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大団円の意味

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 しかも、遠山はまだ未成年だったので、その年齢は未経験だ。
「今から五年後の未来なんて、想像できない」
 と、自分が二十四歳になった時のことを想像もできなかった。
 それに、男女の違いだってある。今までに女性と付き合ったこともない遠山に、そんな気遣いができるわけもなかった。
「僕、今まで女の子と付き合ったことないんです」
 と、そのバーチャルの女に言った。
 彼女は、ハンドルネームを「あゆ」と言った。自分も相手に名前で呼ばれた時、ドキドキするだろうということで、ハンドルネームを「よしひこ」と告げていた。
 チャットをしている時から、お互いに意識をしていたような気がする。遠山にしても、彼女の「あゆ」というハンドルネームに憧れのようなものを持っていた。
 最初こそ、彼女が既婚者だと分かると、少し盛り上がりかけてきた気持ちが一度冷めてしまったが、途中からまた戻ってきた。
 だが、その思いがもう一度再燃してきたのは、メッセンジャーで話すようになってからのことだった。
 彼女が、
「ホームページを作りたいと思っているんだけど、なかなか難しくて」
 と言い出したことがきっかけだった。
「じゃあ、僕も作ろうと思っているので、自分のができたら、手伝ってあげよう」
 ということになった。
 それまで、ホームページ作成をしてはみたかったし、勉強もしたかったが、それ以上にチャットをする方がその時は面白かった。
 しかし、この時のあゆとの約束で、それまで中途半端な気持ちだったホームページ作成への意欲が湧いてきたのだ。
「ホームページ作成がこんなにも楽しいなんて」
 という思いと、
「想像以上に難しい」
 というところがあった。
 HTMLという言語は、簡単に作れて、簡単にテストができる。しかし、言語は命令通りにしか動かないのは、他の言語と同じだが、
「どこが悪いから動かないのか?」
 ということを教えてはくれなかった。
 一つ単語が間違っていたり、文章が足りなかったりするだけで、画面が真っ白になってしまって、何も映らないのだ。
 どこが悪くてそうなっているのか分からない。それを調べるには、
「ホームページの作り方」
 などという本を見たりすることで、理解しなければいけないのだが、これが結構難しかったりする。
 一週間くらい、ほぼほぼホームページの研究をして、やっと形になってきた。一回コツをつかんでしまうと、デザインさえしっかりできていれば、そこから先は結構早かった。数日で、ホームページが出来上がったのだ。
 それをアップして、ホームページとして公開したものをあゆに教えると、
「すごいじゃない。本当にできたんだ。ソフトも使わず、自分独自の作品を作れるなんて、本当にすごいわ」
 と言ってくれた。
 その時点で、遠山は有頂天になっていた。
「褒めてもらえて嬉しいよ」
 というと、
「本当に知り敢えてよかった」
 と、あゆは言った。
 メッセンジャーによる文字だけの会話だったが、有頂天になっている遠山は、もう文字だけでは我慢できなくなっていた。
「声が聴きたいな」
 と思い切っていってみたのだった。

                達成感とその果てに

 一瞬、戸惑っていたあゆだったので、
「ああ、余計なことを言ってしまったのかな?」
 と思い、
「いや、いいんだ」
 と気持ちを否定しようと思ったその時、
「いいわよ」
 と、あゆから返事が来た。
 遠山は礼儀として、あゆに自分の携帯電話の番号を教え、掛けさせた。もちろん、最初は非通知でいいということを言っておいてのことであるが、どちらも、ネットで相手と電話でつながる時の礼儀であった。
「それじゃあ」
 ということで、そうやって、非通知であゆから、電話がかかってきた。
「よしひこ?」
 と聞かれたので、
「あゆだね?」
 と優しく答えた。
 あゆの声は、想像していたよりも、低い声で、ハスキーだった。もちろん、緊張からか、声が若干上ずっているのは仕方のないことであったが、それ以上に抱きしめたい気持ちになっているのも事実だった。
 一瞬、
「やっぱりおばさんなんだな」
 と思ったが、上ずった声に吐息が混じっているのを感じると、ゾクゾクじたものを感じた。
 その瞬間、
「ああ、電話で話せてよかった」
 と思ったのだが、それは、自分が年下であるにも関わらず、文字の時はあれだけ甘えた感覚になっていたのに、電話ともなると、こちらの方がまるで年上であり、
「自分を慕ってほしい」
 あるいは、
「甘えてほしい」
 などと考えている自分に気づいたのだ。
 チャットでの自分が、本当の自分ではないことに、その時初めて気づいた。だが、年齢や経験値から考えると、完全に二人の関係は、
「純真無垢な男の子を、主婦のお姉さんが、優しくしてあげている」
 という感覚で、そのシチュエーションに、酔っていたのだ。
 これは、遠山だけではなく、あゆの方も同じだったに違いない。
 特に遠山は、ゾクゾクする感覚が、文字だけの会話だったので、きっと伝わっていないということにホットしていたのだ。
 だから、電話で話すなどという大それたことを考えもしなかったのだ、
 だが、いくら文字による会話であっても、情が移るというのか、次第に文字だけでは我慢できなくなってくる自分に気づいたのだ。
 それでも、電話に踏み切れなかったのは、自分が想像している甘い感覚が、壊れてしまったらどうしようという思いがあったからだ。
 声が想像と違っていたり、会話をしていて、彼女の話し方が、淡泊だったりすれば、幻滅してしまい、これまでネットで築き上げてきた、ネットの世界の中の自分をも、否定してしまうのではないかと思ったのだ。
 そう、ネットにおいての自分は、後戻りをする自分ではない。一歩踏み出したら、先に進むしかないと思っていたのだ。
 そもそも、遠山は、リアルな生活の中でも、
「後戻りなんかできないんだ」
 と思っていた。
 中学時代から、高校時代、そして大学時代と、それほど変わってはいない性格であるが、決して後戻りはしていないと思っていた。
 その間に、子供から大人になった。それだけでもすごい成長だと思ったのだ。
 成長というのは、男の子にとって、いかにすごいものなのかということを大学に入るまで分からなかった。
 しかし、それを教えてくれたのが、ネットの世界で、バーチャルがこれほど今まで自信のなかった自分に自信をつけてくれるかという感覚を持ったことで、余計に、ネットでの後ずさりは許されないと思うのだった。
 主婦であるあゆに対して、一歩踏み出した遠山は、後ろに下がることはできないと思うと、緊張と興奮で、我を忘れてしまっているのが分かるのだった。
「ねえ、もっとお話しして」
 と、あゆは言った。
 最初は何を言っていいのか分からなかったが、ここまでくると開き直るしかなかった。そもそも、声を聴きたいと言い出したのは自分ではないか。今さらそれを否定することは許されない。
「うん」
 というと、結構開き直った気分になった。
 何を話していいのか分からなかったが、遠山はまず自分のことを言わなければいけないと思った。
作品名:大団円の意味 作家名:森本晃次