果てがない河
王国編7 『謁見』
謁見の間には、かつて無い異様な空気が漂っていた。
玉座に構えるは当然に王。
そして脇に姫が立つ。それを扇状に広がり控えるのは選ばれし護りの武士と侍女らである。
それならば、かつてと何ら変わりの無い光景といえる。
しかしそれは王が絶対であり、場を従える存在であればこそであって、間を占める圧倒的な『他者』は、その数で以て其処そこを従えるがそちらであるのかを言葉もなく示していた。
つまりここは王の謁見の間であると同時に、『異質な他者』が間の空気をほぼ占めるという、ある種屈辱的な気配が濃密に場を抑えていた。
無力感をおぼえ、ふとすると開く眼まなこが遠くに焦点を結びがちになる。
姫はそんなうつらとする自分を内心で時に叱咤し、出来るだけ毅然とするべく両足に力を込めた。
なのに、その気概には『穴』がある。
『穴』は姫の気骨からしゅうしゅうと際限なく誇りを奪い去ろうとする。
しかしてその『穴』とは――
――他でもない、玉座に座る父王の無気力がこそだ。
「よくぞ見えられた」
相手を敬う言葉が、王の口から紡がれる。
玉座に座してなお、『対面する者』へと敬意を放つのは、その『下に座す者』へ謙ることを意味しはしまいか?
「なに、大した事ではない。
貴国の惨状は聞き及んでいる。なので、ここに――請われ参上した」
応じたたった三つの短文で国王の権威を蹂躙し尽くすような物言いは、姫と従者の間に等しく緞帳のような重い気分を垂れ下ろした。
そして跪く男は、姫の方を細い眼で睨め付けた。
線が細く、肌は肌理こそ細かいが、薄らと浅く黒い。
明らかに異国の者の顔立ちだ。
その様子を受け、王は細やかに笑った。
「最早心配は要らない。
貴方とこの国は大丈夫だ。
私がその姫を娶る以上、我らは姻族であり、貴方は我が新たな父となる。
ギ・マイ・ハールの唯一なる神の名にかけて、今後千年の繁栄をこそ保証しよう」
跪く男はそう言い、すくっと立ち上がった。
最早跪く必要など何処にも無い。
態度は雄弁にそう語っていた。
王は細やかに笑い続けた。
男の無体を全てを容認する様は、
この王国の変革と終焉を意味するかのようで、
姫はその見えざる怒濤に巻き込まれるのを感じ、
くたくたと潰れそうな両足に力を込めるのに、ひたすらに懸命だった。