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奴隷世界の神々

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「それはありましたね。元々は、この国は、二つの宗教団体が国家を形成した形になっているので、今でも、その二つの宗派は、一般市民の方では信仰されているようです。ただ、奴隷国家の方では、彼らには宗教を信仰しようという意識が薄れていったようですね。それはそうでしょう。どうして自分たちだけが、奴隷とならなければいけないのかという思いが奥底にはあるでしょうからね」
 という。
「じゃあ、信仰する気が今はないだけということなんだろうかな?」
 と議長がいうと、
「そうだと思います。何かきっかけがあれば、元々信仰心の厚い民族ですからね」
 という。
「じゃあ、こちらで、彼らの意見を組んで、法律とまではいかないが、法典のようなものを作ってやればいいんじゃないかな? そうすれば、そもそも、彼らは奴隷としては自由な立場なのだから、変な気を起こすこともないと思うのだが」
 と、いう議長に、
「それはそうでしょうね。でも、押し付けになると、宗教としての意味がなくなってしまいますからね」
 というのだった。
 どういう草案にするかというのは、実際に、国連の政府から派遣された委員が、半年ほど見てから考えるということになった。
 派遣される人員は、数十人で、それぞれの奴隷たちの生活を垣間見るのが仕事だった。
 相手は自分たちを統治している政府なので、嫌だという権利はない。ある程度の人権は認められているといっても、実際の、奴隷国家というものは、国連にとっては、
「占領地」
 であることに変わりはない。
 統治するというのを、国連本体から委任された、国連内にある組織による、
「委任統治」
 という形であるがら、占領されているというのが、一番適切な状況であろう。
 奴隷国家の立場と、そのまわりの一般国家との関係を考え、奴隷国家の中に政府を置かなかっただけで、
「遠隔統治」
 という、今までにない形の状態となっていたのだ。
 そもそも、この国家に、
「宗教団体としての体制を作ろう」
 と言い出したのも、この遠隔統治というものをなるべくなくし、国内に、政府を代理するような機関を持たせたいというのが目的だった。
 形は、宗教団体の組織というkとにしておいて、実際には、政府の代理とでもいう形を作りたかったというのが、政府の本音だった。
 そこでは、
「宗教団体という建前であれば、相手も元々は宗教国家なので、反対はできないだろう」
 というのが、目的だった。
 それが正解だったようで、一般国が反対することはしなかった。
 だが、最初に、
「わが国家が侵略される可能性がある」
 と言い出した人がいることで、話が少しややこしくなった。
「お涙程度しかない人権が、本当になくなってしまうと、俺たちは古来からの奴隷として、命すら奪われなけなくなってしまうと、もうどうしようもない」
 というのであった。
 そのために、国連政府では、
「国家が宗教の骨幹を作成する」
 という方法を取った。
 元々、信じられていた宗教を勉強し、それに基づいたものを、経典として、形にしようというものである。
 その中には、戒律であったりもあるが、これ以上、自由を脅かすことはしないという意味での戒律であり、決して彼らを苦しめるものであってはいけなかった。
 派遣委員が、彼らの中に入り、研究、勉強をする。それを国連政府に持ち帰って、明文化するというやり方を行った。
 まず、この宗教の特徴は、一人の神が存在するということだった。
 その神は、
「今は天界におられるが、いずれ降臨され、自分たちを最大の危機から救ってくれる」
 というものであった。
 そして、彼らの危機というのは、
「自分たちの自由が脅かされ、命の保証もない世界」
 であった。
 そういう意味で、口には出さないが、皆今の時代に危機感を持っていた。だが、
「いずれ降臨される神が助けてくれる」
 という願いを元に、ひそかに皆心の中で祈っていたのだ。
 なぜなら、この国の支配層の連中は、基本的には、奴隷たちの自由に立ち入ってはいけないことになっているが、睨みは利かせていて、しかも、自分たちが信じる方の宗教とは違う宗派を信仰している奴隷たちを、明らかに見下しているのが、よく分かるからだった。
 あくまでも、
「表から見た目」
 であって、
 曲がりなりにも、
「土地の支配者と搾取される関係」
 というのは、支配という意味で、圧倒的な力を持っている。
 しかし、支配階級であっても、奴隷の権利や命は保証しないといけないという法律が、一般法として、支配階級の国家にはあったのだ。
 それが、憲法に明記されているので、守らなければならない。
 もちろん、破れば刑法でも、民法でも罰せられる。
 破ってしまえば、懲役刑、慰謝料の支払い。さらには、この国で生きていくうえで、憲法違反者というレッテルを貼られて生きていかなければならない。
「もう、人生は終わりだ」
 と言わんばかりのものに違いないだろう。
 だから、搾取される側の人権は保障されているも同然なのだ。
 言葉は奴隷などという言葉を使っているが、
「奴隷らしくない奴隷」
 ということで、違和感はあったかも知れないが、奴隷側も別に反対派しなかった。
 搾取する側がなぜここまで厳しい法律になっているのかというと、
「歴史上、過去の制度に立ち戻ろうとした場合、まず成功した例はない」
 ということで、
「決して過去に戻ることを許さない」
 という考えの表れなのだろう。
 そして、奴隷国側が、奴隷という言葉を嫌がらなかった理由は、
「我らが神が、降臨なされる時は、我々が奴隷として、支配階級から搾取させるその時だけだ」
 ということが伝わっていたので、それが、今だということになったのだろう、
 そのことを、初めて派遣委員は知った。彼らとしても、
「なぜ、彼らが奴隷という言葉に難色を示さず。それどころか快く受け入れたのか、疑問で仕方がなかった」
 と思っていたのだ。
「しかし、そういう理由だったら、分からなくもないな」
 ということで、納得するのだった。
 そういう意味で、彼らは派遣委員が自分たちの宗教を勉強しにきたのは、嫌ではなかった。自分たちのことを知ってほしいという願望も手伝ってか、彼らは、派遣委員を快く受け入れてくれたのだ。それだけに、開放的になった奴隷たちの様子も、
「彼らだって、普通の人間なんだ」
 と、今さらながらに感じるのだった。

                 我慢の神

 彼らが信仰している神は、全能の神が一人、そして、複数の、それぞれ受け持ちを持った神々が存在した。
 この宗教を信仰しているといっても、宗教団体があるわけでもなく、教祖がいるわけでもない。
 一人の万能の神が、世界を作り、そして、その神のまわりには、それぞれ兵隊ともいえるような神が控えていて、彼らが、全能の神の命令で、信仰している人たちに対して、その効力を与えると考えられていた。
 だから、基本的な信仰思想は、神話のような形で、数冊本が残っている。しかし、それらはそれぞれに独立していて、完全なものというわけではない。
 どちらかというと、
「皆が勝手に信仰しているだけだ」
作品名:奴隷世界の神々 作家名:森本晃次