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大団円の意味

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 と、遠山は思ったが、こればっかりはどうしようもないと思うのだった。
 そんな様子を先輩は話をしながら気にしていたのだろう。その日、友達と別れて先輩と一緒になった時、言われたのだ。
「相変わらず、歴史が嫌いなようだな」
 と言われて、苦笑いをしながら、
「ええ、勉強全体があまり好きではないんですが、特に歴史となると、まったくダメなんですよ。暗記しないといけないと思うと、どうもダメで、歴史が好きな人の気が知れないというか……」
 と、言葉を選びながらではあったが、完全に歴史というものをディスっている状態だったのだ。
 それを見た先輩はため息をつきながら、
「あのな、歴史って、別に暗記の学問じゃないのさ。それに、学問と言えば学問なんだけど、クイズのようなものだと思えば、楽しいと思えるんだけどな。だって、知っているだけで、まわりから尊敬のまなざしが得られるんだぞ。もっとも、本当に歴史が嫌いだという人にはその尊敬が分からないかも知れないが、少しでも歴史に興味のある人は。博学な人を見て、自分もあんな風になりたいって。思うんだよ」
 というのだった。
「そんなものかな?」
 と、少し投げやり風にいうと、
「そんなもんだって、人から知っているだけで尊敬のまなざしを受けるんだぞ。こんなに楽しいことってないだろう?」
 という先輩の話を聞いて、なるほどとは思ったが、その時はまだ、実感が湧かなかった。
 だが、あれは、キャンバスの中で、その歴史の好きな友達と一緒にいた時、あれは、私学食内だったと思うが、数人の団体がいて、一人が歴史の話をしていた。
 明らかに知ったかぶりな様子で話をしているのだが、まわりの人は、
@うんうん」
 と言って、その話を聞いている。
 遠山は、それを違和感なく見つめていたが、友達は、次第に身体が小刻みに震えているのを感じた。
「どうしたんだろう?」
 と思っていると、どうやら、笑いをこらえているようだった。
「何をそんなに堪えているんだい?」
 と聞くと、彼は小声で、
「だってさ、あの男の言っていること、実はでたらめなのさ。いかにももっともらしいことを言っているけど、どうも、少し話がずれているんだよ。知らない人がきけば、辻褄があっているように聞こえるけど、実はでたらめなのさ」
 というではないか。
「どうしてそういうことになるんだい?」
 と聞くと、
「歴史というのは、絶えず研究され続ける学問なんだよ。発掘や考古学の研究もおこなわれたり、歴史の研究はどこの大学でもやっている。そのため、最近では、いろいろな発見が行われていて、今までの定説が、実は違っていたなんてこと、今ではざらなんだよ。例えば、聖徳太子は名前が違っていたとか、他の人でも残っている肖像画は時代背景から、その人ではありえないとか。有名なところでは、鎌倉幕府の成立年が、今は、いいくにつくろうではないんだ。面白いだろう?」
 というのだ。
「なるほど、歴史はどんどん上書きされていくので、それについてこれなくて、自慢げに話しているのは、実に滑稽な光景に見えるということだね?」
 と聞くと、
「ああ、そういうことになるね」
 と、友達はいうのだった。
「なるほど、そうやって考えると、歴史って面白いね」
 というと、
「歴史の面白さはそれだけじゃないんだ。特に最近はテレビや本でも、歴史に対してのいろいろな切り口から製作されたり、著作されたりしているものがあるからね」
 と言われ、
「それってどういうものなんだい?」
「例えば、一つの瞬間を逆にたどって、どうしてそうなったのか? という視点から逆に見るやり方。さらに、敗者という側面から、戦争や歴史を見るというやり方。そういうものが結構あったりするんだよ」
「なるほど、逆説という意味でたどってみるというのも楽しいかも知れないね」
「君の場合は、科学的なことに興味はあるようなので、タイムパラドックスなんかに興味あったりするだろう? それだって一種に歴史のようなものなんじゃないか?」
 と聞かれたので、ここは、遠山の持論を口にした。
「俺の場合は少し違うんだ。あくまでもタイムパラドックスというのは、自然現象のようなもので、歴史とは違う気がするんだよね。歴史って、人が作るものじゃないか、作為的なものがあるというか、科学で解明できるものではない。俺は、タイムパラドックスは自然現象なので、科学で解明できると思っているんだよ。だから、人間が作り上げてきた歴史というものに、抵抗があるのかも知れないね」
 と言った。
 これは今まで実際に思っていたことではなく、友達と話をしている時に思いついたものだった。それだけに。余計に興奮が激しく、激論になっていたのかも知れない。
 それを聞いた友達も、
「そうかそうか、そこまでは考えたことはなかったな。今の話には、僕もちょっと感銘を受けた気がするよ」
 と、言って、彼も興奮しているようだった。
「だから、歴史にあまり興味を持っていないというのが、本音なのかも知れないな」
 と、今思いついたことなのに、いかにも歴史に興味がない理由にしてしまったところは、少し悪賢かったと、感じた遠山だった。
「でもね、歴史って、人間が作ったものなのだろうけど、すべて人間の意志でできあがったものではないだろう? 偶然の積み重ねが今の時代を作っているのであって、君だって、今までに偶然のなせる業だと思ったことがたくさんあったと思うんだ。それを自然現象ではないと言い切れるかい?」
 と言われて、
「確かにそうかも知れないな。世の中に起こることは、必然もあれば、偶然もある。どちらも歴史であって、それを人間一人一人に当て嵌めると、それが人生だということになるんだろうな」
 と、遠山がいうと、
「そうだよ。その通り、騙されたと思って歴史を勉強してみるといい」
 と言われ、どんな本を読んだりすればいいのかを教えてもらって、読んでみると、結構興味深いことがたくさん書かれていて、いつの間にか、歴史に嵌っていた。
 教養を自分で身に着けるというのは、快感となるものだ。しかも、教養は身に着ければ身に着けるほど、どんどん増えていく。それだけやりがいもあるし、教養が増えていけば、考え方も多種多様になり、人生の見え方が新しいものになってきたような気がするのだった。
「歴史の勉強って面白いだろう?」
 と言われ、
「ああ、騙されてみてよかったよ」
 と言って、笑って話せるようになるまでに、数か月くらいのものだった。
 それだけ、本を読む時間を毎日のように決めて読んでいると、次第に、その時間が一日に占める割合がどんどん深くなっていく。
 最初は一日意時間くらいだったものが、今では四時間になった。しかも、集中しているので、四時間と言っても、二時間くらいの感覚だ。その分、一日があっという間に過ぎるのであるが、不思議なことに、一週間であったり、一か月という長い期間になると、想像よりも長く感じられるのだった。
 それだけ今までの感覚から正反対になってきたということであろう。
 先輩のことを思い出していると、自分が歴史を好きになった時のことが思い出された。
作品名:大団円の意味 作家名:森本晃次