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果てがない河

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 道の端で伏す親子のうち、小さな子供が薄らと頭を上げた。
 果てなく続く行列が終わりに近づいた事を察したからである。
 子は輿を観たかった。
 その中に座るものがどのようなものなのか、畏れと同時に抗いがたい興味が胸の奥に暴れ狂っていたのである。

 ――斜に掛けられたカーテンの向こうに、足を組み座る細身の男。

 子が観たのはその姿だった。
 しかしその次の瞬間、脇で伏す父が子の頭を地に向けて押さえつけた。
 舞い上がった土埃が両の目を直撃し、涙が一気に噴き上がる。
 父の行動の意味は子にもよく分かった。
 無礼、非礼、失礼。
 それがこの列に察知されたなら、刀の一振りでその錆にされても全くおかしくは無い。
 彼らがそのような集団であるか否かは知れない。
 しかしそのような『おそれ』がある以上、父は列にそれを察知させるわけにはいかなかった。
 それも子を案ずる故であり、子もそれが分かるからこそ、目をひたすらに痛める土埃に喚かず、父の手の示すに倣った。
 父の手はすっと子の頭から除けられたが、子は伏したままだった。
 列が過ぎるまで、子は頭をそれ以上上げる事は二度となかった。

 しかし、子は観た。
 男は右手を口元に当て、束の間の事ではあった。

 だが、『くあ』と小さく、

 しかしさも退屈そうに、

 ――輿の中の男は涙を浮かべながら、眼を細め、あくびをしてみせていた。


作品名:果てがない河 作家名:匿川 名