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大団円の意味

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 彼には、電話であれば、そんな不思議な雰囲気を作り出すことができたのか、それとも、主婦としてのあゆの中に、そのような淫靡な香りが漏れていたのか、それを遠山には感じることはできなかった。
 だが、えいみとのリアルなセックスは、お金が絡んでのことだとはいえ、ネット上の二次元のような感覚ではなく、明らかに相手を感じることのできるものだからだ。
 電話では聴覚でしか感じることのできないものを、リアルであれば、五感すべてで味わうことができる。
「五感って、本当に素晴らしい」
 と、遠山は感じた。
 えいみがそれを教えてくれたのだと思うと、すぐに賢者モードも元に戻るように思えてならなかった。
 だが、さすがに二回戦を行うだけのことはなく、そもそも目的が童貞の卒業だったので、何とか卒業できたのはよかったことだ。ただ、あくまでも、
「素人童貞」
 を卒業できたわけではないので、半分くらいの気持ちだった。
 それでも、えいみを目の前にしていると、満足感が溢れてきて、彼女がまるで女神様のように見えてきた。そして、先輩が万能の神のゼウスのように思えてきたのは、大げさであろうか。
 実際に、その日はそれくらいの気持ちであり、特に時間がいっぱいになり、名残惜しい思い出えいみと別れてからは、先輩が出てくるのを、待合室で待っていた。
 最初に入った時は、本当に緊張からか、意識しているつもりで、ほとんど周りが見えていなかったような気がしたが。その待合室が思ったよりも、広いことを感じたのだった。
 客は、来た時と同じで、誰もいなかった。だからと言って、
「この店が流行っていないわけではない」
 と思っている。
 開店間際であれば、最初の客が、
「よーいどん」
 で、始まりは一緒だが、それ以降は客の選ぶ時間帯や、嬢が用意するタイミングで、時価がずれてくる。
 しかも、そんな状態で客が待合室で会うということは、それだけ店側が客を待たせているということなので、それは、流行っている流行っていない以前の問題で、店側に問題があるということになるのだ。
 それに、こういうところで客同士がかち合うというのは、客同士もあまり気持ちのいいものではないだろう。そこまで店側が考えているということであれば、逆に店の不手際を考えてしまったこちらが悪いということになる。
 冷静に考えて、
「あの先輩が連れてきてくれる店なのだから、そんな変な店ではないだろう」
 ということであった。
 それを思うと、流行っていないということはないと思えるし、その証拠に、待合室に設置されている灰皿を見ると、吸い殻が結構溜まっていたのだ。
「もっと頻繁に掃除すればいいのに」
 と、嫌煙家としては、そう思いたくなるほどであった。
 しかし、逆にそれだけ待合室に人が満遍なくいるということなのかも知れない。それを思うと、あまり余計なことを考えてはいけないとも思った。
 これは、最初に呼ばれる前から気づいていて気になっていたのだが、それが、雑誌やマンガが置かれているところに置かれていた。この店の女の子のアルバムであった。
 紹介アルバムのようなのだが、きっと、ここの受付で女の子を選ぶ時に見せてもらった写真のようなものを、メンバー全員が入っているのだろう。
 最初の受付で見せてもらったものは、今すぐに入れる女の子の写真だけのはずなので、店の女の子のごく一部のはずである、
 待合室にも、数人の写真がパネルになって貼られているが、それは、イベントの宣伝写真として作られたものだろうから、きっと、人気のある女の子ばかりなのだろう。
 ちなみに、そういう人気がある女の子を、
「ランカー」
 というようだが、それも後で先輩に教えられた。
 まず最初にアルバムを開くと、そこには、ランキングが出ていた。このランキングの高い順のベストスリーなどをランカーというのだと、言葉を先輩から聞いてすぐにピンとは来たのだ。
 そのランキングの最初に書いてあるのが、
「本指名ランキング」
 ということであった。
 そういえば、待合室に書かれている料金のところに、指名料の下にさらに本指名と書かれていて、本指名料はさらに千円高かった。
「これっていったい何なんだろう?」
 と思い、今度は思い切って、店員さんに聞いてみた。
 すると店員さんは、気軽に教えてくれた。まるで常連さんの相手をしているかのような親しみが籠っていて、温かみを感じさせた。
「本指名というのは、一度お遊びいただいた相手を、再度、ご指名いただいた場合です」
 というではないか。
 その時は、それだけ聞くと、
「ありがとうございます」
 と言って答えたが、先輩に後で再度聞くと、
「それはね。リピーターが多いと、それだけ女の子のランクが上だということだろう? だから、女の子が店の影響に貢献するわけだから、女の子の歩合給になるわけなんだよ。そうしておけば、女の子だって頑張ってリピートしてもらおうと、一生懸命に頑張るし、店にとってもありがたいことだからんえ」
 というのだった。
 さらに先輩は続けた。
「店側とすれば、フリーの女の子、指名料をもらわずに、相手を選ばずにランダムでしか選ばれない子にだって、チャンスを与えなければいけない。だから、フリー限定などという割引サービスだってあるんだ。そうしないと、女の子がどんどん辞めちゃうことになりかねないからね」
 というのだった。
 実際に、こういう業界の女の子の入れ替わりは激しいらしい。同業の店で気が付けば働いているなどということは、日常茶飯事だという。
 そんなソープランドの豆知識も教えてもらっていると、実に楽しくもなるのだが、その時の待合室で見た写真というものが、印象としては、ハッキリと残っていたのである。
 その中に、若干、気になった女の子もいた。気になった女の子の中には、
「大学キャンパスで、たまにすれ違う気になる女の子」
 に似た子の写真を見つけたのは、少し感動ものであった。
 もちろん、他人の空似なんだろうと思ったが、どうしても気になって仕方がなかった。
 それを見た時、ひそかに、
「今度はこの子にしてみよう」
 とすでに、次回のことを決めていた。
 その子の印象は、そんなに目立つ女の子ではないということだった。
 大学ですれ違っても、挨拶すらしてくれない子で、知り合いの中にいたとしても、一度無視されてしまうと、怒りを覚えるよりも前に、
「知り合いの中に、あんな子いたのか?」
 ということすら、意識しないくらいの子であった。
 ということは、まわりが見て印象が薄いというだけではなく、彼女自身が、自ら気配を消しているのではないかと思えるほどだったのだ。
 実際にそんな気配を消していると、却って意識される子だっているだろう。特に大学生の男女が大学キャンパスですれ違うのである。お互いに、どこか少しでも印象に残れば、相手が気配を消そうとしても、その感覚を意識しないわけにもいかない。
 つまりは、遠山の発想として、
「自ら、光を発しない星」
 というイメージを頭の中に持ったのだ。
 以前、高校の科学の授業で、先生が脱線する中で、
「宇宙には、想像もできないようなことがあるんだけどね」
 という前置きの中で。
作品名:大団円の意味 作家名:森本晃次