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奴隷世界の神々

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「基本的には、そう信じられています。でも、だからと言って、すべてをしてくれるわけではなく、あくまでも、その人間を見て、できることはしてくれると信じられています。そのあたりは、神に対して、人間が敬意を表しているということであり、神も一目置いている関係だというのは、他の宗教よりも、結びつきは深い感じがしますね」
 と団員がいうと、
「まだまだ信者の数が少ないから、人間も、そんなに変なやつも少ないんだろうね。これがどんどん大規模になってくると、人間もいろいろなやつが出てきて、せっかくの信仰を遅らせることになるからね、それこそ、時代の逆行を招く、これが彼らにとって一番恐ろしいと思われているところではないかと思うんだよな」
 と団長も次第に、彼らのことが分かってきたようだ。
「そ、そうなんですよ。団長も次第に彼らのことが分かってきたようですね」
 と、団員は、少々興奮しながら言った。
 これだけ分かってくれるようになると、団員の方も話をしていて、理解してもらえていると思うと、これほど、安心なことはないだろう。
「とにかく、まずは、全能の神である、奴隷の神の正体のようなものを知ることが先決な気がするんだ。それと並行して、他の神々のことも調べる必要があると、思うんだけどな」
 と団長がいうと、
「どうして並行して何ですか? まずは全能の神をすべて知ってからの方がいいのでは?」
 と団員がいうと、
「いや、そうではないんだ。全能の神のことを知るのは大切なことであるが、どこかで知れるかというのも、問題だと思うんだ。知れば知るほど、どんどん解明されていく相手であれば、それも分かるんだけど、もし、知れば知るほど奥が深い相手であれば、すべてを知るのを待っている間に、相手がどんどん深いところに行ってしまって、いつの間にか自分たちも、引き込まれてしまい、下手をすると、信者のようになっているかも知れない。宗教というものは、そこまで考えて対応しないといけないものだと思うんだ。そうしないと、こっちの考えとは裏腹に、入信させられて、抜けられなくなるということになったりすれば、それこそ、ミイラ取りがミイラになるということわざ通りになってしまうからな」
 と、団長は言った。
「団長のおっしゃることは、さすがだと思いますね。正直、私も調査をしていて、時々、我に返って、ハッと思うこともあるんですよ。あれは、引き込まれそうになっているからなんでしょうかね?」
 と、団員がいうと、
「私は、今までにも何度か宗教団体が絡む国家を見てきた。そこで今回のような統治の問題にも何度か携わってきたので、今回のような問題も、何度も経験をしてきているので、分かる気がするんだ」
 というではないか。
「さすが、団長ですね。我々は。まだそこまで統治の経験も、宗教団体と向き合うということもほとんどなかったからですね。でも、そんな私を推薦してくれたのは、団長だと伺いましたけど?」
 と団員が聞くと、
「ああ、君は、素直な中でも、状況判断を冷静にできる人だということを分かっていたからね。それはきっと、自分の中で、状況を理解できるだけの力があるのだと思っているからなんだ。それがないと、一つの国家や無政府の地域を統治するなんてこと、できっこないからね」
 という。
 そんなに褒められるとさすがに照れるのだが、逆に、それだけのプレッシャーでもある。ここまで、いろいろ調査をしてきて、最初は団長が、
「どこまで俺たちのいうことを理解してくれるだろうか?」
 という一抹の不安があったのだが、そんな不安も、すぐに吹っ飛んでしまうような気がした。
 やはり、
「経験というものは、どんな理論にも適うものなんだろうな」
 と、感じたほどだった。
 自分にとって、この国、この宗教団体のことを、いかに知るかということは、大切なことに感じられた。
「ちなみに、この全能の神の奴隷の神様ですが、彼の奥さんが、実は我慢の神なんですよ」
 と、団員がいうと、
「ほう、我慢の神というのは、女神なのかい?」
 と言われたので、
「ええ、そうなんです。私はてっきり男だと思っていて、女神はいるとしても、それらはギリシャ神話のように、美の女神であったり、女性の権利を主張するような神なのかなと思っていたんですが、まさか我慢の神様だったなんて、本当にびっくりです。でも、いろいろと考えていくうちに、我慢の神様が、全能の神の奥さんだというのも、何となく分かった気がするんですよ。全能の神というのは、神々の象徴という意味合いもあるわけで、それだけ、余裕やニュートラルな部分も必要になってくる。そんな旦那の我慢の部分を吸い取る。あるいは、つかさどるという意味で、その立場が奥さんだというのも、実に興味深いところなんですよ」
 と団員がいうと、
「確かにそうだね。内助の功というのが奥さんだから、そういう意味ではうまくできていると思う名」
 と、団長が言った。
「奥さんが我慢の神というのは、私にとって、最初以外だったんですが、考えてみれば、家族の中で一番我慢しているというイメージがあるのが、奥さんなんですよ。やっぱり、この国の宗教における神というのも、人間の創造物ということを著しているのかも知れませんね」
 と、団員がいう。
「その通りだと思うよ。確かに自分の家族の中でも、我慢をしているのは奥さんだろうね。ただ、それらもすべて背負い込んでいるのは、夫であり、家族の長である。私なんだけどね」
 と団長がいうと、
「なるほど、私などは独身なのでよく分かりませんが、子供の目から見ても、父親と母親の関係というのは、そういうものなのだと思えてきますよね」
 という。
 団員はまだ三十歳になって、ちょっとくらいだった。
「派遣委員の一員としては、少し早いかな?」
 と言われてはいたが、それを強く推薦したのが、団長だった。
「これからは、若い人たちの目も大切にしていかないと、世代交代ができなくなってしまう。どこかでしなければいけないのであれば、自分たちから積極的にすることが重要になってくるのではないか?」
 と言って、団長は、押し切ったのだ。
 団員は、世代交代ということでなくとも、
「彼は非常な真面目な性格で、言われたことは必ず、実行する。しかし、実際には、奇抜なことをいきなり言い出すこともあり、予測のつかないところがある。それが彼のいいところでもあるので、その積極性を私は買ったんだ。今はまだ誰も注目していないが、そのうちに、彼がほしいといって、争奪戦になることは必至だ。だから、今のうちに彼をこちらに引き寄せておくことが大切なんじゃないかな?」
 と、いうのだった。
 なるほど、彼の今回の発言も奇抜には見えるが、実際にはしっかりとした調査に基づいたもので、それだけに自分たちがいかに凝り固まった考え方をしているのかを、思い知らされる幹部もいたことだろう。
 しかし、そんなことに気づく人は、ほとんどおらず、そのあたりが団長としても、気が重いところであった。
 大の大人に、
「若い者を見習え」
 というと、
「時代遅れだ」
 と言われるかも知れない、
作品名:奴隷世界の神々 作家名:森本晃次