大団円の意味
「人間というのは、緊張している時ほど、自分を客観的に見ようとして、普段考えていることを、その時はまったく違う背景なのに、考えてしまうということが往々にしてあるのかも知れないな」
と先輩も言っていたが、今まさに、通路を女の子に手を引かれながら歩いていると、そのような感覚を覚えたのだった。
「くらいですから、気を付けてくださいね」
と言われたが、確かに暗いとは思ったが、彼女の服が光っているように見えて、それほど暗いとは思わなかったのだ。
「こちらです。どうぞ」
と言われて中に入ると、なるほど、彼女が暗いですからと言った理由が分かった気がした。
明らかに中は明るかったのだが、目が慣れてくると、そんなに明るいという感じがしなかったのだ。
「お客さんは、初めてなんですね?」
と言われたので、ちょっとびっくりして、
「あ、ええ、そうなんです。でもよく分かりましたね?」
というと、
「ええ、実はね。お客様の先輩さんから頼まれたんですよ」
「えっ、どういうことなんですか?」
「自分の後輩に童貞君がいるから、筆おろしをしてやってくれってね」
「それをあなたに?」
「ええ、そうなの。だから、女の子を選ぶ時、先輩は私を選ぶように、リードしていなかった?」
と聞かれて、
「まさしく、その通りだ」
と、思うと、何やらやられt感があったが、決して悔しいという思いや、してやられたという思いもなかった。
しいていえば、
「もう、しょうがないな」
と言って、苦笑いをする感じであろうか。
これも一種のサプライズだと思えば。腹も立たないのであった。
「私もね、先輩の気持ちもあなたの気持ちも分かる気がするの。分かりたいって思っているからなんだろうって思うんだけど、ソープランドって聞くと、皆さん、いかがわしいお店というイメージがあると思うんだけど、別にやっていることは、誰だってしていることじゃないですか。ただ、そこにお金が絡んだりするので、恋愛という純粋な感情を正義のように感じている人には分からないでしょうけど、私たちだって、お客様と、一定の時間、恋愛をしていると思って、その思いを感じて帰ってもらいたいと常々思っているんですよ」
とえいみは言った。
その言葉を聞きながら、次第にえいみの身体が密着していって。服が脱がされていく。
まるで夢のような時間がここから繰り広げられるのだが、もちろん、そのすべてが初体験だった。
誘導されながら感じる快感は、想像以上のもので、
「どうして、今まで来ようと思わなかったのだろう?」
と感じたくらいだ。
確かに彼女の言うとおり、彼女が寄り添ってくれる快感は、何と表現していいのかと考えてしまった。
「そうだ。癒しだ」
と感じた。
今まで癒しという言葉はよく聞いていたが、その癒しとはどういうものなのかを想像だけはしたことがあった。だが、その癒しを誰が与えてくれるのかということになると、まったく分からなかった。
「恋人ができれば、彼女が与えてくれるのだろうか?」
と思ったが、そんな話を誰からも聞くことはなかった。
最初は、
「皆恥ずかしがって言わないだけではないか?」
と思ったが、別に悪いことではないのに、それを言わないという方が違和感があるというものだ。
それを思うと、恥ずかしさというものが、何なのか、考えさせられるのだった。
石ころのような存在
恥ずかしさがこみ上げる中、えいみのサービスが続いていく。マットの上で、すでに感覚がマヒしてしまったので、ベッドに行ってからは、最後には何が起こったのか分からないくらいであったが、最後は頭の中が真っ白になりながら、腰から下が、快感で小刻みに震えているのを感じた。
「これが、セックスというものか」
と思うと、少し味気ないものを感じた。
それは、相手を風俗嬢だと思っているからかも知れないと感じた。これが好きになった相手であれば、愛情が入ってきて、もっと自分の奥にある感情が醸し出されるのではないかと思うのだった。
そう思うと、感覚がマヒしている思いが、味気なさに変わっていき、脱力感をいかに憔悴させないようにすればいいのかと考えさせられた。しかもここから罪悪感などを感じてしまうと、せっかく連れてきてくれた先輩に対して失礼だった。
ここで罪悪感を感じるということは、完全に気持ちが冷めている証拠であり、この状態で先輩に会ってしまうと、気持ちのままの態度が表に出てしまうと思ったからだ。
だからと言って、決して、えいみさんが悪いというわけではない。えいみさんは、精一杯のサービスをしてくれたのだと思った。
実際に途中までの快感は、
「また味わいたい」
と思うほどだった。
しかし、最後、我慢できずに快感を放出した時、一気に身体から湧きおこる脱力感が、どうしていいのか、最後には、余韻も確かにあった。震えも快感だったはずなのに、
「果ててしまうと、こんなものなんだ」
と、思うのだった。
果ててしまうと、脱力感が罪悪感に結びついてくるのは分かっていた。ただ、それは、虚しい行為によるものだと思っていたので、相手がいれば、違ってくると思っていたはずなのに、この感覚は残念でしかなかった。
だが、そんな自分を受け入れてくれたえいみだったが、彼女にはどこまでその時の遠山の気持ちが分かったというのだろう?
彼女もプロとして、今までに何人もの童貞を相手にしてきたことなので、分かっていることだろう。
そういえば、待合室で待っている時に。先輩が言っていた。
「自分が童貞であることを隠そうなんてしなくてもいいんだよ。隠そうとしても、相手には見抜けれていることだろうし、だけど、隠そうとしている姿を見て、かわいいと思う女の子もいるからね。でも、必要以上に隠そうとしなくてもいいんだ。どうせバレルなら、最初から童貞だといっておけば、彼女も喜んでくれるはずだよ。何しろ初めてを自分がもらえると思っただけで、何かご褒美をもらえた気がするその子は、一生懸命にいい思い出を作ってあげようとするはずだからね。それに、女の子の気持ちであったり、男性にはなかなかわかりにくいところを教えてくれたりするので、会話の中からでも、いろいろと勉強になるはずだからね」
と言っていた。
「なるほど、だから先輩は、このえいみさんをあてがってくれたんだ。確かにえいみさんは素晴らしいと思うし、先輩の心遣いが感じられる分、本当にえいみさんでよかったと思えるのだが、最後のこの憔悴感はいかんともしがたいな」
と思うのだった。
この憔悴感というのは、どうしようもなかった。だが、この憔悴感というもの、本来の意味とは少し違っている。実際の憔悴感というものは、
「気がかりなことや疲れ、病気などによって、痩せて衰弱すること」
のようである。
果ててしまって、気がかりに思うというのは、その通りなのかも知れない。気がかりというよりも、不安や寂しさのようなものがあるからではないだろうか。そういう意味では、確かに違っている。
「この場に似合う言葉ってないのだろうか?」
と思っていると、以前聞いた言葉に、それにふさわしいものがあった。
最初は、