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奴隷世界の神々

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「彼らのしたたかさは、思っている以上だと思います。今のところ、こちらが、統治をしている方だから、主導権はこちらにあると思われているが、彼らを怒らせないようにしようと譲歩だけを重ねると、いつの間にか主導権を握られる結果になるのではないかと思うんです。それだけは避けなければなりません」
 と団員は言った。
「そのあたりは、団員にも、それから政府の幹部にも話をしておこう。ところで、向こうの国の、もう一方の政府の方はどうなんだ? やつらは、我々が考えているほど、奴隷たちのことを見ているのだろうか?」
 と、団長は気にしていた。
「そうですね。向こうの政府はそこまで感じていないでしょうね。今のところ奴隷たちにクーデターの様子はないし、武器、弾薬をひそかに集めているという話も聞かないので、いきなり何かが起こるということはないでしょうね」
 と、団員は言った。
「しかし、彼らはしたたかなんだろう? 諦めが悪いのであれば、いずれ時期がくれば、と思っているのかも知れないんじゃないかな?」
 と団長がいうと、
「それはそうかも知れません。確かに彼らは、したたかで、諦めが悪いでしょうね。というか、だから、彼らは自分たち自身で、奴隷という意識を強く持っているんじゃないでしょうか? それが彼らを我慢の道に導く、根幹になっていると思うんです。自分たちは奴隷であるからこそ、我慢強いんだとですね」
「ほうほう、そこに繋がってくるわけだ。それを思うと、さっきの彼らが自分たちのことを奴隷と言われても嫌な顔をしないわけが分かった気がするな」
「ええ、私もそこが不思議だったんですが、彼らがしたたかな性格などだと分かると、何か彼らの行動や考え方には、意味があるように思えたんです、それを考えると、彼らの考えが、よく分かってきました。考え方に無駄がないとでもいえばいいのでしょうか? それを思うと、こちらも、それなりに彼らのことを真剣に見ていかないと、取り残されてしまいそうになるんですよ。それが怖いですね」
 と、団員はいうのだった。
「彼らが崇める神にも、いろいろあるわけだろう? まずは、奴隷の神ということだったが、それはどういうものなんだい?」
 と聞かれた団員は、
「彼らが崇める神の種類としては、ギリシャ神話における、オリンポスの神々に近いものがあります。一人、全能の神がいて、そのまわりに、一つのことに特化する神々がおられるんですよ。ただ、ギリシャ神話のような明文化されたものはありませんから、先ほども話に出たように、彼らは独自の神を創造したりしていますが、ベースとしては、決まった神がいて、そんなに個人個人で差はありません」
「じゃあ、その家に伝わっているという神もいたりするのかな?」
 と団長に聞かれ、
「まあ、そういう考え方もありますね。つまりは、彼らの家々には、仏壇のようなものがあるんですが、偶像崇拝は禁止されているので、神様の名前を札にして、置いているんです。神様の名前は、それぞれ家で伝わっているものなので、他の家の人がもし来たとしても、その名前を見て、それが何の神様に当たるかというのは、分からないでしょうね。他の家の人が聞くことはないし、もちろん、その家の人間が、自分から話すようなこともありませんからね」
 というのだった。
「じゃあ、彼らは彼らで、同じ奴隷として、被くが違えば、仲が悪いのかな?」
 と団長がいうと、
「仲が悪いというところまではいかないと思いますが、絶対的に仲がいいというわけではないようですね。それは、自分たちが、分かっていることであり、あまり仲良くしていると、支配者国の方から、クーデターを怪しまれるということもあるでしょう。でも、実際には、絆のようなものはあって、彼らの元から持っている防衛本能のようなものが、働いていることから、表に出さない状態が続いているんです」
 と団員がいうと、
「本当に奴隷の集団というのは、我慢強いんだな?」
 と団長に言われたので、
「ええ、そうです。だから、彼らのほとんどが信じる神の中に、我慢の神というのがいるんですよ。それは、今まで先祖が迫害を受けてきても、いずれは、自分たちの国を自分たちで作るという信念があるんでしょうね。それこそが彼らの生き残る意義なんだと思います」
 と団員がいうと、
「そうだろうな、そうでもなければ、いくら我慢強いといっても、できることとできないことがあるだろうからな」
 と団長は呟くように言った。
「そうなんですよ。だから彼らは、我慢の神を創造し、崇めている。ある意味、我慢の神に、自分自身を重ねて見ているのかも知れないと、私は思っています」
 という団員に対し、
「というと、どういうことなんだい?」
 と、団長にまたしても、聞かれた。
「我慢することが、自分たちの意識だと考えていると、したたかにもなれるんですよ、彼らは、我慢こそが美徳だと思っていますからね。美徳とは、善行であって、善行は自分たちを最後には勝利に導いてくれるものだというのが、どうやら、奴隷の神の教えなのだといっていたんですよね。そのスローガンを持っているからこそ、彼らは、したたかになれるし、自分たちを押し殺すことができるので、何事も、相手に知られることなく、水面下で動くことができる。まるで忍者のような存在なのではないでしょうか?」
 と団員がいうと、
「そうか、日本国には、昔忍者がいたという。彼らは、自分たちが修行をすることで、しのびを覚え、その特技を生かして、戦国の世を生き抜いたと言われていると聞いたが、奴隷たちは、奴隷を隠れ蓑にして、その忍者の精神を受けついているのかも知れないな」
 と、団長が言った。
「日本の忍者のことを彼らが知っているのかどうかはわかりませんが、彼らの祖先は、結構、時の支配者、特に独裁者から、迫害を受けてきたという歴史を持っています。そういう意味で、彼らには他の人たちにはない忍耐力と、水面下で行動できるしたたかさが身についているんでしょうね」
 というのが、団員の分析であった。
「ところで、その奴隷の神というのだが、どんな感じになるんだ? 性格的なものというのか、そのあたりは分かっているのかい?」
 と、団長から聞かれた団員は、
「ええ、漠然としてですが分かっています。奴隷の神というのは、まずは、全能の神として、神の中の神という位置づけになっています。ギリシャ神話のゼウスのようなものですね」
 と団員がいうと、
「じゃあ、ゼウスのように嫉妬深く、女に甘い神なのかな?」
 と団長が聞くと、
「いえ、そこまではないようです。どちらかというと、慈悲深いという感じでしょうか? もっとも、慈悲深い神だからこそ、信者が我慢を強いられてもついてこれるんです。慈悲と嫉妬では、まったくニュアンスが正反対ですからね」
 と、団員は言った。
「全能の神だから、何でもできるんだろうか?」
作品名:奴隷世界の神々 作家名:森本晃次