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大団円の意味

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 最初は、ネットだけの声でよかったものが、
「声を聴きたい」
 ということで、電話で近づきになることができた。
 要するに、自分の願望が達成された瞬間だった。
 だが、一度その達成感に支配され、満足を覚えてしまうと、まだ先に何かがあり、
「ここで終わりではないんだ」
 と思うと、さらに、その先を追及してみようと思うのだ。
 そうすると、今度は、
「会ってみたい」
 と思うことだろう。
 お互いにそれくらいのことは、思っているとは思う。
 そうでもなければ、電話だって怖いはずだ。慎重に考えるひとであれば、
「一旦、タガが外れると、そこから先、歯止めが利かなくなるのが怖い」
 と思うに違いない。
 そんな電話をしていると、声は次第に甘えてくるのが分かってくる。そのうちに、どちらからともなく、
「会いたい」
 と言い出すことだろう。
 最初は、
「自分からはなるべく言いたくない」
 と思うことだろう。
 自分から言ってしまうと、自分が開いた扉に責任を取らなければいけなくなるし、さらに、相手に言わせた方が、興奮するという考えがあるからではないだろうか。
 遠山はそのことを分かっていたので、
「決して自分からいうことはない」
 と思っていた。
 しかし、相手は女性である。女性がそこまで思い切ったことをいうだろうか? しかも、相手は既婚者だ。それを口にするということが、自分を修羅の道に追い込むということを分かってのことであろう。
「まあ、会いたいというくらいであれば、そこまではないかも知れないが」
 と感じたが、一つタガが外れると、あとは歯止めが利かないのではないか? と思うのも無理もないことだろう。
 そんなことを考えていると、次第に気持ちが冷めかかっていることに気づいた。
「どうせ、相手は主婦なんだ。自分との会話から現実に引き戻されると、もう僕のことなんか頭にないほど忙しいのかも知れないな」
 と感じたのだ。
 そのうちに、あゆは忙しくなったのか、電話もそうだが、メッセンジャーにも来なくなった。
 メールでは、
「どうしたんだい? 忙しいのかな?」
 と聞いてみたが、一度だけ、
「ええ、少し忙しくなっちゃって」
 という返事が返ってきたが、次からは返事がなかった。
 そのうちに、遠山も返事をしなくなり、少し距離が遠ざかっていった。
 そんな状態になってくると、遠山は次第に不安が募ってくる。そしてその不安というものが、
「寂しさからきているものなのだろう」
 という思いのはずなのに、それが次第に疑問に感じてくるようになってきた。
「寂しさじゃなくて、自分が深みに嵌っていくことが怖いという感覚になってきているからではないか?」
 という思いが強くなってくると、
「このまま、自然消滅というのもありではないか?」
 と思うようになってきた。
 そんな時、相手から連絡があると、今度は、
「自然消滅でいいなんて、なんて愚かなことを考えてしまったのだろう」
 と、少しでも彼女に疑問や不安を感じたことが恥ずかしくなった。
「あゆは、リスクを押してまで、連絡をくれたというのに、何を俺が一人で怯えているんだ。男として恥ずかしくないか」
 と思うようになると、あゆに対して恥ずかしいという思いと、自分に対しての情けなさで、
「今後は決して、気持ちが揺らぐことがないように」
 と感じるようになるのだった。
 この思いは、自分がまだ女性を知らないということが負い目になっていたのもあるだろう。
 その思いがあるからこそ、
「こんな俺にでも、あゆは優しくしてくれる」
 と思い、相手がいくら年上だといっても、男として、しっかりしないといけないところはしっかりしようと思うのだった。
 自分よりも年上の女性が、こちらに対して、最初は、
「忙しい」
 と距離を遠ざけた。
 そして、こちらが諦めかけた時を見計らって、また連絡をくれた。これを運命だと思うのか、それとも、相手が百戦錬磨で、
「こうすれば、しょせん童貞なんだから、こっちのいいように操ることだってできるんだわ」
 と考えていたということを考えるかは、その時の心境にもよるだろうが、どこまで自分が開きな売れるかが問題である。
 その開き直りも、
「今であれば、以前の状態に戻れる」
 というものか、あるいは、運命を感じたことで、
「ここまで思ったのであれば、ここからは、もう引き返すことはできあい」
 という思いのどちらかではないだろうか。
 その時の遠山は、正直、後者だったような気がする。
「俺は、もう舵を切ってしまったのだから、あとは突き進むしかない」
 という意味での開き直りだった。
 だが、心のどこかで、
「いつでも前の状態に戻れないことはない」
 という一縷の望みのようなものを捨てていなかったのも事実であった。
 前の状態に戻れるだろうという思いが心のどこかにあれば、いくら開き直っているとはいえ、本当の覚悟ではないのだ。その思いを覚悟だと勘違いしてしまっていれば、先に見えるものは、いばらの道しかない。どこまで分かっているかは分かるはずもないところまでのめりこんでいたが、引き返そうという気持ちは毛頭なかったのだ。
 だからと言って、
「不倫をしよう」
 などとは思わなかった。
 最初は、
「一度の過ちでもいいから、このお姉さんに男にしてもらいたい」
 と真剣に考えていた。
 ただ、そう思ってしまうと、あゆに対して、身体だけが目的だったということを、自らが認めてしまうかのようで、それが嫌だったのだ。
 そんな時、あゆからの連絡は、
「ごめんなさい。連絡が遅れてしまって。でも、私はいつもあなたのことを考えていたのよ」
 というものであった。
 考えようによっては、彼女の言い訳に聞こえなくもない。最初は、不倫に繋がるかもしれないということを恐れて連絡を入れなかったのかも知れないが、我慢できなくなって連絡を入れてきたが、果たして、どういえばいいのかを迷っていたことだろう。
 あまり連絡がないことで、他の女性に目が移ったり、自分を諦めようという、あゆにとってのネガティブな発想を考えると、
「とにかく、謝る」
 という発想が頭にあった。
 ただ、謝るだけで許してもらえなかったり、気持ちが離れている人に対して、どうすればいいかとなると、相手にドキッと感じさせる言葉が必要になる。そして、それが同時に言い訳であれば、その気持ちが間違っていないということを示さなければいけない。
 そう思うと、このような言葉が自然と出てきた。
 それが、あゆという女の本性であり。そんなところに、遠山は無意識であっただろうが、惹かれたに違いないのだった。
 遠山はそれを見て、
「あゆの言い訳ではないか?」
 ということが頭をよぎったが、それ以上に、言葉に対しての興奮を抑えることができなくなってしまっていたのだった。
「うん、分かったよ。これからもよろしくね」
 と、いう、少し短めの文章になったのは、必要以上に書いて。こちらの気持ちを見透かされ、相手にマウントを取られるようなことはしたくなかったという思いが強かったのではないだろうか。
作品名:大団円の意味 作家名:森本晃次