果てがない河
王国編8 『壁の向こう』
その果てしなくとすら見える壁に対して、老人は迷うことなくひとつの方角へと歩みを続けた。
漠然とした不安を抱きつつ私がそれにならっていると、やがて壁の中に異質なモノがあることに気がついた。
そこは石でも岩でもなく、しっかりとした板で設けられた、観音開きの戸であるというのが徐々に分かった。
しかし何しろスケール感がおかしくなっていて、私はそこに近づくまでそれがどんな大きさであるのかてんで見当が付かなかった。
昔読んだ『不思議の国のアリス』で、主人公のアリスが大きくなったり小さくなったりした時にも――こんな違和感を感じたのだろうか?
漠然と私が思うのはそんなことだった。
やがて少しずつ、しかし確実に近づいてきた扉は、目の前にすると想像よりもはるかに大きく、私の身長などを軽く凌駕して、見上げれば高く、町を囲むのであろうその壁とともに威圧的な雰囲気を私に押しつけた。
「証(あかし)を拝見」
――なので、私はぼんやりしすぎていたから突然かけられた声に驚き、軽く飛び上がった。
慌ててその方向を見ると褪せた金色(かねいろ)をしたヘルメットをかぶり、そのくせ痩せっぽちな腕をした、ひょろりとした兵隊が私に手のひらを伸ばしていた。
――証、あかしって。
通行手形みたいなモノなんだろうか?
でも私には何のことだかも分からないし、そもそも持っているはずもない。
困惑する私の前に、すっと老人が割って入った。
「証、証だね」
そして老人はその兵隊の手のひらに何かを握らせて、自分の手のひらで包み込むようにそれを結び込んだ。
兵隊は握り込んだ自分の手の中をかすかに開き、のぞき込んで、にんまりと笑った。
「さあ、早く入んな」
そしてそう言うと、さっさとした手振りで扉の前へと私たちを導いた。
兵隊はぐいと顎を上げてどこかへ合図する。
すると、その大きな扉がずずずと揺れて、奥の方に向けて砂を分けながら開いていった。
老人はその中へと歩みを進めたので、私もそれに続いた。
そして、そこに拓ひらけた眺めとは――