 そうなると、乙姫が最初から最後まで計画を練っていたのだと考えると、太郎が鶴になることも、最初からの計画だったのだ。
 たぶん、乙姫は、竜宮城の性格的なもので、きっと天界のように人間界に比べて、優れた場所なのだろう。どんなに乙姫が太郎を慕っても、一緒になることが許されないということであれば、それを何とかするために、太郎の人間性を見せつけ、そして、竜宮城に招き、人間のよさを竜宮城の人にアピールした。しかも、身内を大切にするところがあるというのも見せつけておいた上で、元の世界に返す。
 その時、太郎を未来の世界に返すようにして、太郎が途方に暮れたところで、自分がカメになって現れ、鶴となる太郎と夫婦になるという計算であった。
 つまり、
「弦は千年。カメは万年」
 というありがたい存在ではないか。
 まるで神のような存在になった太郎と、カメの化身である乙姫が結ばれることに、誰が反対するであろう。
 あの玉手箱は、太郎を、
「神様にする」
 という魔法の匣だったのだ。
 ただ、それは、その時々で願いを変えることも可能な、
「願いをかなえられる」
 という箱だったのだ。
 それを思うと、話の辻褄がすべて合うではないか。
「身分の違いで結婚できない二人が、乙姫の魔法の力によって結婚できるような、乙姫による計画された物語」
 というものが完成することになる。
 しかし、その内容が分かってしまうと、この物語の本質である、
「恋愛物語」
 というものが消えてしまう。
 だから玉手箱の正体や、この話が乙姫の計画されたことだということが分かると、せっかくの話が台無しになってしまう。そのため、矛盾だらけの話にする必要があったのではないだろうか。
 昔話や伝説というのは、意外とこういうものなのかも知れない。

                  先駆者

 読者諸君は、
「開けてはいけないもの」
 あるいは、
「開けてしまうと、とんでもない災いが降り注ぐことになる」
 という言い伝えとして、
「パンドラの匣」
 という言葉を使うことがあるだろう。
 例えば、今の時代など、
「原爆を開発した科学者は、自らの手で、パンドラの匣を開けてしまったのだ」
作品名:架空小説の一期一会 作家名:森本晃次