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大団円の意味

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 そう思うと遠山は、それまでの離れていた時間が、何かによって埋められたという気持ちになった。
 まるでタイムマシンに乗って、その間の時間をワープしたかのような感覚である。
 そうなってくると遠山は、もう突き進むしかなくなってしまった。
 ただ、その気持ちこそ見透かされてはいけないことである。そう考えると、
「あの短い文章で、気持ちを曖昧にさせるしかない」
 のであった。
 だが、それが、今度はあゆを不安にさせる。
 あゆの方は一度節目に立ち止まって考えることができたが、この間に、遠山が何を考えていたのか分からない。
 別れるということを前提に頭が回っていたのか、それとも、彼もあゆのように、その時、自分の態度をどうしようかと同じようなことを考えていたのかが問題であった。
 もし後者だったとすると、
「彼も自分と同じことを考えていると思うと、それこそ運命なのだろうと思って。突っ走るしかない」
 と考えたことだろう。
 あゆは、年齢的にも上であるし、結婚経験もある。相手は学生で、しかも童貞だ。それを思うと、圧倒的に判断能力に長けているのは、あゆの方である。
 自分が主導権を握ることは難しいことではないが、その分、全責任は自分に引っかかってくる。
 もし、これが破局して、その状態を周りの人が周知だということになると、すべての責任は、あゆだということになる。
「童貞で、まだ学生の男の子を、主婦の欲求不満のはけ口として、誘惑した」
 ということになり、あゆは、四面楚歌に陥ることだろう。
 離婚は当然のこと、仕事も辞めなければいけない。再就職もまともにできないだろうし、何よりも、
「若い青年を誘惑した、淫売婦のような女」
 と言われても仕方がないように思えたのだ。
 そして、問題は、
「やめるとすれば、どこでやめるか?」
 ということである。
 お互いに傷つかないで済む段階は通り過ぎているような気がする。となると、どちらがどのように切り出すかが問題である。

             バーチャルリアリティ

 実際にあゆは、一度はあきらめようとした。しかし、それができずに、また彼に連絡を入れてしまった。
 彼の方としても、
「今なら、諦めがつくかも知れない」
 と感じたのだが、実際に諦めをつけるための覚悟を中途半端に感じ始めた時だっただけに、ある意味、
「最悪のタイミングだった」
 と言ってもいいだろう。
 つまりは、
「ここを超えれば、もう戻れなくなる」
 という一線を、覚悟を感じることもなく、通り超えてしまったのだ。
 これ以上の最悪なことはない。それを、あゆも、遠山も気づいてはいなかったのだ。
 その時、あゆと、遠山のどちらが先に気がつぃたのか分からないが、実際には、そのあたりの時、ほぼ同時くらいに、二人には将来が一瞬見えた気がした。
 その未来は、
「見てはいけないもの」
 だったようで、まるでおとぎ話の、
「見るなのタブー」
 を感じたのだ。
 その感じたことというのは、
「最悪の状態」
 であった。
 人は何かを目的に、達成するまでに、必ずどこかで一度は、
「最悪の状態」
 を一瞬であっても感じるものだという。
 もし、その最悪の状態を、もう一度感じることになるのであれば、
「もうそれ以上、深入りはしてはいけない」
 という警告に違いない。
 それを無視したり、考えないようにしようとすると、結果は、目に見えて明らかではないだろうか。
 それを、どうやら、あゆの方では感じていたようである。そして、今回の最悪を頭に思い浮かべた時、
「あと一回」
 と思わず口に出してしまったようだった。
 その時、あゆは、自分がうつ状態になっているのが分かったようだ。その心境があったので、遠山に限らず、誰とも連絡を取りたくなく、当然、夫に対しても、近づくのすら嫌だったのだ。
 夫の方も、
「妻が鬱状態になった」
 ということを自覚しているようだが、そんな時にどうしていいのか分からない。
 夫の性格として、
「何か、不安なことや、どうしようもないと思えば、自分から言ってくるに違いない」
 という思いがあったようだ。
 その思いは、
「相手を自由に考えさせている」
 という余裕を与えているつもりだが、ただ、逃げているだけだということに、本人は気づいていないのかも知れない。
「家族には優しくしてあげ、こちらが気を遣うことで、家庭を育んでいく」
 ということが正しい結婚生活だと思っていたので、悪い意味で、
「相手に対して委ねている」
 と言ってもいいかも知れない。
 そんな奥さんの状態を、少し離れたところから見ていた旦那は、完全に奥さんから逃げているようにしか思えない。
 それでも、逃げていることに気づかない旦那は、自分が優しいと思い込んでいる。そもそもそれがあるからぎこちなくなったのであって、あゆばかりが悪いわけではなく、むしろ、旦那の方に罪があるといえるだろう。
 不倫されたとしても、
「悪いのは旦那」
 ということになるのは無理もないことであろう。
 もちろん、遠山には、その旦那がどんな旦那なのかということを、ハッキリと分かるわけではない。あゆの愚痴として聞いているだけである。
 ただ、愚痴と言っても、あゆの主観ではあるが、正直に感じていることを、
「他の人にはとても言えない」
 と言って、遠山に聞かせてくれたのだ。
 遠山に、何かの助言をしてもらおうなどと、毛頭思っているわけもない。
 大学生で、しかも、まだ童貞という男の子に、真剣に夫婦間の話をしても、何も解決するわけもない。
 そんな状態を分かっているので、
「ただ、聞いてくれるだけでいい」
 という思いから、恥も外聞もないという思いから話をしているのだとすれば、あゆにとって、その愚痴は、本当に本音であり、その状況は事実に近いものだともいえるのではないだろうか。
 それを思うと、
「私にとって、よしひこという男性は、これからの自分の運命を本当に決める相手なのかも知れない」
 と感じていたのだ。
 だが、あゆは、そこまで真剣には考えていなかったのだろうか。
 一度は、離れようと思った相手。それだけに、自分の中で覚悟を決めたつもりだったのに、その覚悟は露と消え、それが、どのような心境に変わっていったのか、現実とバーチャルの境目が分からなくなったということで、
「旦那とは離婚することになるだろうな」
 とは思っていたのだ。
 その覚悟を少しでもしっかりと持続させるためには、誰か自分のことを見守ってくれる人が必要だった。
 それが遠山であり、覚悟を決めさせた相手として、自分の中の責任を、彼にとってもらいたいという気持ちもあったのだ。
「責任とは何だろうか?」
 と考えたが、
「離婚した後に結婚しよう」
 とまでは思わない。
 そこまで感じる相手ではないことは分かっているし、むしろ、今は結婚などは考えられず、結婚したことで、本来であれば、もっとできていたことをしたいと思うのであった。
「男は、旦那や、この男だけではない」
 と考えた。
 そう思うと、遠山に対しては、
「自分が自立するまでの、一時的な相手であり、責任を取ってもらうための、人質のようなものだ」
作品名:大団円の意味 作家名:森本晃次