果てがない河
小さく爆ぜる音がする。
節、それはきっと、木の節が焼ける音。
風が運んだ砂粒が私の頬を撫でる。
ざらりとしたその感覚で、ふと目が覚めた。
橙の明かりが揺らめいて私の瞳に飛び込んできた。
腕を支えに体を起こす。
「起きなすったかね」
ふと闇の中から声がした。振り向くと、闇の中に男が腰掛けていた。
男というか、声の感じはもっと老け込んでいる。
老人のそれといった感じだろうか。
よれよれの汚れた毛布のようなものを頭から被り、体を覆っている。
何気なく目を向ければ、私の体もその包布で覆われていた。
老人の声音は優しげで、穏やかだった。
私はその声音に思いを馳せる。
揺らめく現実感の中で、私はぶるりと身を震わせた。
「服装から、外つ国の方とお見受けした。だがそれにしても此処を渡るには軽装が過ぎる。馬もなければ荷すらない。追い剥ぎにでも遭われたか?」
老人はそう尋ねてきた。
その声音が、思いやりが、あまりに自然だったので、
私は、
唐突にこれが、
『夢ではない』と、完全に理解した。
――何か尋ねなければならない。
私はそう思ったのだけれど、言葉が形を結ばない。
何しろあまりに唐突で、意味がわからず、この『新しい現実』が――受け入れるには果てしなくとりとめがない。
薄く口を開けてはまた閉じることを繰り返していると、老人は何かに気がついたかのように目を丸くして、それから一度ゆっくりと、でも力強くうなずいた。
「言葉が喋れないならそれでもいい。理由は聞くまい。だが、よければ私についておいで。でないと此処で野垂れ死ぬしかない。
今夜はもうお休み。明日、砂に文字を書いて話をしよう。」
老人はそう言うと、私に背を向けてごろりと横になった。