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予知能力としての螺旋階段

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 やはり自分が気に入った本を、見つけにくいように感じるからなのか、一人の作家の本が少なすぎて、本当にお気に入りの作家になるかどうかも怪しい感じがするからではないだろうか?
 そんなことを考えていると、特にSF小説というのが、あまり最近では、ちひろの好きなものがないのは、懸念するところであった。
 SFというよりも、ファンタジー、しかも、異世界モノが多くなっているのは、憂慮に堪えないと思っている。
 異世界ファンタジーというと、どうしても、ゲームとの連動を思わせる。しかも、アニメとなって、テレビなどで放送していたりもする。
 小説が原作となって、それがアニメ化し、テレビになっているというのもあるかも知れない。
 ただ逆にテレビドラマの実写モノは、最近ではそのほとんどはマンガが原作であり、小説が原作のドラマや映画はほとんどなりを潜めたといってもいいかも知れない。
「確かに、マンガという文化は日本独特のものがあり、日本の代表する文化の一つなのだ」
 と言っている人もいるが、ちひろにはそうは思えない。
 マンガというと、どうしても、絵に目を奪われてしまい、元来小説の醍醐味である、
「想像力や、妄想」
 というものが羽ばたく余地がなくなっているのではないかと思えるのだった。
 想像や妄想ができないと、いくらマンガで著しているとしても、それは膨らみや伸びしろというものがまったくない、いわゆる、
「遊び部分」
 ともいえる、ニュートラルな部分がないことで、イメージが凝り固まってしまうのではないだろうか。
 特に父親も話していたが、
「小説を読んでいて、自分の知らない時代だったり、世界を妄想することが、小説を読む醍醐味だ」
 と言っていたその言葉に、ちひろは感心していた。
「その通りよね。マンガなどは、確かにビジュアルに訴えることで、読者が余計な想像をしないという意味で、作者本意のものとなっているので、それが読者による作品を妄想という形で大きくすることができないんだわ。それが結局、作品の幅を小さくしているということに気づかないのかしら?」
 と思っていた。
 確かにマンガでも、リアルな描写ではなく、想像力を与えるようなものはあるが、どうしてもマンガのジャンルによって、皆同じ顔に見えてくるのは、どうしてだろう?
 マンガこそ、オリジナリティが失われていく最初の牙城だったのかも知れないと感じるのだった。
 そんな本屋で、その時見つけたSF小説が、気になるないようだった。本のタイトルは、
「五分前の女」
 という話だった。
 作家の名前は聞いたことがなかった。それも同然といえば当然、その作品がデビュー作であり、ある有名出版社の新人賞受賞の作品で、これから、有望という作家だったのだ。
 本棚の前のひな壇になっているところに、本が山積みにされている中の一冊で、帯には、新人賞受賞と書かれていた。
 アイドルグループの中でも読書家として知られる女の子が、レビューのようなものをしているようだが、そんなことは関係なく、気になったので読んでみることにした。
 二百ページほどの作品で、それほど長くないこともあって、ちひろは一気に読んだので、二日で読み終えることができた。
 今まで読みやすい小説でも、二日で読み終わるなどということはあまりなく、時間を感じずに読めたのは、それだけ小説に嵌りこんで読んだからだろう。
 小説の内容は、SFでありがなが、恋愛小説の様相を呈していた。しかも、その内容は純愛ではなく、ドロドロとした愛欲系のもので、不倫や異常性癖をテーマにしたものであるだけに、性描写は結構濃厚なものだった。
 そういう意味では、少し読みながら、想像を絶するところがあり、
「本を読むのに、こんなに疲れを感じたのはなかった」
 と思ったほどだった。
 その疲れを感じた部分は、小説の内容ではなく。そのところどころでのシチュエーションであった。
 愛欲にまみれた話なので、想像を絶する場面を妄想することすらできなかったのだ。
 だが、内容的にはどんどん引き込まれていき、最初はあれだけ、
「五分前の女というのは、どういうことなのか?」
 と考えていたのに、何かはぐらかされた気がした。
「五分前の女」
 という発想には、ちひろ自体が感じている思い込みがあり、実際にその内容を思い出してみると、
「なるほど」
 と思える部分も多々あったのも事実だった。
 五分前の女というと、自分の前にいつも現れる女で、その女は、実は自分、あるいは自分ソックリな人間だという。主人公には彼氏がいて、彼氏の部屋にいくと、彼は優しく迎えてくれるのだが、最初は驚いた顔をしていたのだが、その理由について、彼は何も言わなかった。
「聞いてはいけないことだ」
 と主人公は感じたので。聞いてみなかったが、あまりにも毎度のことなので、さすがに聞かないわけにはいかなかった。
「あなたは、どうしてそんな怪訝な顔をするの?」
 と聞くと、彼はさらに表情を歪ませて、
「何を言ってるんだ。君だって、何で、何度もそんなに帰ってくるんだい? 俺が止めても君はいつも出ていくくせに」
 というではないか。
「何言ってるの。今来たのが最初なのに。あなたは、その人を抱けなかったことを私のせいにでもして、そのムラムラを晴らそうとでもいうの?」
 というと、さすがに彼も怒って、
「俺が、時間を作っているのに、君はそそくさと帰っていくじゃないか。そして、性懲りもなく、また同じものを持ってくる」
 と言って、彼がワインの瓶を主人公に見せると、まったく同じものをその女、主人公にしか見えないと彼はいうが、その女の持ってきたワインと、今主人公が持ってきたワインを並べると、まったく違うものは何もなかった。
「だけど、ワインの年代は微妙に違うんだよね。五分前の君は、五年前のワインで、今の君は七年前のワインなんだ。どうして違うのか分からないんだけど、酷似しているのは表面だけで、本質的なところでは完全に別人なのかも知れないと思わせているだけなのかも知れない」
 と、彼は言った。
「そこが分からないの。あなたは、その人を最初に見た時、私じゃないと気づかなかったの?」
 と聞くと、
「俺は今も分かってはいないさ。それぞれに俺を納得させてほしいものだ」
 というのだった。
 この男は、何事お相手に任せるタイプだった。他の男性のように相手に変な気は使わない。それが、彼女を却って気楽にさせたことと、それが他の男性にはない彼の魅力だと思ったことで付き合い始めたのだが、まさかこんなことで、彼の欠点が見えてくるなど、彼女にとっては盲点だった。
 それだけ彼は冷静で、何を考えているのか分からなかった。何事も客観的で、悪いのは自分ではないというオーラが醸し出されているのだった。
 そんな時、彼の様子が急におかしくなった。それまでに見せたことのない雰囲気を出してきたのだ。
「どうしたの?」
 と聞くと、
「いや、君こそどうしたんだ? またもう一度戻ってくるなんて」
 と言われて、何を言っているのか分からずに、
「私は今日初めてきたんじゃない?」
 というと、彼はすぐに冷静さを取り戻して、
「そっか。それならいいんだ」