果てがない河
王国編6 『私、街に至る』
やがて、私は自分が多分『街』に近づいている事を何となく感じ取った。
それはきっと『人とすれ違う事』が重なったからだと思う。
何もない大地をただ歩むだけ。
時々やすみを挟みながら、老人と私は歩くだけ。
聞こえるものは、時々空を舞う鳥の鳴き声と、老人が思い出した頃に口ずさむ、いつかも聞いた陽炎のような鼻歌だけ。
そんな中、あるとき人とすれ違った。
馬のようなロバのような動物にまたがった細身の男性(――だと思う。なにしろターバンのようなもので顔を覆っているし、身体も全身を布で覆っているのだ)とすれ違った事をきっかけに、次の日にはさらにひと組の男女(これは背の高さと体格でそう思った)が歩いてくるのとすれ違った。
誰かが道をやってくるのが分かると、その先に道があるのだなと私もどこかで意識していたのだと思う。
道――いや、そもそもそこが本当に『道』なのかも私には識れない。
なにしろ老人は地図はおろかコンパスのようなものすら目にする事もなく、でもただ一点の迷いもないようにひとつ方向を目指して歩むように感じられた。
だけどそれがやはり間違いではなかったと思えるのは、それもやはり誰かが『そこ』をやってきたからで、つまりそれは逆説的に向こうがどこかに通じていて、人がそこからやってくる事の証拠でもある。
だから、それが見えたときには私は一瞬自分の目を擦り、そこに映るものの姿を疑った。
多分それが浮かび上がったのは『自然の手品』のようなものだったのだろう。
舞い上がる砂埃に眼を細め、ずっと俯きがちになっていた事も遠望を妨げる要因であったに違いない。
さあっと急に澄んで開けた視界の向こうに、土色の壁が視えた。
その壁は何処までも横向きに長く、土色をして、高く、ビルならば3階建てくらいはあるような立派なもので。
それはまるで魔術のように、幻術のように唐突に浮かび上がったように感じられたので、私は束の間ぼうとその景色を眺めた。
壁は、青く何処までも広がる空を真横の一文字に大地と切り分けている。
「見えてきたな」
と老人が呟いた。
その声はどこか安堵の色を帯び、声音の尻に浅い溜息を含んでいた。