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奴隷世界の神々

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 と言ってもいいくらいで、共通性はあまり感じられない。
 これでは、宗教と果たして言えるのであろうか?
 派遣委員の人たちは、頭を傾げてしまうのだ。
 だが、個人個人ではそれぞれに、確かに信仰心を持っているようだ。別に周りに隠しているわけではないのだが、なぜか表に出てこない。それは彼らの奴隷としての、持って生まれたオーラの低さとでもいえばいいのか、彼らは無意識に、自分の存在を消しているようだ。
 これは、逆に、まわりが気にならないということも引っかかっているに違いない。
 いわゆる、
「路傍の石」
 と同じ発想であるが、
「道端に落ちている石は、目の前にあって、それをキチンと目で捉えているはずなのに、意識としては、ほとんど皆無に近いものだ」
 という考え方である。
 似たようなものとして、
「空に煌めく、星空の中に、まったく光を発しない邪悪の星が存在するという」
 というものも存在しているようだ。
 その話を思い出した時、彼らが、
「オーラを消す能力を有しているのかも知れない」
 と感じた。
 路傍の石であっても、光を発しない邪悪な星であっても、それぞれに、オーラがあるのかも知れない。sのオーラというのは、他のオーラを吸収し、自分たちがまったく目立たないようにできる能力のことである。
 それは、カメレオンの保護色のように、自分に迫ってくる脅威に対しての、防衛本能のようなものではないかと言えるのではないだろうか。
 彼ら奴隷は、そんな能力を、自分で得られたわけではない。おそらくは、遺伝子によって脈々と受けつかれてきたものであり、彼らの祖先は、奴隷だったに違いない。
 実際に調査したことはないが、調査をすれば分かることだろう。
 しかし、それを国連が行うわけにはいかない。差別につながるからだ。
 では一体、差別とはどこまでのことをいうのだろうか?
 そのことは、後述に回すとして、奴隷たちの中で、ほぼ共通して信じられている神は、
「奴隷の神」
 というものである。
 言葉からしても、どんな神なのか、まったく分からないという感じであるが、実際にも、その内容は曖昧だった。
 皆同じ神を信じているはずなのに、その信仰心は皆違っている。
「皆、自分に合わせた形で、奴隷の神を自分の中で作り上げているのかも知れない」
 と、派遣委員は感じた。
「ほぼ、当たっているんだろうが、何かが違う」
 と思ったが、その何かとは、
「自分に合わせた形を作り上げたのは、本人ではない。何か見えない力が働いて、そう感じるようになったのだ。それこそが、皆が信仰している奴隷の神と言われるものなんじゃないのかな?」
 と一人の派遣委員がいうと、
「確かに、それは私も感じます」
 と、もう一人の派遣委員も言った。
 きっと話をしてみれば、近しい発想になるのだろうが、ここの宗教の在り方は、個々に感じている感覚が正しいという発想が、そのまま宗教としての考えに繋がっているのかも知れない。
「ただ、その中で、ほとんど皆共通している神様もいくつはあった。そのうち一番最初に気づいたのは、君は何だったかい?」
 と、派遣団の団長に聞かれて、
「そうですね、気づいたというよりも、あれって感じたのがありました」
 と委員の一人がいうと、
「そうだろうな、違和感のようなものがあったということだろうな。私もそうだったんだよ。確かに、あれって感じだったんだが、一種の矛盾とでもいえばいいのか、正直、ここの奴隷と呼ばれる人たちの気持ちが分からなくなったんだよ」
 と団長は言った。
「ええ、その通りなんです、他で奴隷などという言葉を使うと、差別用語として非難されるはずなんですよね、でも、ここの人たちは自分たちが奴隷であるということを自覚していて、それを悪いことのようには思っていないんですよ」
 というと、
「そうなんだよな。過去にあった奴隷のような、権利も何もなく、生殺与奪の権利さえも、奪われているという状態だったのに、ここは、少なくとも命と、最低限の権利の保障はあるからね。それに我々国連政府が介入しているというのも、彼らにとっては、いい後ろ盾だと思っているのかも知れないな」
 と団長がいうと、
「いや、でも彼らは、我々のことを決して救いの神のようには思っていないようですよ。彼らにとっては、自分たちの土地に入ってくる人たちは、少なからずの敵に見えるんじゃないでしょうかね?」
 というと、
「それはいえるかも知れない。我々が侵略者なんじゃないかって、たまに思うことがあるくらいだよ。なんで、そこまで思われて、我々が統治してやらなきゃいけないんだってね」
 と、やれやれという感じで団長は言った。
「やつらは、自分たちが奴隷であり、奴隷であることに誇りすら覚えているような気もするんですよ。そこに違和感があった私は、少し彼らに聞いてみたんです」
「ほう、それで?」
 と、団長は興味を示した。
「やつらは、救世主が現れるのを待っているような感じでした。それは突然にやってくるもののようで、それを神だと彼らはいうんです。つまり、奴隷の神だとですね。だから、奴隷という言葉に彼らは嫌気を指していないんです。むしろ、自分たちは奴隷であり、奴隷としてのプライドを持っていれば、救世主である奴隷の神が降臨されて、我々の新しい世界を作ってくれるという感じのですね」
 という話を聞くと、
「おいおい、それこそ宗教じゃないか? だけど、それをそのまま明文化して、彼らの世界に浸透させていいのか? これは少し問題だぞ」
 と団長は言った。
「ええ、そのまま使うのは危険です。洗脳することになりますからね。ただ、今は彼らには教祖がいない。教祖になる代表者が生まれると、完全に宗教団体と化してしまうでしょうね。そうなると、いくら国連といえども、抑えるのは難しい。彼らは国と言っても、我々が統治する地域なわけなので、こちらから攻撃することもできない。しかも、相手は奴隷というベールをかぶっているので、攻撃すれば、我々が奴隷弾圧をしたとして、世界から大きな避難を浴びることは間違いないでしょう。そんなことになれば、下手をすれば、それぞれの体制に他の国家が結びついて。大規模あ戦争になってしまう。もう、そんな戦争はコリゴリじゃないですか。下手をすれば、世界の滅亡ということになりかねない。それだけは避けなければいけないと思うんですよ」
 と団員がいうと、
「それは当然のことだ。まさかとは思うが、奴隷の連中は、そこまで計算に入れて、我々を受け入れたんじゃないだろうな?」
 と団長が聞くと、
「それはないと思います。ただ、彼らは冷静で頭がいい。それだけに、したたかな部分があります。そうなると、我々だけでは手に負えなくなるでしょうね。それがやつらの狙いかも知れない。そういう意味では、彼らを怒らせないようにしないといけないと思っていますよ」
 と、団員は言った。
「なるほど、そういうことだな?」
 と言って団長は、少し考え込んでいた。
「とにかく、彼らをなるべく怒らせないようにしながら、それでいて、主導権だけはこっちで握れるようにしておかないといけないと思います」
 と団員がいうと、
「どうしてなんだ?」
 と聞かれた。
作品名:奴隷世界の神々 作家名:森本晃次