小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

果てがない河

INDEX|5ページ/22ページ|

次のページ前のページ
 

王国編3 『風に混じる唄』



 『明晰夢』という言葉を聞いたことがある。
 夢の中で、「ああ、これは夢だ」と自覚できる夢のことだったと思う。
 『そういうものなのかな』と一瞬思ったが、同時に『違う』と心が囁いた。
 何が違うんだろうと思ったとき、風が肌を撫でるのを感じた。
 乾いた、水気の全くない、ひりつくような風だ。
 それでああ、と私は気がついた。
 明晰夢を今まで見たことがないわけじゃない。
 でも、これは確かに違う。
 肌の感覚がある。
 私の肌の感覚が、ある。
 夢は所詮夢なので、今まで肌の感覚だけは再現できなかった。
 『こころ』の対極にあるのが『肌の感覚』なのだと私は唐突に理解した。
 それは『深く内側で思うこと』と、『直接外界に触れるモノ』の対比だ。
 砂漠の風はひゅうひゅうと、強く、弱く、だけど絶えなく私の肌をなで続けた。

 でも、だとすると、

 そう思う私の耳に、ふと遠い調べが響いた。
 風の向こうから、鈴の音が聞こえる。
 ちりんちりんと細く小さく、しかしはっきりとそれは鈴の音であると分かるだけの、小さな金の響きをしていた。
 それに乗せてしわがれた男の歌声が聞こえる。
 その声の響きは、不思議だった。
 不思議としか言い様がなかった。
 私は日本で生まれて日本で育った。
 英語の成績だって人並みでそれを過ぎない。
 なのに、この響きは明らかに私が聞いてきたあらゆる言葉のそれとは違う。

 なのに、なのになぜ、

『・・・征くなら歩め、
 歩まば進め、
 進まば征けよ、
    征け征けよ』

 単調に韻を踏む、
 この言葉が伝えたいことを私はなぜ、理解しているのか?

 何 なの、これは。

 ふと目の前の視界がぐにゃりとひしゃげた。
 吐き気を覚えて私は口元を押さえた。
 だけど、うへえと出たものは荒い吐息だけだった。
 しかし、その吐息に合わせて、

 紡がれていた単調な言葉は不意に、途切れて消えた。

作品名:果てがない河 作家名:匿川 名