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果てがない河

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 なので、俺は恭しく姫君の手を掬い上げ、半歩先を歩き始める。
 姫君は得意げにそれに従い、ずんずんと歩を進める。
 俺はといえば、数多の妙な視線を無いものとして判じ、自分に課せられた求めにこそ応じる。

 広大な庭の中で、
 しかし高い高い石垣に囲まれた城塞の中で、
 籠の鳥は俺にその手を預け、ちょこちょこと歩き、命じつつ従う。

「あの花がそうですよ、姫君」

 と俺は城塞の一角で咲く紫の花を示す。
 姫君のつながった手がぱっと離れ、じゃじゃ馬はその元へと駆ける。
 慌てた付き人がその跡を追う。
 
 ――必要なかろう――

 俺は渇いた心でそう呟く。
 何しろここは城塞の中なのだ。
 姫君が去り無くなることはありえはしまい。


作品名:果てがない河 作家名:匿川 名