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奴隷世界の神々

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「日英同盟」
 を締結できたことは、
「ロシアの南下政策への対抗」
 という、共通の課題があったことでもあったが、外交努力のたまものであることに間違いはなかった。
 当時の日本は、それほど、真剣に、
「皇国の荒廃」
 を考えていて、何とか、負けることなく、日露戦争を乗り切ることができたのだ。
 そのことを、満州事変からの歴史において、
「忘れてしまったのではないか?」
 と思えるような状態になってしまった。
 それを思うと、
「皇国の滅亡は、国民を欺き、命を軽視し始めた時から、始まっていた」
 と言ってもいいのではないか?
 大東亜戦争半年後のタイミングで和平に走らなかったのは、勝利に奢ったというよりも、「犠牲と言うマイナスを考えなくなってしまった」
 というのが、大きな問題なのではないだろうか?
 結局、大東亜戦争を含む、第二次世界大戦は、一次大戦と同じで、
「大量虐殺による消耗戦」
 という様相を呈してきた。
 その消耗というのは、武器、弾薬だけではない。人間という、暖かい血が流れているものも、消耗されることになったのだ。
 消耗戦という意識しかないから、醸造部には、人間というのが、捨て駒にしか見えていない。
 大東亜戦争における敗北にはいろいろな理由があるだろう。そのうちの一つ、しかも、大きなものとして、
「経験豊富なベテラン兵士の死」
 というものがあるだろう。
 その代表例が、
「ミッドウェイ海戦」
 と言ってもいいだろう。
 ミッドウェイ海戦というと、史上初の空母による機動部隊同士の大規模な戦いだといってもいいだろう。この戦闘における敗戦にも、いろいろ理由があるが、まずは、
「無線の傍受と、暗号解読能力の差」
 と言ってもいいだろう。
 米軍はすでに暗号を解読していて、日本軍の動きを察知していた。それによって、作戦も決まっていたのだが、日本側は、油断もあったのか、
「ミッドウェイ島の攻略」
 と、
「米空母機動部隊の殲滅」
 という。両方向の作戦がとられた。
 それにより、最初はミッドウェイ島の第二次攻撃と、空母発見という状況に浮足立ってしまい、空母の甲板上で、兵装転換という初歩的なミスを犯した。
 攻撃用の爆弾から、空母攻撃用の魚雷に兵装転換するのだから、どんなに急いでも、かなりの時間がかかるだろう。その間に、敵空母から出撃した戦闘機から狙われることになる。
 しかも、本来であれば、甲板からすぐに出撃しないと、上空には、ミッドウェイ攻略に向かっていた第一波攻撃隊が、帰還してきていたのだ。早く収容しないと、燃料が尽きて、海に落ちてしまう。
 そんな状況の中で、兵装転換していたのだから、敵に見つかれば、ひとたまりもない。
 鉄器の急降下爆撃機が襲い掛かる。甲板には、魚雷に付け替ている最中の戦闘機がひしめいている。甲板に爆弾を落とせば、一気に誘爆するというものだ。
 甲板の下では、爆弾が並んでいる。そちらも誘爆を起こせば、あとは沈むことしか残っていないであろう。
 出撃することもできず、熟練パイロットは、空母と運命をお共にする。さらに、攻撃から引き揚げてきて、上空で待機している戦闘機も燃料が尽きて、墜落するだけになってしまった。
 これもベテランの熟練パイロットであろう。
 この戦いで、日本軍は、所属の空母六隻のうち、四隻が撃沈され、多くの戦闘機と、ベテランパイロットを失った。
 この時の一番の痛手は、空母や戦闘機ではない。
「ベテランの熟練パイロット」
 だったのだ。
 空母や戦闘機は、また作ればいいが、熟練のパイロットを育てることは、そうもいかない。
 訓練に訓練を重ねて、実戦経験を積んで、ここまで来ていた人たちが、一瞬にして海の藻屑と消えていくのだ。
 それを考えると兵装転換がどれほどのミスだったのか分かるというもの。あの時、上空に控えている攻撃機の収納を考えれば、爆弾装備で空母に向かっても、爆弾を落とすことで、甲板に損傷を与え、戦闘機が活動不能にくらいはなっていたはずである。
 こちらの被害とを比較すれば、すぐに分かりそうなことを、海軍首脳が分からなかったというのは、それだけ、開戦初戦からの立て続けの勝利が、おごりとなって、彼らの思考回路をマヒさせてしまったのかも知れない。
 それが、大東亜戦争の真実だった。そんなことが分からない首脳がいたのでは、すでに戦争に勝利するという妄想にとりつかれたとしても、仕方のないことかも知れない。
 その情報操作のために、死んだことにされて、無人島で、ひそかに監禁されていた、
「ミッドウェイの生き残り」
 がいたということが、この戦争での象徴と言ってもいいかも知れない。
 命を軽視した結果、最後には軍人だけでなく、民間人まで、空爆の被害に遭い、国土は荒廃、すでに、国家としての機能を失いかけていて、組織的な戦闘もできなくなっていた軍部に勝ち目はなく、やっとここで和平交渉を考え始める。
 そんな状態で和平交渉などできるはずがない。結果、日本を狙っているソ連に、仲介を頼むなどという、本末転倒で、滑稽なことになってしまうのだった。
 結果、滅亡への階段としての、原爆投下、そして決定的なこととして、仲介を頼んでいたソ連が、満州になだれ込んできたということになり、戦争は一気に終結へと向かったのだ。
 まさか、ソ連が、アメリカと密約をしていたなどと思ってもいないだろう。そして、まだドイツも降伏してもいない状態で、戦後の青写真を計画しているなど、夢にも思っていないはずだろう。
 それだけ連合国には余裕があったのか、それとも、一次大戦での失敗に、よほど反省があるのか。
 どちらにしても、日本の運命は風前の灯だったのだ。
 そんな大日本帝国の興亡が、団長には、頭の中から離れないようだった。
「性欲の神」
 と聞いて、考えることが、大日本帝国のことだというのは、他の人たちからは想像もできないことであろう・
「性欲の神か、崇めたい気持ちも分からなくもないな」
 と言って、団長は目を瞑って、考え込んでいた。
 これまで、全能の神の話、奴隷の神の話、差別の神の話といろいろしてきたが、ここまで性欲の神に対して団長が考えてしまうということを、団員たちは想像もしていなかったに違いない。
「性欲の神については、私も分かる気がします。確かに奴隷の数は、少ないよりも多い方がいい。しかし、それは、支配する側が考えることであって。支配される側が考えるというのはおかしいんじゃないでしょうかね? 奴隷たちは、人間としてのプライドというものがないんでしょうか?」
 と団員がいうと、
「その逆じゃないのかな? 彼らは人間としてのプライドというよりも、奴隷としてのプライドがあるから、奴隷であっても、種の保存を行い、数多くの始祖を残すということも、彼らが生きているうえでの義務のように感じているのかも知れない」
 というのだった。
「どういうことですか?」
作品名:奴隷世界の神々 作家名:森本晃次