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果てがない河

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空賊編1 『空賊ジャヴァ-・アドラー』




 大地は俺を縛ろうとするが、逃れようともがくのは、俺の大地に対する翻った愛だ。
 地平線を目指すとき、天地が反って空に爪先を向けるとき、プロペラの轟音が旋回のタイミングで鼓膜に突き刺さるとき、俺は生を実感し、愛を確かめる。
 俺を引きつけようとするのは、つまるところ俺を離したくないからなんだろう?
 そう、つまりは片時も。

 グラスを傾けて緩い麦酒をもう一口あおる。
 緩い酒を飲むのは痺れるような酔いが欲しいわけじゃないからだ。
 アルコールは気分を静めてくれる。
 全ては精神の遠望と肉体のリラックスのためだ。
 酔い潰れるようなことは出来ないし、したくもない。
 そんなことになったなら、俺は空へ繋ぐ桿を失ってしまう。

 飛べない鳥は死ぬべきだ。

 俺はそして、いつだって自分が鳥であるという自覚を失わない。
 16の時以来ずっとだ。
 毎日の愛機の手入れは欠かしたことが無い。
 飛ぶことしか能が無い俺は、必然この仕事を選ぶこととなった。
 運ぶこと、奪うこと、狙うこと。

 大地の愛は俺を縛り求めるが、空の愛はいつだって俺をふらり果てのない青へと向かわせる。
 大地。
 生まれたのがそこなら還るのもそこだ。
 でも求める鮮やかさは、ひとときの浮気のようなものなのかも知れない。
 もしかしたら、気づきの時まで『向かい』に応えられないのが愛なのかもな。

 ああ、と口元に微笑みが浮かぶのが堪えられない。
 俺は束の間神に――いや、悪魔に感謝した。

 この世界に、

『空賊』という仕事がある世界に俺を立たせてくれたことに、と。


作品名:果てがない河 作家名:匿川 名