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大団円の意味

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 そんな遠山は、中学時代までは、アニメの女の子を好きになったりしていた。
 今でいえば、二次元を好きになるという感覚なのだろうが、決まって、それはセーラー服の女の子だった。
 少女漫画なども見ていたが、意外と少女漫画というのは、かなり過激なものも多かったりする。
「これじゃあ、AV顔負けじゃないか」
 と、クラスのモテない連中と、卑猥な話をしたりしているところに、いつも、遠山は入っていて、そこに誰も違和感を抱くことはなかったのだ。遠山自身も、
「俺って、結局、えっちな話に興味を持っているだけの、悶々とした毎日をただ何も考えずに生きているだけの、中学生にすぎないんだ」
 とばかりに、諦めの境地だった。
 それが、高校時代もずっと続き、
「どうせ、大学に入ったら、先輩が、風俗に連れていってくれて、そこで、めでたく童貞喪失することになるんだろうな」
 と思っていた。
 そんなことを考えていたのに、まさか、ネットで知り合った主婦と、このような関係になるとは思ってもみなかった。
 相手が、まさか離婚を考え、その責任をこちらに押し付けようと思っているなどと知りもしないので、完全に童貞ボーイが、主婦に踊らされているという状況になっていた。
 だが、そのうちに、その奥さんが、またしても、何だかんだと言い訳をして、会話をしようとしなくなった。
「奥さんも、さすがに、罪悪感に見舞われているのかな?」
 と、余計な道に引っ張り込んでしまったということで、遠山は自分を責めた。
 だが、実際には、後で他の人、ネット仲間に聞いた話であるが、
「あゆは、最近不倫をしているらしいんだよ。それも、ネットで知り合ったじゃなくって、出会い系だってことなんだ。あっ、出会い系もネットと言えばネット化」
 と言っていた。
 遠山にとってはショックだった。
「俺という男がいるのに」
 という思いもあったが、リアルではない状態で、しかも、こちらは童貞なのだ。
「あゆは、きっと、俺に飽きたんだろうな」
 と思った。
 それであれば、理屈は分かる気がする。
 あくまでも、遠山に対しての態度は、軽いつまみ食いにしか過ぎなかったのだ。
 ネットという今までにない経験が、きっとあゆを有頂天にさせたのだろう。
 それは、遠山にしても同じで、相手がどんな人間か分からないところが、魅力であり、何とでもなると思っていたのだろう。自分の本名も何も、個人情報が分からない。連絡先だって、電話番号を変えてしまえば、それでおしまいなのだ。
 もっとも、どこまで仲良くなったかによっても変わってくるが、二度と連絡を取らなくてもいいと思った相手であれば、簡単に切り捨てられる。相手だって、同じ立場なのだし、他に誰かまた見つければいいだけなのだからである。
 それを思うと、あゆが、自分を見捨てたとしても、それは仕方がないことだとは思ったが、そう簡単に見切りをつけられるほど、淡泊ではなかった。
 理屈では分かっていても、その感情をどのようにすればいいのか分からない。
 つまり、はけ口が見つからないのだ。
「俺は見捨てられたんだ」
 と、思ってしまった。
 ただ、あゆとの、最後の方での電話によるえっちな会話は、そう簡単に忘れることはできなかった。
 それを、恋愛感情と一緒に結び付けて考えてしまうと、どうしようもなくなる。
 今度は、遠山が鬱状態に陥った。今まで鬱状態に陥ったということを感じたことはなかった。
 前にも落ち込んで、立ち直るまでに半年近くかかったこともあったが、それが鬱だったという意識はなかったのだ。
 今回は、自分で、
「初めての失恋だ」
 と思っているので、長くても仕方がないと思っている。
 ただ、これは別に失恋ではない。本当に愛していたということなのか、時間が経つにつれて、曖昧になってくる。
「こんな感情が恋愛だったとすれば、恋愛なんかしたくない」
 とまで思ったほどだった。
 自分が好きになった相手が、主婦だというのは、別にしょうがないことだとは思うのだが、相手が、こちらをあしらったと思うと、いらだちが沸いてくる。さすがにまさか、自分に責任転嫁をしようなどということまでは分かるはずもないので、それを分からないうちに、相手を恨むというのは、ある意味、よかったのかも知れない。
 さすがに、苛立ちに任せて、すぐに、
「童貞を失いたい」
 と思うようなことはなかったが、今の遠山を見て、ひとりの先輩が気にかけてくれているようだった。
 その先輩は、高校の時に、家の近くに住んでいた人で、家族ぐるみの付き合いだったのだが、大学に入ってから、結構、遊んでいるというような話を聞いた。
 遠山がまだ童貞であるということも知っていて、
「俺が卒業させてやるぞ」
 と言われ、それを聞いて、いつも苦笑いをしていた遠山だった。
「ありがとうございます」
 ととりあえず、いつも答えていたのだ。
 遠山が、あゆに対して感じていた思いが、本当のあゆのかんが絵のどれほどだったのかということは、それ以降お互いに話すこともなかったので、よくは分からないが、すでに遠山があゆに対して、感情を戻すことはなかった。むしろ、
「俺は、あんな女、好きだったわけでもない。ネットというバーチャルな世界に、酔っていただけなんだ」
 と思うようになっていた。
 考えてみれば、あゆとえっちな電話をした後、罪悪感に苛まれていた。その思いは、あゆと離れることになって、やっと感じたのだ。それほど、あの電話に対して、感覚がマヒしていて、バーチャルによっていたといってもいいのかも知れない、
 その気持ちを、遠山は自分の中で、
「バーチャルリアリティ」
 と呼んでいた。
 その呼称は、勝手につけたもので、その名の通り、
「バーチャルなのに、やたら、リアルだ」
 ということで、バーチャルだと思えば、リアルな感覚を持っていたということであり、リアルにしては、感覚をマヒさせるようなものだというような感覚であるが、一番の問題は、
「感覚をマヒさせるくせに、罪悪感を意識させるというほどの、後味の悪さが印象深いと感じるほど、さぞや気持ちの悪いものだったに違いない」
 ということだったのだろう。
 そんな、バーチャルリアリティの状態から目覚めたことは、いくら他力だったとはいえ、よかったのだろう。
 しかし、なぜあゆが急に自分を毛嫌いしてしまったのかということを、どこまで気にするかということが問題なのだろうが、遠山の気持ちがすでにあゆにないことが分かっているので、それほど気にすることはない。
「すでに、あゆにない」
 というわけではない。
「最初からなかった」
 ということなのだ。
「しょせんは、バーチャルリアリティな世界」
 ということであり、好きでもない女を好きになったということ、そして、それはバーチャルであったことから、想像力だけが発揮され、それが、いかに妄想そのものであったのかということに気づけたのはよかったといってもいいかも知れない。
 そんな中においても、まるで失恋したかのような憔悴感に襲われている。この思いは、表に出してはいけないものなのだろう。
「どうしたんだ? そんなに落ち込んで」
 と聞かれて、答えられるものではない。
作品名:大団円の意味 作家名:森本晃次